新卒採用している企業の多くが開催する内定式。内定式は内定承諾の意向を確認するタイミングであるだけでなく、内定者をケアするイベントとしても有効です。新任人事の方や初めて内定式を実施される企業向けに、内定式の目的や開催のメリットやリスク、開催までの流れやプログラムの事例を解説します。
<目次>
内定式の目的とは?
内定式は、建前としては企業が求職者に対して正式に内定を伝えるイベントです。
経団連が定めていた就職・採用協定(現在は経団連ではなく政府が主導する形へ変化)では、内定通知が10月1日以降と定められている(2021年4月時点)ことから、現在では10月1日(第1営業日)に内定式を実施する企業がほとんどとなっています。
近年は、就職・採用活動の早期化により3年次に内定を出すことも珍しくありませんが、10月1日の内定式が今でもイベントとして継続されているのは大きく3つの理由があります。
① 内定者に入社意思があるかを最終確認する
昨今では、採用活動の早期化によって3年次のうちに内定承諾する学生も増えています。また、就職・採用協定の形式に則る大手企業でも、採用選考の解禁日である6月1日を皮切りに、6月前半には内々定を出して内定承諾をもらうのが一般的です。
しかし、内定承諾に法的効力がないことは学生の間で周知の事実となっており、内定後・内定承諾後も就職活動を続ける学生は年々増えています。
こういった状況のなか、内定式を開催する目的の一つが、内定式の出欠をもって本当に入社意思があるかを確認することです。就職・採用協定が形骸化しつつある中でも、多くの企業が内定式の開催を10月1日(第1営業日)から変えないのも、入社意思を確認するために各社と同じ日付で実施するという事情があるからです。
② 入社意欲の向上・辞退防止
入社意思を確認するとともに、入社への意欲を向上させることも内定式の目的です。内定承諾から時間が経過すると、学生には「本当にこの企業でいいのか?」という不安が生じてきます。そこで、内定式を実施することで学生の不安を払しょくでき、入社までの辞退防止を図ります。
内定式のプログラムは、企業からのメッセージを伝えたり、企業とのコミュニケーションを促進したりするものが一般的です。承諾した理由をあらためて思い起こさせたり、企業の魅力付けを行なったり、人間関係を形成したりすることで、入社への意欲を効果的に高めることができます。
③ 入社後に向けた人間関係の構築
10月1日の時点で採用活動が終わっていれば、内定式は内定者全員が顔を合わせられる場となります。こういった内定式の場やプログラムを用いて、内定者同士の人間関係を構築することも、内定式を実施する目的の一つです。
内定者同士のコミュニケーションを促進することは、不安の解消・辞退の防止につながりますし、入社後に「同期の絆」をつくる準備にもなります。
内定式を実施するメリット・デメリット(リスクや注意点)
内定式にはさまざまなメリットがありますが、デメリット(リスク)がないわけではありません。この章では、内定式を実施するメリットとデメリット(リスク)を紹介します。
内定式を実施するメリット
内定式を実施するメリットは、おもに内定式の目的として紹介した3点に大別されます。
- 入社意思の最終確認
内定式は、出欠をもって入社意思の最終確認をすることができます。ただし、最近では「内定承諾には法的拘束力がない」ということが学生に浸透しており、内定式後の辞退も増えています。したがって、入社まで気を抜くことはできませんが、内定式を境に辞退等が落ち着くことも事実です。
- 入社意欲の維持・向上
入社式で経営陣からメッセージを送ったり、社員と内定者が交流したりすることで、入社意欲を維持・向上させることができます。採用活動の早期化により3年次の2月~4年次の6月ごろで承諾することが多い内定者たちにとって、10月というのはケアするにもちょうど良いタイミングです。
- 内定者同士の関係性をつくる
内定式は内定者を一堂に集めることで、内定者同士のコミュニケーションと人間関係を生み出すことができます。内定式でのコミュニケーションは入社後に向けて同期の絆をつくる第一歩となりますし、内定者によるプロジェクトなどをスタートさせる一つのタイミングにもなります。
内定式を実施するデメリット(リスクや注意点)
内定式を実施するデメリット(リスクや注意点)は以下の3点です。
- 費用や時間的な負担が生じる
地方や海外在住者などを採用している場合、企業はもちろん、参加者も費用や時間的な負担が生じます。
最近はコロナ禍の影響でオンラインでの開催が増えていますが、オンラインだと人間関係を構築しづらくなってしまうため、目的を踏まえたうえでどういった形式で行なうのが良いか、コストや時間の負担が許容範囲かどうかの検討が必要です。
- 参加できない内定者に心理的距離が生じる
内定式に参加できなかった学生は「参加できなかった」ことによる心理的距離が生じます。特に3年次の早い段階で承諾している学生の場合、入社式に参加できなければ入社までに1年以上も期間が開いてしまうため、参加者との温度差はより大きくなります。
できるだけ全員が参加できるよう早めに日程を確定させて、内定通知の段階から日程を確保しておいてもらうことが大切です。
- 内定辞退につながる可能性もある
経営トップからのメッセージや内定者同士のコミュニケーション、懇親会などを通じて、逆に「合わない」と判断される可能性もあります。
ミスマッチした状態で入社してもらっても早期離職につながるだけですので、内定式の段階でミスマッチが判明して辞退するのは必ずしも悪いことではありません。しかし、誤解や早とちりなどで辞退になる場合もあるので、誤解や早とちりなどが生じないよう細心の注意を払う必要があります。
内定式の時期と開催までの標準的な流れ
内定式の時期や内容は企業ごとに決めることとなりますが、どの企業も大きな違いはありません。内定者をケアするという意味で効果的なプログラムは定番化しているので、ここでは内定式の基本的な流れを解説します。
1.開催日程の決定
前述した通り、日本では10月1日(10月の第1営業日)に内定式を行なうのが一般的で、同日に多くの企業が開催するからこそ、入社意思の最終確認になるという側面があります。
また、10月1日に揃えることで学校行事や卒業旅行などが入りづらく、学生が参加しやすい日程になる側面もあります。とはいえ、内定者全員に参加してもらうには開催日程をできるだけ早く決定することが大切です。
なお、採用活動を年内いっぱい継続するような企業の場合、10月と12月の2回内定式を開催するといったやり方もあります。
2.内定式を行なう目的の明確化
内定式の基本的な目的は先述の通り、辞退防止、入社意欲の維持・向上、内定者同士の関係構築です。自社の状況に応じて、どこに重きをおいて実施するかを検討しましょう。目的の重みに応じて実施するプロラムも多少変わってきますので、一番重要な目的を事前に明確にしておくことが大切です。
3.開催場所の決定
内定式の開催場所は社内の会議室や貸し会議室、ホテルの宴会場などが一般的です。21卒・22卒はコロナ禍の影響もありオンライン実施が増えましたが、内定式は分散した内定者を一堂に集めて顔を合わせる貴重な機会になります。
したがって、人間関係の形成に重点をおく場合には対面での実施がおすすめです。なお、内定者が参加しやすいよう、参加にともなう旅費交通費は企業が支給するのが基本です。
4.プログラムの企画と手配
目的や採用人数によっても異なりますが、内定式のプログラムとしては以下が一般的です。
- 経営トップからのメッセージ・内定者の自己紹介
- 内定者研修、グループワーク
- 社員や内定者同士の懇親会など
企業によっては内定者プロジェクトや内定者アルバイトの告知をしたり、芸能人を呼んで盛り上げたりするケースもあります。
5.参加者への連絡
内定者には日時や会場に加えて、服装や事前準備などを告知します。服装は「自由」と告知してしまうと迷う内定者が増えてしまうので、「スーツ」なのか「私服」なのかなどを具体的に伝えたほうが親切です。
また、冒頭で解説した通り、日程はなるべく早めに告知する必要があります。内定・内々定の段階で通知できるよう、開催日程は早めに決めておきましょう。
参加者への連絡方法はメールやSNSなどで行なうのが一般的です。連絡の際は必ず出欠を取り、参加有無を確認します。採用人数にもよりますが、参加者への連絡を電話で行ない、内定者とコミュニケーションを取るというのも一つのやり方です。
なお、学生だけに限らず社内参加者の日程も早めに押さえておきましょう。
内定式プログラムの事例
内定式プログラムの事例として、HRドクターを運営するジェイックが実施している内定式プログラムを紹介します。なお、ジェイックは社員約250名、毎年10~15名の新卒採用を行なっている企業です。
プログラムの全体像
内定式のプログラムとしては、一般的な内容です。
- 経営陣からのメッセージ・内定者による自己紹介
- グループワーク
- 懇親会
実施するうえでは、以下のようなところで工夫をしています。
内定者を上回るメンバーで内定者を歓迎する
大手企業にはできない内定式として、内定式には必ず内定者の人数を上回るメンバーが参加します。内定者が入場する際は大勢のメンバーが立ち上がり、最高の拍手で迎えることで、歓迎の意を伝えます。
対面で実施していた際は、内定者10~15名に対して出席するメンバーは40~50名ほどでした。また、オンライン開催している21卒・22卒では、内定式を全社会議の一部に組み込むことで、全社員で内定式を迎えるという形になっています。
名刺と名刺入れのプレゼント
内定式では「内定者」という肩書入りの名刺と、内定者のネーム入りの名刺入れをプレゼントしています。企業からプレゼントをもらうことで高揚感を醸成するとともに、プレゼントを名刺と名刺入れにすることで会社への所属意識を生み出し、内定辞退を防ぎます。入社後に使うものをプレゼントすることで、入社を意識させる効果も生み出しています。
内定者による自己紹介プレゼン
パワーポイントを使った自己紹介を実施しています。プレゼン内で志望動機や入社後の目標について触れてもらうことで、準備と発表を通して、改めて入社への意識付けや、入社意欲の向上を図っています。
また、プレゼン後に盛大な拍手を贈ることで、受け入れられていること、入社を待ち望まれていることを内定者に伝えています。
内定者プロジェクトの開始
内定式後には、内定者同士で実施する内定者プロジェクトのキックオフを実施します。キックオフは内定者同士のコミュニケーションを加速させると同時に、企業の一員として採用プロジェクトに携わってもらうなどして、所属意識を強めていきます。
懇親会
懇親会には若手メンバーが参加します。内定式は経営幹部陣からのメッセージが中心となるため、懇親会は内定者と年齢が近い若手層が参加し、フラットなコミュニケーションを取るのが狙いです。懇親会では内定者同士はもちろん、多くの先輩メンバーとの接点をつくっています。
まとめ
内定式は、入社意識の確認や入社意欲の維持・向上と辞退防止、内定者同士の関係構築を目的に、新卒採用を行なっている企業の殆どで実施されています。
近年はコロナ禍の影響からオンラインで実施する企業も多いですが、内定者の感情を動かし、人間関係を構築するうえでは、オンラインよりも対面でのコミュニケーションが向いているでしょう。
また、内定式は定番のプログラムがありますので、奇をてらった内容を考える必要はあまりありませんが、内定者の不安を解消して入社意欲を高めるために、自社なりの工夫を凝らすことが大切です。記事で紹介したジェイックの事例も参考にしつつ、ぜひ内定者の気持ちを高揚させる内定式を実施してください。