Well-being(ウェルビーイング)とは?注目の背景や企業の導入メリットを紹介

Well-being(ウェルビーイング)とは?注目の背景や企業の導入メリットを紹介

Well-being(ウェルビーイング)とは「心身の健康」を示す言葉であり、最近、マネジメント分野においてWell-being経営といった言葉が注目されています。

 

ITの発達によって処理しなければならない情報量がどんどん増加したり、求められるスピードが上昇したり、また、感情労働に従事する人なども増えたりするなかで、メンバーが健全な心身の状態で働けるようにすることの重要性が高まっていることが背景にあります。

 

本記事では、まず、Well-being(ウェルビーイング)の概要や要素、また、ウェルビーイングが注目されている背景を確認します。確認したうえで、ウェルビーイング経営の効果、日本におけるウェルビーイングの現状、日本企業におけるウェルビーイングの取り組み事例を紹介します。

 

<目次>

Well-being(ウェルビーイング)とは?

森林の中でストレッチする女性の後ろ姿

 

Well-being(ウェルビーイング)は、「健康・幸福、福祉」といった意味を持つ単語です。広義では、身体・精神・社会との関係が持続的かつ良好であることを意味する言葉になります。

 

冒頭で紹介したとおり、最近では、メンバーのウェルビーイングを支援する企業が増えるようになりました。厳密な意味とは少し異なりますが、ウェルビーイングに取り組んでいる企業では、自社の取り組みを「健康経営」と呼ぶこともあります。

 

なお、厚生労働省では、就業面におけるWell-beingを推進しており、「平成30年度雇用政策研究会報告書(案)」のなかで、Well-beingの意味を以下のように定義しています。

  • 個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念

 

そして、報告書のなかで、「就業面におけるWell-being」を以下のように定義しています。

  • 働き方を労働者が主体的に選択できる環境整備の推進・雇用条件の改善等を通じて、労働者が自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を送れるようになることにより、自らの権利や自己実現が保障され、働きがいを持ち、身体的、精神的、社会的に良好な状態になることをさす。

 

出典:平成30年度 雇用政策研究会報告書(案)~人口減少・社会構造の変化のなかで、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて~(厚生労働省)

 

 

ウェルビーイングの要素

オフィスで働くビジネスウーマン

 

ウェルビーイングの要素は、さまざまな専門家によって定義づけられています。本章では、ウェルビーイングを代表するPERMA理論による定義と、ギャラップ社による定義を紹介します。

 

要素を知識としてインプットする必要がある方はさほどいらっしゃらないようですが、2つの要素を眺めることで、“ウェルビーイングがどういう概念か?”という大枠をつかめます。

PERMA理論による定義

ポジティブ心理学の推進者の一人であるマーティン・セリグマン博士は、ウェルビーイングが「構成概念」であり、以下5つのPERMA要素を測定することで表せるとしています。

  • P(Positive emotion)
    ⇒いわゆるポジティブ感情。温もり、快感、楽しみ、歓喜などの幸福度の向上要素を想像する感情
  • E(Engagement)
    ⇒時間を忘れて、物事に没頭・没入できている状態。仕事などの生産性や効率性、集中力アップにも欠かせないもの
  • R(Relationship)
    ⇒パートナー・家族・友人・仲間などとの良好な関係性。ウェルビーイングに大きな影響をもたらす要素
  • M(Meaning)
    ⇒人生の意味や意義。生きるうえでの本質につながる領域。人生の目的・価値観・優先度など
  • A(Accomplishment)
    ⇒達成・完遂する感覚。目標達成など、何かを成し遂げることで、「自分にもできる!」などの自己効力感が高まる状態

ギャラップ社による定義

ギャラップ社とは、アメリカに本社がある世界的な調査会社です。アメリカ大統領選挙の支持率の調査などで必ず登場したり、日本では『さあ才能を見つけよう』という書籍で有名なストレングスファインダー®の診断を提供したりしています。

 

ギャラップ社は、世界150ヵ国でウェルビーイングに関する調査を行ない、ウェルビーイングには以下5つの種類があると提唱しています。

  • Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング)
    ⇒自分の時間の大半を占める仕事・子育て・勉強、社会活動などに対して、情熱を持って取り組めている状態。
  • Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング)
    ⇒強い信頼と愛情を通じて、良好な人間関係が築けている状態。
  • Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング)
    ⇒経済的な安定や、効率的な資産管理・活用ができている状態。
  • Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング)
    ⇒心身ともに健康であり、日常的な活動ができるだけのエネルギーが十分ある状態。
  • Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング)
    ⇒地域社会への貢献ができていたり、自分の住んでいる地域の人々とつながっている感覚が持てたりしている状態。

 

 

ウェルビーイングが注目される背景

以下のような社会背景によって、多くの企業がウェルビーイングに注目するようになっています。

 

メンタルヘルス問題の増加

冒頭でも紹介したとおり、ITの発達で処理しなければならない情報量の増加、また、仕事で求められるスピードの上昇、感情労働に従事する人が増えるなかで、人々が仕事のなかで感じるストレスが増加しています。実際に、過去と比べてメンタルヘルスの発症者なども増加しています。

 

こうしたなかで、メンバー個人やチームの生産性を向上させていくには、メンバーそれぞれが健全な心身状態を維持するウェルビーイングの取り組みが大切になってきます。

働き方改革

働き方改革も、ウェルビーイングとの関連性が高い施策です。先ほど紹介した厚生労働省による就業面におけるウェルビーイングの定義には、働き方改革につながる以下の文言が入っています。

働き方を労働者が主体的に選択できる環境整備の推進・雇用条件の改善等を通じて、労働者が自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を送れるようになることにより……

 

働き方改革とは、働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革の総称です。働き方改革によって、企業には、以下のような制度や施策に合った対応が求められることになります。

  • 残業時間の上限規制
  • 勤務時間インターバル制度の導入促進
  • フレックス制度の拡充
  • 高度プロフェッショナル制度を創設
  • 同一労働同一賃金 など

 

仕事におけるウェルビーイングを考えるうえでは、やはり「適切な勤務時間」「適切な休息」といった要素は、基盤となる部分です。

 

出典:平成30年度 雇用政策研究会報告書(案)~人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて~(厚生労働省)

参考:雇用政策研究会報告書 概要(案)資料1 (厚生労働省)

参考:働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~(厚生労働省)

価値観の多様化

過去の日本では、終身雇用が一般的でした。昭和の時代には、新卒一括採用で正社員として就職して、年功序列のウェイトが強い人事制度にしたがって、会社で定年まで働くようなモデルが一般的でした。

 

しかし、終身雇用が崩壊して転職も当たり前のものとなり、また、フリーランスや副業、複業などの多様な働き方も増えるようになりました。さらには、ワーク・ライフ・バランスを大切にする人も増加しています。

 

こうしたなかで多様な人材に活躍・定着してもらうには、表現は悪いですが「馬車馬のように働けば、勤め上げた先に昇格や高給が待っている」という制度ではなく、ウェルビーイングの視点で労働者が主体的に働き方を選択できる社内制度や環境づくりが必要となってきます。

 

企業の社会的責任への注目

近年、企業の社会的責任に対する社会の感覚も変わりつつあります。社会における企業の存在感が増すなかで、従来以上の社会的責任を果たすことが企業に求められています。

 

企業にはビジネスにおけるコンプライアンスの遵守などと併せて、企業が事業活動をするなかで社会的な負に加担しない、マイナスの影響力を発揮しないといったことが求められています。

 

こうした企業の社会的責任のことを、CSR(Corporate Social Responsibility)と呼びます。CSRとは、企業が利益至上主義に傾倒することなく、自社のメンバーやお客様、地域住民、株主などのステークホルダーや、社会全体への責任を持ち、戦略的かつ自発的に行動を起こしていくことです。

 

企業のメンバーが、健康的な職業人生を送れるようにするウェルビーイングも、CSRの一つだととらえられるようになっています。

 

 

ウェルビーイング経営の効果

働く女性、ポートレート

 

ウェルビーイング経営を成功させると、以下のような効果・メリットが生まれます。

 

離職率の低下

ウェルビーイング経営の一環として、テレワークの導入や時短勤務、フレックスタイム制度といった多様な働き方が可能になると、たとえば、妊娠・出産を経て職場に復帰したばかりの女性や、家族の介護中のメンバーなども、自分に合う制度を主体的に選択しながら、離職せずに仕事を続けやすくなります。

生産性の向上

ウェルビーイング経営によってメンバーが自分に合った働き方を選択できるようになると、身体的・精神的・社会的に良好な状態が生まれます。結果として仕事へのモチベーションやパフォーマンスが高まり、個人やチームの生産性向上につながっていくでしょう。

 

また、ライフイベントの変化などによる離職者が少なくなれば、組織内の知の蓄積なども進みやすくなります。結果として、離職率の高い職場と比べて生産性の維持・向上が実現するでしょう。

 

働きがいの向上

ウェルビーイング経営を通じて、ワークライフハーモニー(仕事と人生の調和)が充実すれば、メンバーが感じる働きがいや企業へのエンゲージメントが向上します。

 

 

日本の現状

日本におけるウェルビーイングの現状を考えるうえで、「世界幸福度報告(World Happiness Report)」のなかで毎年発表されている「世界幸福度ランキング」が一つの参考になります。

 

調査結果は国連が設立した非営利団体「持続可能開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が発表しているものです。「世界幸福度報告」では、世界各国の居住民の幸福度を以下の項目で定量化し、幸福指数として発表しています。

  • 一人あたりの国内総生産(GDP)
  • 社会的支援
  • 健康寿命
  • 社会的自由
  • 寛容さ
  • 汚職の無さ、頻度
  • ディストピア(人生評価/主観満足度)

 

2022年の「世界幸福度ランキング」による日本の順位は、54位でした。2021年は56位、2020年が62位だったことを考えると、日本は、徐々に順位を上げているといえるかもしれません。

 

一方で、先進諸国のなかで見ると、日本の順位は最低です。日本の場合、「GDP」と「健康寿命」が高い一方で、「社会的自由」「寛容さ(他者への寛大さ)」「人生評価/主観満足度」が著しく低い傾向があります。

 

なお、内閣府のレポート「満足度・生活の質に関する調査報告書 2022~我が国の Well-being の動向~」においても、日本人の総合的な生活満足度は、2021年の調査からほぼ横ばいです。

 

国民性による回答傾向などもあるため、ランキングの順位がウェルビーイングの実態すべてとはいい切れません。ただし、「社会的自由」「寛容さ(他者への寛大さ)」「人生評価/主観満足度」といった要素を軸としたウェルビーイングに関して、改善できる余地があるとはいえるでしょう。

 

出典:満足度・生活の質に関する調査報告書 2022~我が国の Well-being の動向~(内閣府)

参考:World Happiness Report

 

 

日本企業の取り組み

近年では、日本でも大手企業を中心にウェルビーイングに取り組む企業が増えてきています。日本企業のウェルビーイング事例を3つ紹介しましょう。

 

楽天

楽天グループは、ウェルビーイングを組織開発の中心に位置づける企業です。

 

楽天では、どのように素晴らしいビジネスモデルであっても、運営する人や組織の価値観によって、ビジネスモデルの「質」が変わるという考え方から、ウェルビーイングを軸とする企業文化の醸成に力を入れてきました。

 

楽天グループにおけるウェルビーイングの取り組みは、以下の「楽天健康宣言(Well-being First)」というものです。

【「楽天健康宣言(Well-being First)】

楽天は、従業員の心身の健康および社会的なウェルビーイングの向上を目指します。
そして、イノベーションを通じて人々と社会をエンパワーメントします。

 

楽天健康宣言の最大の特徴は、自社のメンバーのみならず、楽天を支えるすべての人(ステークホルダー)の健康・安全を大切にしていることです。また、楽天の強みを活かしながら政府や教育機関、病院などとのコラボレーションを行ない、メンバーの健康増進を目指していく旨が書かれています。

 

参考:従業員の健康・ウェルネス(楽天グループ)

デンソー

デンソーでも、メンバーの健康を経営的な視点でとらえ、ウェルビーイングにつながるさまざまな取り組みを積極的に行なっています。取り組んだ結果、経済産業省・日本健康会議から、5年連続で「健康経営優良法人 ホワイト500」に選ばれています。

 

デンソーのウェルビーイング施策で特徴的なのは、それぞれの部署で異なる健康増進へのアクションを起こしている点です。全社的に同一のアクションをトップダウンで行なっているわけではない形です。

 

デンソーがこうしたウェルビーイングを行なう理由は、現場を大切にする文化があるからです。各職場に「健康リーダー」を配置し、それぞれの働き方や健康課題、コミュニケーション方法に合った施策の考案・実施をしています。

 

たとえば、“運動”にフォーカスしたアクションをとってみても、デスクで座ったままできるストレッチを始める部署から、有志でフルマラソンや山登りにチャレンジする人たちまで多種多様です。

キャノン

キャノンでも、行動指針に「健康第一主義」を掲げながら、さまざまなウェルビーイングの取り組みを実施しています。

 

キャノンの大きな特徴は、各メンバーの能力を最大限に発揮し大きな成果を生み出す原動力として健康経営が不可欠ととらえ、以下のような重点目標と実施項目を、中央安全衛生委員会で表明している点です。(※以下は、2019~2021年までの内容です)

 

【重点目標】

  1. 休職日数減少
  2. プレゼンティーイズム減少
  3. ハイリスク者の減少
  4. メタボ該当者の減少
  5. がん検診受診の定着

 

【実施項目】

  1. メンタルヘルス対策
  2. 生活習慣病対策
  3. 全社員への継続的な啓発活動
  4. 新型コロナウイルス感染症対策

 

キャノンでは、全メンバーへの継続的な啓発にも力を入れており、健康促進を促すイベントやキャンペーンも多く実施しています。

 

 

まとめ

Well-being(ウェルビーイング)とは、働く人の身体・精神・社会との関係が持続的かつ良好であることです。近年では、以下のような社会的背景から、ウェルビーイング経営の重要性が高まっています。

  • メンタルヘルス問題の増加
  • 働き方改革
  • 価値観の多様化
  • 企業の社会的責任への注目

 

企業がウェルビーイング経営を行なうと、働く人や組織に離職率の低下や生産性、働きがいの向上などの効果を得ることができるでしょう。

 

なお、ウェルビーイングの取り組みは、メンバーのストレスマネジメントとも大きな関係があります。メンバーが抱えるストレスの早期発見や予防策に興味がある人は、以下のページも参考にしてみてください。

 

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

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・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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