キャリアパスとは?|意味や注目の背景、制度設定の注意点などを紹介

更新:2023/09/26

作成:2023/05/28

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

キャリアパスとは?|意味や注目の背景、制度設定の注意点などを紹介

キャリアパスとは、組織内におけるキャリアの道筋を示したものです。近年では、個人のキャリア意識が高まり、また、組織にも従業員のキャリア自律支援が必要となるなかで、企業におけるキャリアパスの整備と公開などは基本事項となっています。

 

本記事では、まず、キャリアパスの概要と重要性が増す背景、導入すべき理由と導入メリットを確認します。確認したうえで、実践編として、キャリアパスの設計方法とポイントを紹介します。

 

<目次>

キャリアパスとは?

キャリアアップする女性のイメージ図

 

キャリアパスとは、企業が従業員に対して描けるキャリアの道筋を示したものです。具体的には、昇格や作れるキャリアの選択肢、昇格の必要スキル・経験などを示すことで、「こういうポジションでこういう経験をすれば、次に、こういうポジションになれる可能性が開けてくる」ということをわかりやすくしたものになります。

 

キャリアプランとの違い

キャリアパスが企業から従業員に示すものであるのに対して、キャリアプランは、従業員が自らの将来を考え、自分で設計するものです。キャリアプランは、いわゆるライフプラン(人生計画)の一部です。キャリアプランやライフプランは、企業のキャリア研修などの中で作成することも多いでしょう。

 

キャリアプランの場合、具体的には、中長期的にどういうキャリア(所属、役職、経験、待遇など)を築いていきたいか。また、描いたキャリアプランの実現に向けて、「どのような行動をすべきか?」ということも、プランに含んで表現することもあります。

 

 

キャリアパスの重要性が増す背景

PCとスマホを使うビジネスマン

 

キャリアパスの重要性が増している背景には、終身雇用や年功序列の崩壊が大きく影響しています。

 

かつては、日本のキャリアは「大学の卒業後に新卒の一括採用で企業に入り、ある程度の年齢に達すれば、年功序列の人事制度によって係長や課長などに昇進できる」といったイメージでした。そのため、個人が主体的にキャリアを作るというよりは、企業内でエスカレーター式にキャリアアップしていくといった受け身な意識が強くありました。

 

しかし、近年では、終身雇用と年功序列の両方が崩壊し、転職が当たり前の世の中になっています。また、仕事の専門性が増す中で、いわゆる“管理職”を目指すのではなく、“特定分野のスペシャリスト”としてキャリアを作る選択肢も増えています。

 

スペシャリストのようにキャリアの選択肢が増えた、また、企業として社内で描けるキャリアを示すことで若手や優秀層を引き留め、モチベートする必要が出ています。引き留めにともなって、キャリアパスを明確にして、公開する必要性が増しているわけです。

 

 

なお、終身雇用の崩壊と何度かの不況を経て、個人にも「企業は自分のキャリアや人生を保証してくれない」という認識が浸透したなかで、「自分がこの組織でどういうキャリアを描けるか?」「自分が望むキャリアを実現するためにはどうすればいいか?」というキャリア意識は若手層、優秀層を中心に確実に高まっています。

 

したがって、企業側がきちんとキャリアパスを示せないと、人材育成や従業員の定着、採用活動をするうえでネガティブに働きます。近年では、こうした背景から、働く人の興味関心、企業の必要性という両方で、キャリアパスの注目度が増すようになりました。

 

 

キャリアパス制度を導入すべき理由と導入メリット

企業がキャリアパス制度を導入すると、以下の効果・メリットが生まれます。

 

社員のモチベーション向上

キャリアパス制度を導入すると、企業は、たとえば、「○○プロジェクトのなかで経験を積んで、このスキルを習得して、これだけの実績をあげると、○○部門のリーダーに昇格できるよ」などの明確な道筋を示せるようになります。

 

従業員にとっても、「いまの企業でどのようなキャリアを描けるか?」という展望をイメージしやすくなるでしょう。また、キャリアパスの把握・理解は、自分が希望するキャリアを実現するために必要な経験・スキルを、自発的に学ぶことにもつながります。

 

結果として、自分のキャリアを描くために高いモチベーションで仕事ができるようになるでしょう。

定着率の向上・離職率の低下

前述の通り、キャリア自律の意識は若手層、優秀層を中心に確実に高まっています。意識の高まりの中で、「社内でどのようなキャリアを描けるのか?」「どうすれば次のステップに進めるのか?」が示されていないと、意欲が高い層ほど離職しやすくなります。

 

公平性・透明性の高いキャリアパス制度を開示することでは、モチベーション向上と同じ理由で定着率の向上や離職率の低下につながります。

 

採用力の向上

キャリアパス制度の整備は、向上心や自発性の高い人材を獲得するうえでも非常に役立ちます。たとえば、自社の採用サイトや企業セミナーなどでキャリアパス制度を紹介すれば、「25歳までに課長になりたいし、絶対になる!」などのやる気のある人材ともつながりやすくなるでしょう。

 

また、キャリアパスを通じて、「これだけの経験・スキルを身につければ、課長になる。課長に昇格すると、年収600万円になる。」などの待遇に関する具体的な話ができると、求職者が入社したあとの「こんなハズじゃなかった!」というリアリティギャップも起こりにくくなるでしょう。

 

 

キャリアパスの設計方法

前に進むビジネスマン、ミニチュア

 

キャリアパス制度を導入するときには、以下の流れで自社の仕組みを設計していきましょう。

組織ビジョンの構想

キャリアパスは、自社の組織ビジョンに紐づくものでなければなりません。本章でいう組織ビジョンとは、中長期的に成し遂げたい以下2つのことになります。

  1. どのような組織を作りたいのか?
  2. 目標の組織をつくるために、どういう人材を獲得・育成したいか?

 

たとえば、管理職の平均年齢が40代の組織があったと仮定します。40代の組織で、管理職の平均年齢を30代まで下げるには、自社の管理職に必要なスキル・資質を持つ人材を獲得し、かなり早く育て上げる必要が出てくるでしょう。

 

また、市場で通用する専門性を持ったスペシャリストが多数在籍する組織にしたいと考えるなら、管理職とスペシャリスト、それぞれに向けた昇格や人事評価制度を整備する必要があるでしょう。

 

上記のようにキャリアパス制度を作成するうえでは、組織ビジョンを考えてみることが非常に大切になってきます。

等級制度の整備

大枠のイメージが見えてきたら、まず、組織に求められる階層と、それぞれの業務内容を明確にします。明確にしたうえで、各階層の業務に必要なスキル・知識・経験などを洗い出していきましょう。

 

階層は、主任・係長・課長・部長などの役職=ポジションで設定するのがわかりやすいでしょう。

 

ただし、“新任の課長”と“部長になる一歩手前の課長”では、求められる役割が当然変わってきます。そのため、“課長”という大きな括りで一つの階層にするのではなく、たとえば、課長の役職をいくつかの等級に分けたほうが適切な教育支援などもしやすくなるでしょう。

 

人事評価制度の整備

次に、等級制度と人事評価制度を連携させます。具体的には、最初に明確化した組織ビジョンからブレイクダウンするイメージで、「どういう仕組みを採用するのか?」「何をどのように活用するのか?」などを決めていきます。

 

人事評価の項目は、企業から従業員へのメッセージです。

 

極端な話、たとえば、営業部門の評価項目を、売上などの数字だけにしたと仮定します。もちろん、営業成績が重要であることは間違いありませんが、売上の数字だけで評価されるとなれば、「短期的に自分の売上をどうあげるか?」だけに従業員の意識が向かってしまうでしょう。

 

結果として、チームワークや中長期的な種まき、顧客との信頼関係などがないがしろにされてしまう可能性も出てきます。こうした問題を防ぐためにも、人事評価制度の項目や基準は、慎重に決める必要があります。

給与制度の整備

人事評価制度と給与制度を連携させます。給与制度を考えるうえでは、市場相場を意識した給与制度にする必要があります。

 

近年では、転職が当たり前になり、雇用が流動化するなかで、従来よりも転職のハードルは圧倒的に低くなっています。リモートワークが浸透したことも拍車をかけています。

 

そのため、優秀な人材を獲得する、また、自社につなぎ留めるうえで、市場相場と同等もしくは同等以上の待遇を実現する重要性が増しているでしょう。今まで年功序列で給料や待遇を決めてきた場合、今後の採用力を上げるためにも、給与制度の再整備は特に重要となってきます。

 

制度の周知

新しいキャリアパス制度を導入すると、従業員が課長などの職位を目指したり、給料アップを狙ったりするうえで、努力すべきポイントが明確になってきます。キャリアパス制度を設計したら、従業員に制度の目的や内容をきちんと説明し、理解・納得してもらうことが大切です。

研修の実施

キャリアパス制度は、導入すればOKではありません。新しい制度に基づいた評価や人材育成、組織づくりを進めていくには、現場の従業員を指導・評価する“評価者”の視点や価値観を変えることが大切になります。

 

制度の公正さを担保し、効果性を高めていくにも、評価者教育も必要です。評価者教育は、たとえば、以下のような内容になります。

  • 新キャリアパス制度の趣旨やコンセプト
  • 目標設定の意味と方法
  • 評価で生じやすいバイアス
  • フィードバックのやり方・ポイント

 

評価者教育の具体的ポイントは、以下の記事をチェックしましょう。

また、従業員向けにも研修は必要です。新しいキャリアパスに基づく昇格研修、また、キャリアパスを考えてもらうためのキャリアプラン研修などです。

 

 

まとめ

キャリアパスとは、企業が従業員に対して描けるキャリアの道筋を示したものです。

 

終身雇用や年功序列が崩壊して、雇用の流動化が起こり、また、個人のキャリア意識も高まっています。こうしたなかで、キャリアパスを整備し、従業員に対して描けるキャリアプランや望むキャリアプランを実現するためのステップを示すことは、非常に大切になっています。

 

キャリアパスを整備して公開することには、社員のモチベーションや定着率の向上などにつながりますし、採用力にもつながってくるでしょう。

 

企業がキャリアパス制度を導入する際には、以下の流れで制度設計を進めていくとよいでしょう。

  1. 組織ビジョンの構想
  2. 等級制度の整備
  3. 人事評価制度の整備
  4. 給与制度の整備
  5. 制度の周知
  6. 研修の実施

 

なお、キャリアパスと近い概念に、キャリアラダーというものがあります。キャリアラダーとは、従業員のキャリアアップを促すキャリア開発プランのことです。キャリアパスの設計と併せてキャリア開発の仕組みづくりをしたい人は、以下の記事をご覧ください。

 

 

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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