どのような会社にとっても優秀人材を確保することは、事業計画を達成し、また、会社の将来を支えるための重要なテーマです。
しかし、近年の就活常識の変化とコロナ禍によるオンライン採用などの影響で、内定辞退の増加が目立つようになり、内定辞退を防ぐための内定者フォローが改めて注目されています。
内定者フォローは、承諾前の内定者フォロー(内定承諾率を高める)と、承諾後の内定者フォロー(入社前辞退を防ぐ)がありますが、本記事では後者の「承諾後の内定辞退を防ぐ」内定者フォローについて紹介します。
なぜ内定辞退が発生するのか、内定者フォローに必要なことは何かといったことと併せて、具体的な内定者フォローの施策やNG行為を解説します。採用経験が長い人事の方にとっては基礎的な内容となりますが、「これから内定者フォローを強化したい」という方はぜひご覧ください。
<目次>
内定者フォローが重視される背景
まず採用活動で内定者フォローが重視される背景を確認してから、本編に入ります。
内定辞退者(承諾後辞退者)の増加
近年、内定承諾後に辞退するケースが増えており、採用担当者にとっては非常に頭の痛い問題となっています。内定承諾後の辞退の増加理由としては、まず21卒採用の時期から「内定承諾には法的拘束力がない」ことがSNSや報道で広く浸透したことで、学生の心理が変化したことが挙げられます。
これまでは、内定を承諾すれば、その後の辞退は極めて少ない傾向にありましたが、上記の影響で内定承諾後の辞退が急激に増加していきました。
加えて、
- 経団連の就職協定廃止の影響などもあって、早期に内定が出て、かつ承諾を迫られる(迫られることは無くても回答期限を切られるため、一旦承諾するケース)
- コロナ禍によってオンライン採用が普及したため、会社との心理的なつながりが薄く、また、自分の選択に自信が持てない
など、内定承諾後も就活を続けるケースが増えています。
かつては、内定を辞退するためには口頭で連絡したり、訪問を求められたりして、「担当者から激しく罵倒された」「水をかけられた」といった都市伝説もありましたが、今ではメールで辞退することも当たり前ですし、退職代行を使うような内定者もいます。
人材確保の重要性
人材確保が会社の成長にとって、非常に大きな要素であることはいつの時代も変わりませんが、日本では少子化にともない、優秀人材を確保する重要性はますます高まっています。
これまでの新卒採用は、景気の動向に従って、“売り手市場⇔買い手市場”をシーソーのように行き来していました。この裏側には、少子化が進む一方で大学進学率が上昇することで、学生数は変わらない、むしろ微増してきたという背景があります。
しかし、大学進学率も頭打ちが見えてきた中で、今後は「毎年学生数自体が減少していく」という慢性的な売り手市場になります。
そして、その中で新卒採用における承諾後の内定辞退は、採用シーズンの後半や内定式前後などで発生しやすい傾向にあります。苦労して採用目標を達成した中で、内定式前後から辞退者分を追加採用することは、かなり難易度が上がります。
追加で採用するためには新たな母集団を形成する必要があり、追加費用も発生します。また、同じ質で採用することが難しいことから、追加採用をあきらめざるを得ないケースも増えてしまうでしょう。
その場合、予定採用人数を満たせず、配属計画などにも支障をきたしてしまう結果となります。こうした事態を避けるためにも、内定者をしっかりとフォローして、入社前の辞退者を出さないように取り組む重要性が高まっています。
なぜ内定辞退が発生するのか
内定辞退が発生する根底の理由は「内定者の不安」です。内定辞退につながる不安は3つに大別されます。どのような不安が内定辞退につながるのか確認しておきましょう。
本当にこの会社でいいのか?
一つ目は、内定辞退が生まれる最も本質的な「本当にこの会社でいいのか?」という不安です。
内定者は会社研究や説明会、担当者・面接官の話などを通じて、会社のことを理解して一度は承諾しています。ただし、やはり心のどこかに「本当にこの会社でいいのか?」という気持ちは湧いてくるものです。とくに、コロナ禍ではオンラインでの接点が中心になることで、気持ちが固まりきらない傾向が強くなっています。
もちろん、対面での採用活動においても「この会社でいいのか」という不安な気持ちはありました。しかし、オンライン採用の影響で、余計に不安感が増している傾向は否めません。
自分はこの会社でうまく仕事ができるのか?
続く不安が、「自分はこの会社でうまく仕事ができるのか?」というものです。これまで学生だった内定者にとって、会社で取り組む仕事は初めてのことばかりです。
そこで、実際に入社してから自分ができるのかという不安要素も、人によってはかなり大きな不安となってきます。
同期とうまくやっていけるか?
以前であれば、面接会場で何度か会ううちに就活生同士で顔見知りになるようなこともありましたし、そこで、この会社が採用している人の雰囲気を掴める部分もありました。また、会社側でも内定者の顔合わせなどを気軽に実施していました。
しかし、オンライン面接が中心となったことと、そしてコロナ禍で内定者の顔合わせを中止していたため、その機会が大幅に減少しています。
また、内定式や内定者懇親会で同期と顔を合わせるなかで「同期の雰囲気が合わないと感じた」といった理由による内定辞退も生じています。
内定者フォローに必要なこと
内定者が会社に望むこと、会社が内定者に求めること、2つの側面から内定者フォローに必要なことを考えてみましょう。
内定者が会社に望むこと
内定者は、上記の不安を解消したいと考えていますので、会社に望むことも3つの不安を裏返したものとなります。まず会社に関する情報の提供、次に入社後の育成や成長環境に関する情報の提供、そして、同期とのつながりです。
ただし、会社に関する情報などは、内定者自身も明確に「こういう情報が欲しい」とは分かっていない部分があります。ただ、根底にあるのは「自分の選択は間違っていなかったと背中を押して欲しい、信じ込みたい」という感情です。
したがって、採用プロセスで伝えてきた情報に加えて、それらをもう一段深めて、
- 会社がいま何に取り組んでいるのか
- 社内の雰囲気はどうなのか
- 自分が就くかもしれない仕事の内容はどういったことなのか
- 将来のキャリアはどうなるのか
といったことに関して具体的な情報提供をすることが望ましいでしょう。
次に、入社後の育成や成長環境に関する情報は、「自分が会社に入ってやっていけるのか」という不安を解消するためのものです。「入社前にこういう知識を身に着けておくといいよ」といった情報、また若手社員との交流、スキル面などでの内定者研修などが不安の解消につながるでしょう。
最後に、同期とのつながりです。内定者は「同期とうまくやっていけるか?」「同期と気が合うか?」といった不安を解消して、同期との連帯感やつながりを得たいと考えています。
この不安は内定者懇親会、内定者研修などのイベントを実施することで解消できます。ただし、同期との接点は、不安解消になる一方で、内定辞退にもつながりかねないリスクがあります。ある程度接点の設計をしたうえで、進めることが大切です。
会社が内定者に求めること
会社側としては、意欲が高まった状態で入社し、また、一日も早く戦力として活躍してほしいというのが本音です。だからこそ、内定者フォローで、内定者研修、課題図書やeラーニングなどを実施したりします。これらの研修、人材育成としての側面を持った内定者フォローは、内定辞退の防止にもつながります。
とくに不動産業界や製薬業界など、入社後の業務に際して資格の取得が必須となる分野では、入社前に通信教育などで資格勉強を推奨する会社も多くあります。
ただし、内定者は、「入社後に活躍したい」「自分が通用するのか?」という不安と同時に、「学生生活、最後の時間を自由に使わせてほしい」と思う気持ちもありますし、入社前から勉強を強いられることに反発する人もいます。
内定者研修や課題などのフォローは、内定者の状況に応じて実施するタイミングや負担量などの検討が必要です。
具体的な内定者フォローの施策
内定者が求めるもの、会社側が求めるものを考慮したうえで、主要な内定者フォローの施策5つを紹介します。
定期的な連絡
まず一番大事な内定者フォローは定期的な連絡です。内定承諾を得た後、内定者との定期的な連絡は内定者フォローとして不可欠です。新卒の場合は、とくに内定から入社までに長い時間があります。長い時間があるからこそ不安に駆られますし、さまざまなことを考えてしまいます。
内定承諾後に連絡がない、また、内定承諾前と比べて連絡頻度が大きく落ちると、不安が強くなり、「あまり期待されていないのではないだろうか」「“釣った魚には餌をやらない”タイプか…。入社後も大事にしてもらえないのではないか」と疑心暗鬼になってしまいます。
採用担当者も自分の業務があって忙しいですが、内定者との定期的な連絡をスケジュールに入れておきましょう。
採用人数があまりに多くなってくると、対応が難しくなりますが、定期連絡で最も有効なのは個人面談です。たとえば、毎月1回Zoomなどを使って内定者の状況を聞き、今後の予定などを話す機会を設けると、たとえ30分程度でもお互いの安心感につながります。
また、LINEグループやLINE公式アカウントなどを使って、人事から会社の情報を流すことも有効です。
人事としては、大きなニュースでないと流しにくいように感じてしまいがちです。しかし、ひとつ上の先輩となる社員の情報、社内でのイベント、社内表彰、顧客の声など、流す情報は多々あります。「会社からの情報が途絶える」状況を作らないように心がけましょう。
内定者同士の交流
内定者同士は、入社後に「同期」となるメンバーと交流したいという気持ちが強くあります。仲間と接することで、不安が解消されモチベーションが高まります。また、同期としての連帯感を作ることで、感情的に内定辞退をしにくくなる効果もあります。
最近では内定者向けにSNSを活用する会社も増えています。SNSのプロフィールを見ることで、どういう人なのかがわかりますし、自分との共通点があれば話をするきっかけにもなります。SNSでつながりができれば、実際に会うようになってからもスムーズに関係が作れます。
ただし、注意点としてSNSの運用にはある程度のルールを決めておくことも大切です。内定者間の交流は内定者フォローにプラスの効果がある一方で、内定者間のトラブルや誤解などにより、辞退につながるなどのリスクもあります。
会社に関する情報の提供
内定者が一番聞きたいことは、現場で仕事をしている人の話です。特に年次の近い先輩社員が実際にどのような仕事を担当し、どう思っているのか、そして会社での将来をどう考えているのかということは非常に興味があることです。
内定者研修の際に先輩社員との親睦会を設けることもできますし、オンラインでの座談会は気軽に実施できるメリットもあります。会社からの定期連絡、人事からの情報発信に先輩社員などを巻き込むことも有効です。
内定者フォローで大事なことは「内定承諾した理由と状態」を定期的に思い出させる、忘れさせないことです。採用活動でのメッセージや訴求と連動して内定者フォローを考えると効果的です。
イベントの開催
内定者研修や交流会は、内定者同士が実際顔を合わせるよい機会となります。同じ体験を共有することで、人間関係を作るきっかけになります。
さらに内定者イベントの時間を通じて、会社に関する情報や仕事に関する情報を提供したり、「内定を承諾した理由」を思い出させたりすることも可能です。
こうしたイベントには、経営層が参加することも大切です。とくにベンチャー会社などにおいては、自社のビジョンやこれから進もうとする方向を経営層の言葉で話すことで、参加者の意欲を再び高い状態に持っていくことができます。
働く準備
会社側が持つ「入社してからは一日も早く戦力になってほしい」という期待を実現するうえで「働く準備」につながる内定者フォローも有効な施策です。
働く準備は、内定者の「この会社でやっていけるだろうか?」という不安を解消したり、「早く一人前の仕事ができるようになりたい」と思う意欲に応えたりすることにもつながり、お互いのニーズを同時に満たすことになります。
内定者研修などのイベント型で実施することもひとつですし、eラーニングや資格支援などを使うことも有効です。とくに不安に思う人が多いビジネスマナーなどは、動画を使ったe-ラーニングの提供も「わかりやすい」と評判です。
内定者フォローのNG行為
内定者フォローを実施するうえでは、以下3点を注意して進めましょう。基本的なことですが、意外とNG行為をして内定者のモチベーションを落としてしまっている人事の方もいますので、注意してください。
予定がわからない
内定者にとって次にいつ何をするのか、内定者フォローのスケジュールがわからないままで、会社からの連絡を待つことはストレスです。「残りの学生生活を楽しみたい」「自分のやりたこともやっておきたい」と思うのに予定が立てられず、どうすればいいのか困ってしまうことになります。
採用担当者は常に忙しいものですが、説明会のスケジュールなどと同じように、採用活動を計画する時点で、内定者フォローのスケジュールも決めてしまうことが重要です。
やることが多すぎる
内定者にいろいろやってもらおうとして、過剰な課題や頻繁にスケジュールを押さえることには注意しましょう。課題に使う時間が多かったり、参加しないといけないイベントが多すぎたりすると、内定者は自分の時間を削ることになり不満につながります。
人によって強さは異なりますが、内定者の残り少ない学生生活を楽しみたい気持ちも理解してあげるようにしましょう。また、「内定者研修などは半強制的な参加」といったことになると、労務的にも注意が必要です。
内定者に近づきすぎる
内定者とのやり取りのなかで、個人的なことまで干渉することはやめるべきです。個人的な悩みに踏み込み過ぎたり、内定者の人間関係など個人の領域に立ち入ったりすることは、コンプライアンス上の問題にもつながります。
ユニークな内定者フォローの施策
最後にゲームやアクティビティなどのユニークな内定者フォローを実施するメリット、そして具体的にどのようなことをしているかを簡単に紹介します。
ゲームやアクティビティのメリット
内定者フォローの施策として、ゲームやアクティビティといった堅苦しくないスタイルを導入している会社もあります。通常の内定者フォロー以上に手間や費用がかかったりもしますが、内定者を楽しませるということ以外にもいくつかのメリットがあります。
(1)素の姿が見られる
ゲーム形式の研修などをやることで、座学の研修などではわからなかった素の状態の言動が現れます。お互いの本来の姿を見せあうことで距離が縮まりますし、仲間意識も生まれやすくなります。また人事担当者としても、違った側面が見られるよい機会となります。
(2)参加者の連帯感が生まれる
チームで課題に取り組む研修では、仲間同士で意見を出し合ったり助け合ったりします。また、共通のゴールに向けた体験を共有することで、自然に仲間意識が生まれやすくなります。
具体的な研修例
・謎解き
チームに与えられた謎を解き、仲間と一緒に課題を解決してゴールを目指すゲームを行ないます。会社にちなんだ問題にすることで、楽しみながら会社のことを学び、チームとしての絆を深めることができます。
・寸劇、ドラマ動画制作
チーム内で脚本、演出、編集、役者といった役割を分担し、協力しながら与えられたテーマに沿ったドラマを制作します。完成した作品をお互いに鑑賞することで、盛り上がるイベントとなります。
・ディズニーアカデミー研修
東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドが培ってきた「おもてなし」や「人材育成」のノウハウを楽しみながら学べる研修です。参加者が実際にやって学ぶワーク形式の研修も含まれており、体験しながらさまざまなことが吸収できます。
まとめ
優秀な人材の確保はどの会社にとっても重要な課題です。近年では、内定承諾に法的な拘束力はないという言説が就活生の間で浸透し、またオンライン採用で心理的な距離感が縮まりづらいといった影響もあり、新卒採用における内定承諾後の辞退が増えています。
そこで重要になるのが内定者フォローです。新卒採用において、内定者に生じる3つの不安を理解して、適切な対策を講じましょう。自社の採用状況を踏まえて、効果的な内定者フォローをするために本記事が参考になれば幸いです。
なお、内定者研修に力を入れたい場合は、専門会社のノウハウを使うことも選択肢のひとつです。HRドクターを運営する研修会社ジェイックでも、入社意欲の向上や仲間意識の醸成を生み出す内定者研修を提供していますので、ご興味があればお問い合わせください。