通年採用で生じる課題とは?採用指針の廃止を決めた経団連の意図と対応のポイント

通年採用で生じる課題とは?採用指針の廃止を決めた経団連の意図と対応のポイント

2018年10月、経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)の中西会長が「2021年度以降に入社する学生を対象とした採用指針は策定しない、経団連主導の就活ルールは廃止する」と宣言。そして、半年後の2019年4月、経団連と大学側が新卒の学生の就職活動について「通年採用」を広げていくことで合意したと報道がありました。

 

日本経済新聞でも一面で大きく取り上げられて話題になった「通年採用」という言葉ですが、さまざまな報道の中で誤解されている側面もありますし、発表内容と実態で大きなズレも生じています。

 

記事では、通年採用の本来の意味、起こっている実態、採用における今後の課題について解説します。ぜひ参考にして、新卒採用の成功に繋げてください。

 

<目次>

通年採用とは?

まずは、最近取り上げられることが増えた「通年採用」という言葉の意味を確認しておきましょう。

 

 

本来の通年採用とは

経団連と大学側との間で合意された「通年採用」は、9月卒業の学生、海外留学(6月卒業が一般的)から帰ってきた学生、公務員試験からの転向者、既卒者等、現在の3~6月におこなわれる一括採用のスケジュールでは活動しにくい層のミスマッチを防ぐことが目的です。

 

通年採用という字の通り、期間を定めることなく、年間を通じて採用活動をおこなうことで上記のような候補者への門戸を広げる意味合いがあります。中途採用では、当たり前のように“通年採用”がおこなわれていますが、それを新卒採用にも広げようということです。一部、「通年採用によって採用活動の早期化が進む」といった報道もありましたが、これはまったくの誤解です。

 

 

合意の効果はかなり限定的

一方で、日本における新卒採用では、大手求人サイトが母集団形成において、大きな力を持っています。今回の通年採用において、とくに大手求人サイトのオープン時期が変わるわけではありません。そのため、母集団形成をおこなう時期は変わらないでしょう。

 

採用企業において、母集団形成の時期をずらす、通年採用だからといって3~6月の時期に採用枠を埋めきらないといった選択はリスクが高く、通年採用の合意は、実質的な効果はかなり限定的なものになることが予想されます。

 

リーマンショック後の2020年、政府が主導して、新卒採用において「卒業3年以内は既卒者を新卒採用の対象に加える」ことを、経団連をはじめとする企業に要請しました。そこから僅か1年で、経団連加盟企業の過半数が、卒業3年以内既卒者を新卒採用の対象に加えました。しかし、実際に「新卒採用枠」の中で既卒者が採用されたケースは非常に限定的です。

 

通年採用の合意に関しても、例えば、形としては「新卒採用におけるエントリー時期を通年とする」ことが普及する一方で、実質的な運用はかなり限定的になることが予想されます。

 

 

経団連の「採用指針の廃止」が意味することとは?

報道では、「通年採用」というキーワードが大きく取り上げられましたが、それ以上に重要なポイントは、「就活・採用に関する指針を経団連が廃止した」背景を押さえることです。これによって、誤解されがちな“通年採用”報道の本質を掴み、変化に応じた対応策を準備することが可能になります。

 

経団連が「採用指針」の廃止を宣言した背景

 

 

経団連が「採用指針」の廃止を宣言

紹介の通り、2018年10月に経団連は、21卒以降は、採用指針の制定を廃止することを宣言しました。21卒は政府と大学が主導する形で今まで通りの採用スケジュールとすることを関係各所に要請しました。また、コロナ禍の中で取りざたされることは少なくなりましたが、恐らく22卒以降も同様の状況が維持されると予想されます。

 

「採用指針」の廃止を宣言した経団連の危機感

採用に関する指針の廃止宣言からは、経団連が抱いている危機感を読み取れます。

 

これからの時代に必要だと思われる高度IT人材や本当の経営幹部候補等の優秀な人材が、経団連に所属せず、採用指針に従っていない外資企業やメガベンチャー企業に採られてしまうことを危惧しており、このような事態を打開するために指針の見直しに踏み切ったと考えられるのです。

 

採用指針が昭和から平成の時代に、それなりに実効力を担保してきた理由は、就職の人気ランキングにおいて、圧倒的な人気を誇ってきた経団連の所属企業が指針を順守すること、また、母集団形成を実質的にリードする大手採用媒体と大学も指針に従ってきたからです。

 

しかし、圧倒的な人気を誇っていた経団連所属の企業も、GAFAに代表される外資IT企業や外資系金融、戦略コンサル、また、新経済連盟の所属企業に代表されるようなメガベンチャーと優秀学生の内定承諾を競い合う状況になっています。

 

また、この数年で、大学や大手の募集媒体が、経団連の採用指針である「3月スタート」よりも前の2月に合同会社説明会を実施しはじめたという事実もあります。また、元から採用指針には従っていない独立系の媒体も多々あります。

 

つまり、採用指針の実効力を担保してきた「圧倒的な人気企業の集まり」である経団連の立場、また、母集団形成における大学、求人媒体の協力関係は崩れつつあり、既に採用指針自体が機能しなくなってきており、採用活動は自由化しつつあるという事情があります。

 

その中で、採用活動の時期を決める採用指針を自ら定めることで、これ以上自らの手を縛り続けるわけにはいかないという危機感です。

 

 

「ジョブ型採用」と「一括ポテンシャル採用」の終焉

経団連の危機感と今後の採用活動で生じる変化は、2019年4月の「通年採用の合意」情報をもう少し詳しく見ると予測できる部分があります。

 

2019年4月に発表された経団連と大学の合意内容で、筆頭に掲げられていたのは、通年採用の合意ではなく、ジョブ型採用の推進という項目です。

 

この発表の後、国内外で相次いで発表されたのが、「新卒一律待遇」の終了です。ソニーやNECのような総合電機メーカーが、新卒でも能力に応じて年収1,000万円、年収700万円等を出すという報道が相次ぎました。また、NTTグループも、スター研究者に対しては年俸3,000万円超を可能にする新人事制度を始めると発表がありました。

 

世界的に見れば、既にファーウェイは新卒に年収3,000万を支給する等の実績があります。その中で、日本の「一括ポテンシャル採用」は、「一律待遇」を意味する制度でしたが、高度IT人材等を確保するうえでは、それが障害になってきたということです。

 

文系でも、くら寿司が海外展開の幹部採用で、新卒に年収1,000万円を約束すると発表。また、ベンチャー企業を中心に新卒時点から採用や内定者インターンでの評価に応じて、初任給に差をつける企業は増えてきています。

 

また、あまり表立って報道されることはありませんが、中堅企業クラスでも、「一般の総合職採用」と「幹部候補」の採用を明確に区分して、採用チャネルや採用単価の目標設定を変える企業も増えつつあります。

 

これらは、IT人材や優秀学生の確保に関して、今までの「一括ポテンシャル採用/一律待遇」から「ジョブ型採用/入社時点からの能力評価」に切り替わりつつあることを示していると言えるでしょう。

 

通年採用で起こる3つの変化 早期化、長期化、複雑化

上記のような背景があった中で“通年採用の促進”“採用指針の廃止”が発表されましたが、20卒、21卒と採用活動の現場ではどのような変化が起こっているでしょうか。

 

「早期化」「長期化」「複雑化」の3つのワードが、その問いに答えるカギとなります。3つのキーワードを1つずつ解説します。

 

 

早期化

現在の採用現場では、既にインターンシップという形で早期化が進んでいますが、採用指針の廃止、通年採用の促進という報道の裏で、その流れが明確に加速しています。

 

インターンシップを実施する企業数は17年卒から20年卒で、約3倍近くに増加し、2万社に届く勢いです。その殆どは、新卒者として採用する学生の個人情報を取得するための1Dayインターンです。

 

また、インターンシップを実施する企業が増える中で、明確に「インターンシップ経由で〇名を採用する」と目標を決めたり、「3月1日以降は説明会をやらない」「3月1日以降は、インターンシップからの採用が失敗した場合の保険としての位置づけ」と考えたりする企業が確実に増えています。

 

また、サマーインターンを実施しない企業でも、2月から0.5Dayインターン等の名目で、実質の会社説明会をスタートする企業も増えつつあります。

 

21卒の採用活動は、コロナ禍で採用活動が停滞し、今の採用スケジュールになって初めて就職内定率が前年を下回ったとの報道もありました。確かに5月1日時点では20卒51.4ptに対して21卒45.7pt、そして、6月1日時点では20卒70.3ptに対して21卒56.9ptと、前年対比でマイナス13.4ptと大きく下回っています。

 

一方で、

3月1日時点での内定率     20卒 8.7pt ⇒ 21卒15.8pt

4月1日時点での内定率     20卒 21.5pt ⇒ 21卒31.3pt

となっています。17卒とも比較してみると、

3月1日時点の内定率        17卒 4.6pt ⇒ 21卒15.8pt

4月1日時点の内定率      17卒 9.7pt ⇒ 21卒31.3pt

であり、この数年で早期化が加速してきていることは明らかです。

 

出典:リクルートキャリア「就職プロセス調査」

 

 

長期化

早期化と対になる形で、採用活動の長期化が起こります。従来のように、大手募集媒体がオープンする3月から採用活動を開始した場合、実際の入社までの期間は13か月間です。

 

しかし、サマーインターンを開催して、前年の6月から採用活動をおこなう場合、実際の入社まで22か月間ということになります。

 

また、3月から採用を開始する場合、3月に説明会を実施して6月頃の内定承諾を目標にした約4か月間がメインシーズンとなります。

 

しかし、サマーインターンの場合、学生も「他社を見てみたい」という気持ちがありますので、内定承諾は2~4月頃になることが多くなります。そうすると、6月から11か月間にわたって、学生と濃密なコミュニケーションを取り続ける必要が生じます。

 

 

複雑化

これまでは、新卒採用の場合、選考ステップや選考ルート、基本給等の条件は求職者のスキルや能力に関わらず統一されるのが基本でしたが、通年採用と対で広まりつつあるジョブ型採用でその状況が変わりつつあります。

 

また、早期化も、採用フローの複雑化に拍車をかけています。例えば、インターンやダイレクトリクルーティングでピックアップした優秀層には特別選考のルートを準備することで、魅了付けをおこなうといった企業が増えています。

 

こうなると、今まで一律の採用フロー/選考ステップだったものが、職種や時期によって、学生毎に異なる採用フロー/選考ステップを走ることになります。当然、管理の難易度が増し、採用管理ツールを導入する企業も増えています。

 

 

 

通年採用で企業に生じる課題とは?通年採用のメリットとデメリット

通年採用の採用面接

通年採用の促進、ジョブ型採用の拡大という中で生じている「早期化」「長期化」「複雑化」によって企業に抱える課題を解説します。

 

 

「早期化」「長期化」「複雑化」によって企業に生じる課題

一番課題となってくることは、優秀学生の確保がより困難になってくるということです。これまでは、3月から採用活動を開始しても、それなりに優秀層にリーチすることができました。

 

例えば、4月1日に内定を獲得している層の多くは、2月以前に説明会に参加していると思われます。それが、17卒では1割程度だったものが、21卒では3割を超えるところまで来ています。

 

「優秀」には多くの定義がありますが、「情報感度が高い」「行動力がある」「フットワークが軽い」といった学生を集めるためには、間違いなく、3月より前に採用活動を開始する必要があるでしょう。

 

同時に、早期に活動を開始した場合にも、インターンシップの母集団形成は難易度を増しています。かつては、インターンシップを実施するだけで、優位に立てた時代もあったかもしれません。しかし、現在、インターンシップの実施企業は2万社を超えています。

 

インターンシップを実施するにあたっても、ターゲット学生に興味を持ってもらうためにどのような内容にすればいいか、また、ターゲット学生を集めるためにどのチャネルを使えばいいかをしっかりと検討する必要があります。

 

 

「早期化」「長期化」「複雑化」のメリット

これまでの一括採用では、大手就職サイトの影響力が非常に強く、知名度や採用予算で勝負できない中小企業やベンチャーが露出を増やすことは困難でした。

 

しかし、この10年ほどで新たな採用媒体も急増しており、また、あまりインターンシップ経由の採用には本気で力は入れていない大手企業も多いという実情もあります。

 

従って、ターゲティング、リーチ手法、訴求メッセージ等を工夫することで、これまでよりも優秀な学生にリーチしたり、“ブルーオーシャン”である採用チャネルを見つけたりできる余地があります。

 

 

「早期化」「長期化」「複雑化」のデメリット

課題で述べた通り、自社で確保したい優秀な学生にリーチして内定承諾をしてもらうためには、早期での母集団形成や長期化への対応、口説く力の向上等、工夫を求められます。これまで以上に採用力を高めなければ、ますます採用は困難になります。

 

工夫することで可能性が広がる反面、工夫せずにいると人材の獲得競争に負けてしまうということです。また、工夫をおこなう中で、採用担当者の手間が増えるだけでなく、採用コストが上昇してしまうリスクもあります。

 

「通年採用」の影響に対応する3つのポイント

最後に、上記のような課題やデメリットを乗り越えて、通年採用のメリットを享受するために、企業が知っておくべきポイントをご紹介します。

 

 

ポイント① 早期に学生に会うためのチャネルと費用の確保

まずは、早期化への対応として、これまでよりも早く学生との接点を作ることがポイントとなります。先述の通り、ただインターンシップを実施しているだけでは、優秀な人材を集めることはできませんし、これまでと同じ大手採用媒体への掲載だけでは母集団が不足するケースも出てくるでしょう。

 

早期化に対応するにあたっては、経営陣に採用活動の変化を把握してもらったうえで、学生との早期接触に対応するためのチャネル選定、費用を確保しておくことが必要です。

 

 

ポイント② 接触してから選考まで学生を繋ぎとめる力

続いては、長期化への対応です。優秀な人材との早期接触に成功したとしても、本格的な選考時期までに人材の興味が他社に移ってしまうと、早期接触の意味がありません。自社の魅力を伝え続けるための施策を打ち、優秀な人材を逃さないようにしましょう。

 

 

 

ポイント③ 学生を口説く力

従来の採用でも大切なポイントではありましたが、採用の在り方が変わっても、学生を口説く力は依然として必要です。

 

とくにインターンシップからの早期採用を成功させるには2~4月頃に内定承諾をしてもらえる魅了付けの力が不可欠です。口説く力のブラッシュアップを図らないままに、サマーインターンシップだけをおこなっても、採用に繋がりません。

 

 

まとめ

本来の通年採用は、採用活動の前倒しという意味ではなく、幅広い人材をターゲットに多様な採用活動を進めることを意味しています。

 

しかし、実態として起こっていることは、採用の早期化・長期化・複雑化です。企業がこの流れに対応するために意識したいポイントは、「学生との早期接触のためのチャネル・費用の確保」「学生を選考まで繋ぎとめる力」「学生を口説く力」の3点です。

 

採用活動は、今後ますます自由競争化が進んでいくことが見込まれます。自由競争は工夫することで、知名度や規模を超えて優秀な人材に接触できるチャンスです!一方で、自社の採用活動を進化させないと、厳しい未来になることも予測されます。採用活動の自由競争化に乗り遅れず、自社に必要な人材を確保してください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役|HRドクター 編集長

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

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