ハローワークなどが促進するトライアル雇用の制度をご存じでしょうか。
トライアル雇用は、企業と求職者のミスマッチを防ぎ、また、助成金制度を利用できるため、自社で活用できるようであれば、とても便利な制度です。
記事ではトライアル雇用の基礎知識や実施のメリット、企業がトライアル雇用を実施しようとする際の注意点を紹介します。
もし、ハローワーク経由の採用をお考えであれば参考にしてみてください。
<目次>
トライアル雇用の基礎知識
まず、トライアル雇用の概要や仕組み・流れ、求職者の要件などを確認しましょう。
トライアル雇用とは?
トライアル雇用とは、職業経験の不足などが理由で即時の本採用が難しい求職者を対象として、試用雇用(原則3ヵ月間の)をすることで、適性や能力を見極めたうえで、期間の定めのない無期雇用契約(本採用)に移行できる制度です。
令和3年2月以降は、コロナ禍の特例として、未経験の職種へのチャンレンジを希望する離職者も、トライアル雇用の対象にする措置などが実施されました。
通常の「試用期間」との違い
多くの企業で導入されている「試用期間」は、無期限の雇用契約を結んだうえで実施されるものです。
試用期間の場合、合理的な理由がない限りは、原則としてそのまま本採用になることが前提です。
しかし、トライアル雇用の場合には本採用義務がありません。また、トライアル雇用を利用した場合、後述する助成金を受給することも可能になります。
トライアル雇用後の本採用率は?
実績を見ると、トライアル雇用された人の約8割が常用雇用に移行しています。
この数字から見ても、トライアル雇用は企業にとって本採用につながる人材と出会える制度といえるでしょう。
トライアル雇用の仕組み・流れ
トライアル雇用の手続きは、以下の流れで進められていきます。
トライアル雇用の制度を利用するときに事業主が行なうことは、以下の3ステップです。
- ハローワークに「トライアル雇用求人」を提出する
- 求職者を原則3ヵ月間の有期雇用で雇い入れる
- トライアル雇用の開始日から2週間以内に、トライアル雇用実施計画書と労働条件が確認できる書類(雇用契約書など)をハローワークに提出する
「トライアル雇用実施計画書」や「結果報告書兼支給申請書」の様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
なお、令和4年8月時点のホームページには、新型コロナ特例様式などもあります。
トライアル雇用制度の利用を本格的に検討する際には、最新の情報を確認してください。
トライアル雇用の対象となる求職者の条件
トライアル雇用は、以下いずれかの要件を満たし、紹介日に求職者本人がトライアル雇用を希望した場合に、対象になる仕組みです。
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
- 55歳未満で、ハローワーク等で担当者制による個別支援を受けている
- 就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する
要件2の「離職している」とは、パート・アルバイトを含め、一切の就労をしていないことです。
また、要件3の「安定した就労」とは、期間の定めのない労働契約を締結し、1週間の所定労働時間が通常の労働者の所定労働時間と同等であることを指します。
要件5では、以下の人たちに「特別な配慮」が必要としています。
- 生活保護受給者
- 母子家庭の母等
- 父子家庭の父
- 日雇労働者
- 季節労働者
- 中国残留邦人等永住帰国者
- ホームレス
- 住居喪失不安定就労者
- 生活困窮者
なお、コロナ禍の特例として、以下のすべての要件を満たしたうえで、紹介日に求職者本人がトライアル雇用を希望した場合も対象になっていました。
- 紹介日において、離職している
- 紹介日において、就労経験のない職業に就くことを希望している
この特例の「離職」には、シフト制労働者等のシフトが減少した場合なども含まれます。
企業がトライアル雇用を実施するメリット
トライアル雇用の実施企業には、以下の効果・メリットがあります。
採用のミスマッチを防ぎやすい
トライアル雇用の場合、実際に仕事をしてもらいながら3ヵ月という期間のなかでじっくりと適性やポテンシャルを見極められます。
スキルや価値観などのさまざまな点で自社に合う人材を雇用しやすくなりますし、お互いにミスマッチもないでしょう。
本採用の義務はなくリスクが低い
トライアル雇用には、前述のとおり、一般の試用期間と違って本採用の義務がありません。
対象者が自社の求めるスキル・カルチャーに合わなければ、3ヵ月でトライアルが終わりになるだけの制度です。
そのため、合わない人材から不当解雇などで訴えられるリスクがない点も、企業側のメリットになります。
トライアル雇用助成金が支給される
トライアル雇用を行ない、一定要件を満たした場合、国からトライアル雇用助成金が支給されます。
ただし、この助成金の申請・受給をするには、「トライアル雇用助成金の15要件」と「助成金共通の16要件」を満たす必要があります。要件の一部を紹介しましょう。
・【トライアル雇用助成金の要件】
- 公共職業安定所、地方運輸局又は職業紹介事業者等(以下「安定所・紹介事業者等」という。)のトライアル雇用求人に係る紹介により、対象者をトライアル雇用(国、地方公共団体、特定独立行政法人、特定地方独立行政法人から受けている補助金、委託費等から支出した人件費により行ったトライアル雇用を除く。)した事業主である。
- 対象者に係る紹介日前に、当該対象者を雇用することを約していない事業主である。
- トライアル雇用を行った事業所の事業主又は取締役(取締役会を設置していない事業主においてはこれに準ずるもの。)の3親等以内の親族(配偶者、3親等以内の血族及び姻族をいう。)以外の対象者を雇い入れた事業主である。
- トライアル雇用を開始した日の前日から起算して過去3年間に、当該トライアル雇用事業所と雇用、請負、委任の関係にあった対象労働者又は出向、派遣、請負、委任の関係により当該雇い入れに係る事業所において就労したことがある対象労働者を雇い入れるものでない事業主である。
- トライアル雇用を開始した日の前日から起算して過去3年間に、当該トライアル雇用に係る対象者に職場適応訓練(短期訓練を除く。)を行ったことがない事業主である。 などの15要件
・【助成金共通要件】
- 雇用保険適用事業所の事業主である。
- 助成金の支給又は不支給の決定に係る審査に必要な書類等を整備、保管している事業主である。
- 助成金の支給又は不支給の決定に係る審査に必要であると管轄労働局長が認める書類等を管轄労働局長の求めに応じ提出又は提示する、管轄労働局の実地調査に協力する等、審査に協力する事業主である。 などの16要件
なお、対象労働者は、以下3つのコースで異なります。一般トライアルコースの条件は、かなり複雑です。注意しましょう。
- 一般トライアルコース
- 新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース
- 新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
支給額は、一般トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応トライアルコースと、新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコースとで異なります。
一般トライアルコースと新型コロナウイルス感染症対応トライアルコースの場合、支給対象者1人につき月額4万円が支給されます。
ただし、以下に該当する場合は、月額5万円になる仕組みです。
- 一般トライアルコースで、対象労働者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合
- 新型コロナウイルス感染症対応トライアルコースで、事業主が雇用調整助成金を受給していない等の場合
一方で新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコースの場合、支給対象者1人につき月額2万5千円の支給となります。
ただし、事業主が雇用調整助成金を受給していない場合は、1人につき月額3万1,200円です。
なお、支給対象者が支給対象期間の途中で離職し、特定の理由に該当する場合や、本人の都合による休暇または事業主の都合による休業があった場合などは、それぞれに示す期間中に実際に就労した日数に基づいて計算した以下の額になります。
出典:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応(短時間)トライアルコース)
助成金の支給を受けようとする事業主は、トライアル雇用期間が終了した日(以下いずれかのタイミング)の翌日から起算して2ヵ月以内に、トライアル雇用を行なった事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長に報告書兼支給申請書を提出します。
- トライアル雇用労働者が、トライアル雇用期間の途中で離職した場合は当該離職日
- トライアル雇用期間の途中で常用雇用へ移行した場合は、当該常用雇用移行日の前日
- トライアル雇用期間の途中で1週間の所定労働時間が30時間未満に変更された場合は、当該労働条件の変更が行われた日の前日
ただし、管轄労働局長が認める場合には、管轄労働局長の指揮するハローワークの長を経由して提出することが可能です。
トライアル雇用を実施するときの注意点
トライアル雇用制度を活用し、自社に合う人材を定着させるには、以下の点に注意する必要があります。
教育体制の準備
トライアル雇用の対象者には、長いブランクのある人や、就労経験が不足している人、未経験者が多い傾向があります。
そのため、カテゴリ的には中途採用になりますが、自社の教育体制のもとで、一から指導・教育が必要なケースが多いと考えたほうがよいでしょう。
トライアル雇用の効果性を高めるには、採用と共にある程度の教育体制を整えることが大切です。
労働基準法は通常通りの適用
トライアル雇用は、いわゆる“お試し期間”が設けられているだけであり、トライアル雇用期間中も雇用した相手が労基法等で守られる“労働者”であることは変わりません。
そのため、トライアル雇用期間も、社会保険への加入・賃金の支払いは必要です。
まとめ
トライアル雇用は、3ヵ月というトライアル期間を設けたのちに、採用判断ができる制度です。
実際に働いてもらって見極めをすることで、採用時のリスクを減らすことができます。また、対象者が要件に合致すれば、助成金の受給も可能になります。
ただし、トライアル雇用そのものや助成金を利用するには、要件に合った対応をする必要があります。
また、トライアル雇用制度の効果を高めるには、自社の教育体制をしっかり準備したうえで、求職者を迎え入れることも大切になるでしょう。
ハローワーク経由の採用をお考えであれば、選択肢になるかと思いますので、参考にしてください。