「風通しの良い職場」とは抽象的な言葉ですが、本記事で扱う意味では「組織のルールや価値観など一定の基準は守りながら、信頼関係に基づいて自由にコミュニケーションできる職場」を指します。
例えば、「誰もが失敗や指摘を恐れず、提案や相談ができる」などが例として挙げられます。風通しの良い職場は、組織づくりやマネジメントのうえで、経営陣やリーダーがしっかりと向き合わなければならないテーマです。
記事では風通しの良い職場をつくるメリットと、実際に作るうえで役立つ5つのポイントを紹介します。
<目次>
『風通しの良い職場』とは?
風通しの良い職場とは、上下左右のコミュニケーションが活発で、役職や立場に関わらず自分の考えを発信できる職場のことを指します。本記事での概念としては心理的安全性と同じ意味合いで使っていると考えて下さい。
具体的には「上司に意見してはいけないのではないか?」「こんなことを言うと周りからバカにされるのではないか?」「組織の計画や方針に疑問を呈したりしたら叩かれるのではないか?」など、発言本来の内容と関係ないところで心理的なブレーキが生じない状態のことです。
但し、風通しが良い、心理的なブレーキが生じないとは、何でもかんでも好き勝手に発言できる、それが許容されるということではありません。組織のルールや価値観、一定の節度を保ったうえで、信頼関係に基づいて自由にコミュニケーションできる環境こそが「風通しの良い職場」です。
風通しの良い職場のメリット
風通しの良い職場を作るメリットはいくつかあります。
- 生産性が向上する
- 離職率が低下する
- イノベーションや新規事業を生み出しやすくなる
生産性が向上する【メリット①】
風通しのよさ、すなわち心理的安全性がチームの生産性に大きな影響を与えることは、米Google社のプロジェクト・アリストテレス と呼ばれるプロジェクトで実証されて、非常に有名となりました。
同プロジェクトは、チームメンバーの年齢や性別、メンバー同士の関係性、能力の高低などがチームの生産性にどのように影響するのかを大規模に調査・分析したものです。
そして、プロジェクトの最終的な結果として、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームメンバーがどのように協力し合っているか」が重要である、特に心理的安全性、つまり風通しの良さが、チームの生産性を左右する最も重要な要素だと結論付けました。
自分の意見を述べたり提案したり、企業のビジョンや部門の目標・計画に対して疑問点などがあった場合きちんと質問して解消したりできる、また、仕事に関するやり方の確認や不安の相談・ヘルプの依頼などを不安なく実施することができる環境は個人とチームの生産性を高めます。
離職率が低下する【メリット②】
厚生労働省『令和3年上半期雇用動向調査結果の概況』によると、20〜24歳・40代の最も多い退職理由は”人間関係”です。
組織内の風通しが良くないと「言いたいことが言えない」「働きづらい」などといった不満が募り、メンバーにストレスやフラストレーションが溜まっていきます。
また、ストレスの蓄積は自分自身の問題だけでなく、他人に悪影響を与えることも知られています。
カリフォルニア大学リバーサイド校の研究によれば、非言語で不安を強く表現している人が視界に入ると自分も同じ感情を抱きやすくなり、脳に悪影響を与えることがわかっています。
つまり、職場の風通しが悪いとメンバーにストレスが溜まり、周りにいる人にもストレスが広がっていく、さらにそれが連鎖的に他の人達にもストレスを与えるという悪循環に陥るのです。
結果としてメンバーの心身に支障をきたしたり、離職につながったりする危険性も高まってしまいます。
イノベーションや新規事業を生み出しやすくなる【メリット③】
社内の風通しが良い状態はコミュニケーションが活性化した状態です。メンバーは現状への異論や常識を否定したりするような意見も遠慮なく述べることができます。素朴な疑問や突拍子もないアイディアこそ、イノベーションを生み出す材料です。
また、風通しが良い職場は協力関係があり実行力が強いため、アイディアを形に移す過程もパワフルに進めていくことができるでしょう。風通しの良さはイノベーションの実現や新規事業にもつながるのです。
風通しの良い職場を作る5つの施策
最後に風通しの良い職場を作るための施策を5つ紹介します。
- 社内イベントの実施
- チームビルディングや意図的なアイスブレイク
- 物理的にオープンな職場環境
- 社内アンケートの実施
- ダイバーシティーやコミュニケーション研修
社内イベントの実施【施策①】
社員同士のコミュニケーションを促進するために、部活制度を設けたり親睦会を開催したりするのも風通しの良い職場をつくる手段のひとつです。
業務内のやり取り、部門内等の閉じた関係ではなく、部活動を通じてプライベートの人間的な側面に触れたり、普段の業務とは離れた斜めの関係が生まれたりすることが風通しの良さにつながります。
例えば、心理的安全性の概念を打ち出したGoogleでも各種社内イベントを実施しており、社員同士のコミュニケーションと健康増進を兼ねたスポーツ大会や、板前が寿司を握る寿司デイなどを開催しています。
また、楽天株式会社では3ヶ月を一つのスパンとして誕生日の近い社員同士が集められ、豪華な食事やゲームなどのイベントを開催しています。このイベントには社長の三木谷浩史氏をはじめ上層部の役員も参加して、社員一人ひとりに激励の言葉をかけているそうです。
こういった企業内でのサークルやクラブ活動なども社員同士のコミュニケーションの促進につながります。
チームビルディングや意図的なアイスブレイク【施策2】
上記のような大がかりなイベント以外にも、コミュニケーションの機会を増やすために効果的なの施策があります。
- 1.チームビルディングの機会を持つ
- 2.普段のMTG内で相互理解につながるようなアイスブレイク(チェックイン)などを実施する
特に、テレワーク環境ではどうしても雑談が減りがちになりますので、意図的に雑談する時間や場を設けることも重要です。
前述の通り、仕事の側面だけでなく、プライベートの側面などを相互理解することで、お互いを一人の人間として尊重する信頼関係の土台が構築できます。
物理的にオープンな職場環境【施策③】
社長や経営陣、管理職が個室にこもっていたり、チームや部門毎にパーティションで区切られていたりすると、社員同士がコミュニケーションを取る頻度は必然的に減少します。
機密保持や業務への集中力などの配慮も必要ですが、コミュニケーションを活性化して、風通しを良くするためには職場の物理的なオープンさも大切です。
例えば、フリーアドレスなどもオープンな職場環境をつくる施策のひとつです。固定の席を定めず、日によってデスクや場所を変えながら仕事を行なうフリーアドレスは社員同士の偶発的な出会いや個別の接触を生み出す効果があります。
社内アンケートの実施【施策④】
風通しの良さを実現するためには、実際にメンバーから意見を吸い上げて、要望や提案を実現したり問題に対応したりしていくことも大切です。メンバーの不満やチームの課題を把握したり、意見を吸い上げたりするためには社内アンケートの実施も有効です。
ダイバーシティーやコミュニケーション研修【施策⑤】
イベントやフリーアドレス、アンケートのような取り組みを行なったとしても、経営陣や管理職がメンバーを拒絶するようなコミュニケーションを取ったら意味がありません。
経営陣や管理職は異なる価値観や意見を受け入れるダイバーシティー、また人の意見を引き出すようなコミュニケーション、そして異なる意見をかけ合わせて相乗効果を生み出すようなファシリテーションなどの姿勢やスキルが求められます。
こういったマインドやスキルを身につけるために、経営陣や管理職への研修や教育も大きな効果をもたらします。
なお、異なる価値観や意見を受け入れるダイバーシティーや、異なる意見をかけ合わせて相乗効果を生み出すような考え方は、経営陣や管理職だけでなく、メンバーにも身に付けて欲しい姿勢です。
メンバーにも研修を実施して、価値観や意見の違いを相乗効果に変えていくような姿勢が組織内に浸透すると、必然的に異論や疑問は歓迎されるものとなり、心理的安全性の醸成、風通しの良い職場づくりにつながります。
風通しの良い職場を作る上で注意すべきポイント
風通しの良い職場を作る上で注意すべきポイントは以下の2つです。
□ | メンバーの性格に配慮する |
---|---|
□ | 仕事に対する緊張感を保つ |
メンバーの性格に配慮する
社員同士のコミュニケーションで組織がオープンになりすぎると、内気の人にとってはかえって居心地の悪い職場に感じてしまう可能性があります。
風通しの良い職場を作る際の施策は強制参加にするのではなく、個人の性格も重視・尊重しましょう。
仕事に対する緊張感を保つ
職場の雰囲気がオープンかつフラットになりすぎると、企業としての緊張感が損なわれてしまう危険性もあります。
生理心理学の基本法則「ヤーキーズドットソン曲線」では次の3つの事実が示唆されています。
- 1.ストレスレベルが低すぎると、パフォーマンスが低下する
- 2.ストレスレベルが一定を越えてしまうと、パフォーマンスが低下する
- 3.ストレスレベルが適度にあると、良いパフォーマンスを発揮できる
上記から分かるようにストレスは高すぎず低すぎず、適度なストレス、つまり適度な緊張感がある状態が良いパフォーマンスを発揮することにつながります。
ビジネスにおける風通しの良さは、心理的安全性が確保された職場を作り、個人や組織のパフォーマンスを高めることが目的です。心理的安全性はチームのゴールを達成するために遠慮せずに何でも言えるという状態です。
仲の良さが目的になってしまうと、本来の目的からずれて悪影響も出てしまうので注意が必要です。
風通しの良い職場を作ろう
上下関係やおかしな慣習、自分が悪く思われることへの懸念などを抜きにして、自分の意見や素朴な疑問などをできる風通しの良い職場は、個人と組織の生産性を高めます。
組織内の心理的安全性、風通しの良さは経営陣や管理職、リーダーが中心となって、意図して作り出す必要があります。
記事で紹介した風通しのよい職場を作るポイント等も参考に、風通しがよく生産性の高い職場をつくりあげてください。
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