人事マネジメントとは?組織の成長に欠かせない重要性と基本概念を紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/10/03

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

人事マネジメントとは?組織の成長に欠かせない重要性と基本概念を紹介

人事マネジメントは組織の成長に欠かせません。

 

ただ、人事マネジメントの重要性は分かりつつも、「どのように実践すればいいかわからない」と悩まれている方も少なくありません。

 

記事では人事マネジメントとは何か、また重要性と基本概念を確認したうえで、組織で人事マネジメントを実践するプロセスを紹介します。

<目次>

人事マネジメントとは?

チームでミーティングを行うビジネスパーソン

 

人事マネジメントとは、経営戦略や事業計画の実現を目的に、自社の人的資本(人的資源)を適切に管理することです。

 

つまりシンプルには、 “人”と“組織”のマネジメントです。人材育成と組織開発を併せた概念ともいえるでしょう。

 

当然、適切な人事マネジメントは目標達成や生産性の向上、持続的な成長につながります。

 

逆に言えば、適切な人事マネジメントができなければ、生産性の低迷や業績目標の未達、利益の低迷などによって企業の存続性が失われることになります。

人事マネジメントが重要な理由

人事マネジメントが重要な理由はおもに3つあります。

  • 人材不足
  • 働き方改革の推進
  • 分業の加速と人材育成

 

人材不足

まず、1つ目の理由は国内における人材不足です。日本では少子化により、絶対的な労働清算人口の急激な減少が進んでいます。

 

すでに慢性的な人材不足に陥っている企業や業界も少なくありません。

 

帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2022年4月)』によると、正社員の人手不足割合は45.9%で、前年同月から8.7ポイントの大幅増加となりました。
特に情報サービス業では64.6%となり、IT人材の不足感が目立っています。

 

これまで少子化の一方で、大学進学率が上昇してきたことで、大卒人材は減少しておらず、大卒人材の雇用においては、少子化の影響を感じてきた企業は少ないかもしれません。

 

しかし、今後は大学進学率が頭打ちとなり、急激に人材不足が加速していきます。

 

また、前述の通り、その中で規模拡大しているIT業界やWeb業界を筆頭に優秀人材の取り合いは加速しており、必要な人材の確保、また人材の定着を図るのは喫緊の課題となっています。

 

こうした人材の採用、また、育成と活躍の実現において不可欠なのが人事マネジメントです。

 

働き方改革の推進

働き方改革の推進により、時間外労働の上限規制が厳しく運用されるようになり、有給休暇の消化日数なども義務化されたりしています。

 

働き方改革は勤怠管理だけにフォーカスした概念ではありませんが、過重労働による自殺問題などを契機としてサービス残業や過重労働に対する社会的な価値観は大きく変わっており、勤怠管理に関する企業の取り組みは不可避です。

 

人材の確保・定着を考えるうえでも、労基法に基づくホワイトな労働環境、また、多様な働き方の受け入れは必要不可欠です。

 

このように「長時間労働で何とかする」という選択肢がなくなったなかで、時間生産性を向上させる、また、多様な働き方を前提としたマネジメント方法の確立などが求められています。

 

リモートワークへの対応やリモートワークで生じがちな求心力や団結力の減退に対する解決策なども人事マネジメントで考える必要があるテーマといえます。

 

分業の加速と人材育成

技術が発展したなかで、従来は兼務・兼任だったような仕事も分業が進んでいます。

 

たとえば、『THE MODEL』に代表されるインサイドセールスとフィールドセールス、カスタマーサクセスの役割分担などが筆頭です。

 

分業による生産性の向上、同時に組織としての連携・一体感の醸成、また、分業によって専門職化が進むことによる社内待遇と市場相場が比較されやすくなることへの対応なども人事マネジメントに求められています。

人事マネジメントの6つの要素

人事マネジメントには6つの要素があります。自社の状況を踏まえつつ、各要素をバランスよく、時に優先順位をつけながら最適化していくのが人事マネジメントの基本となる考え方です。

  • 採用
  • 配置
  • 評価・報酬
  • 育成
  • 組織開発
  • 休職・復職

 

採用

採用は、経営戦略や事業計画の実現に必要な人材を確保することです。知識労働が広がるなかで、採用力が企業の競争力に直結する時代にもなってきています。

 

専門職の採用などに際して、採用は採用だけで完結せず、例えばジョブ型雇用の導入や評価制度の改定、リモートワークの許容といった形で、報酬や評価、働き方などの組織デザインにも連動させることが必要となっています。

 

配置・異動

適性を見て部署異動や職種転換を行うことも人事マネジメントの大切な要素です。適材適所を意識して、メンバーの強みを発揮できる人材配置を行なうことで、生産性を向上させられます。

 

また、配置や異動は人材育成、キャリア構築の一環でもあり、また、キャリアプラン等をすり合わせながら配置・異動を実施することが、定着促進やエンゲージメント向上にもつながります。

 

評価・報酬

メンバーの勤務状況やパフォーマンスを評価して、配置や報酬につなげるのも人事マネジメントの一つです。評価は待遇に連動するものであり、メンバーにとって非常に大きな関心事です。

 

評価においては透明性や公平性の担保が重要であり、一定規模を越えた場合、評価制度を導入・運営することは不可欠です。

 

評価制度は導入して終わりではなく継続的に運用しながら改善しましょう。

 

メンバーに対する給与や福利厚生の設計と実務も報酬に関する人事マネジメントです。固定給とは別に支給されるインセンティブなども報酬のひとつです。

 

メンバーの意欲を高めるためには、成果が正しく評価に反映され、報酬に連動するようにすることが大切です。

 

専門化が進み市場相場との比較がしやすくなった、また、インターネットによる組織外部とのつながりが強くなったなかで、報酬は大きな離職要因にもなってきています。

 

報酬の改善には労働生産性の向上が不可欠ですが、重要な経営課題であるといえます。

 

育成

メンバーの職種や役職に合わせて必要となる育成を行うことも人事マネジメントの重要な仕事です。育成にはOff-JTでの研修、OJTなどがあります。

 

育成では、知識のインプットやスキル向上だけでなく、人格の醸成、ミッション・ビジョン・バリューの浸透、仕事や組織へのエンゲージメント向上、チームビルディング、リフレクションなども大切です。

 

前述したようにOff-JTやOJTといった教育に加えて、配置や異動も含めたOJDのような実務経験の設計も人材育成していくうえで大事です。

 

組織開発

育成がメンバーひとりひとりに焦点をあてた考え方だとすると、人が集まった組織、コミュニティーに焦点を当てたのが組織開発の考え方です。

 

人材育成と明確に区分することは難しいがですが、ミッション・ビジョン・バリューの浸透や社風醸成、共通言語の構築、インナーブランディングをどのように取り組むかなどが組織開発です。

 

また、評価や報酬、キャリア制度や福利厚生なども組織開発と関連する部分です。育成以上に成果が見えづらく、かつ取り組みづらいものですが、非常に重要な要素です。

 

休職・復職

一時的なメンバーの労務の停止や職場へ復帰する際の支援も人事マネジメントの一つです。

 

長期の体調不良や出産・育児のタイミングで適切な休暇が取得できるよう、制度等を設けることが大事です。

 

休職・復職をきちんと支援してくれる企業は、メンバーにとって長く働きやすく、定着率が高くなります。

 

知識やスキルを持った社員がきちんと定着してくれることは組織の生産性向上にもつながります。

 

また、最近ではサイボウズの育自分休暇(離職後、最長6年間までの復帰を認める制度)のように、人材確保やエンゲージメント施策と紐づけて休職・復職制度を構築するような企業も出ています。

人事マネジメントのプロセス

人事マネジメントを実行する際には5段階のプロセスを意識するとよいでしょう。

  • 1.組織の課題を明確にする
  • 2.課題解決に向けた組織モデル、人材像を考える
  • 3.現在の組織・人材と比較し、計画を立てる
  • 4.実行する
  • 5.結果を評価し改善する

 

1.組織の課題を明確にする

まずは組織が目指す姿を明らかにして、現状とのギャップ、達成を阻んでいる課題を明確にすることが必要です。

 

組織が目指す姿を示した経営戦略、また、事業特性を踏まえた組織ビジョンなどがなければ、対症療法だけになってしまいます。

 

人事マネジメントは、経営戦略を実現するための手段であることを忘れずに、現状の問題はもちろん、実現すべき組織像と現状のギャップを明らかにすることが大切です。

 

2.課題解決に向けた組織モデル、人材像を考える

次に、明確にした課題を解決できるような組織モデル、人材像を考えます。必要となる組織モデルや人材像は、事業特性や企業のフェーズ、経営戦略によって変わります。

 

たとえば、他社の組織モデルや事例をそのまま取り入れても、背景となる事業特性や企業ステージなどが違えば役に立ちません。

 

3.現在の組織・人材と比較し、計画を立てる

定義した組織モデル・人材像を現状と比較して、計画を立てましょう。どのような優先順位や手法、組織開発や人材育成に取り組むかを検討するのが大事です。

 

採用活動を行なって外部から必要な人材を確保したり、組織モデルに応じて評価や報酬制度を変革したり、中長期スパンで人材育成に取り組んだりすることになるでしょう。

 

4.実行する

計画した内容を実行します。実行する際には、メンバーへの共有や理解も非常に重要です。

 

人事マネジメントは当然人と組織に関わる事であり、メンバーの関心も高いですし、メンバーに大きな影響を与えることも有るでしょう。

 

事前に丁寧にメッセージする、また、次の結果の検証に向けても、導入・実施しながら丁寧に状況を確認することが必要です。

 

5.結果を評価し改善する

実施した結果を評価して、改善につなげましょう。人事マネジメントは人に関わる問題だからこそ、透明性や公平性が大切です。

 

もちろん全部を仕組みや制度で解決できるわけではありませんが、ケースバイケースで個別に判断しすぎると、あとあと弊害を生む可能性があります。

 

一方で、仕組みや制度は導入しただけで、いきなり上手くいくことはありません。

 

評価制度や報酬制度などがわかりやすいですが、自社の方針に合わせて制度設計して導入したえうで、運用しながら細かく修正、チューニングしていくことが大切です。

 

導入して終わりになったり、運用することが目的化したりしないように、きちんと検証・改善を行い続けることが大切です。

人事マネジメントを成功させるポイント

プレゼンをするビジネスパーソン

 

人事マネジメントを成功させるためには、以下で紹介する3つのポイントを踏まえて取り組むことが大事です。

 

 □企業戦略との一貫性を持たせる
 □情報を共有する
 □中長期目線を持つ

 

企業戦略との一貫性を持たせる

繰り返しになりますが、人事マネジメントは経営戦略や事業計画を実現するための手段です。従って、人事マネジメントを考える際に、経営戦略や事業計画との紐づけを疎かにしてはいけません。

 

もちろん、局所的・短期的には対症療法的に対応しなければならない課題もあるでしょう。

 

ただし、制度や仕組みを考える際には、その制度や仕組みを通じてどんな組織や人材育成を実現するのか、それは経営戦略や事業計画の実現にどう紐づくのかを検討することが大切です。

 

なお、知識労働のウェイトが増える中で、人事マネジメントが経営戦略の実現に与える影響も非常に大きくなってきています。

 

それを踏まえて、人事マネジメントの視点から経営戦略や事業計画に影響を与えることが、最近注目されるCHROや戦略人事の役割でもあります。

 

情報を共有する

人事マネジメントに関する情報は経営層や現場ときちんと共有することが大切です。

 

上述の通り、人事マネジメントは経営戦略や事業計画と紐づくものだからこそ、経営陣ときちんと情報共有、議論しないと、打ち手や意思決定がズレる恐れがあります。

 

同時に、人事マネジメントの意思決定は現場で働くメンバーに大きな影響を与えるものです。だからこそ、現場への情報共有も大切です。

 

たとえば、評価基準や報酬設計の意図やコンセプトはしっかりと現場と共有して、メンバーの理解や自発的な行動を引き出すことが重要です。

 

目指す組織モデルや人物像も評価制度などに連携させながら、しっかりと浸透させましょう。

 

中長期目線を持つ

人事マネジメントを実践するうえでは、中長期目線を持つことが大切です。人事マネジメントの実務は、日々のオペレーションで実施しないといけないことが多々あります。

 

たとえば、採用活動、定期研修、人事制度の運用等です。

 

もちろん上記のようなオペレーションは非常に重要です。ただ、人事マネジメントにおける組織開発や人材育成の取り組みは短期的に実現するようなものではありません。

 

短期的な目線に偏ってしまうと、変革や飛躍的な成長は実現できません。短期の採用目標達成や人事制度の運用と並行して、中長期的な目線に立った検討や施策が大切です。

組織を支える人事マネジメントを実現しよう

少子化が進み、また、知識労働が増える中で、人事マネジメントが経営に与える影響はどんどん大きくなっています。

 

人事マネジメントは、採用、配置、評価・報酬、育成、組織開発、休職・復職と、働くメンバー、またメンバーが集まったチームや組織に関するすべてのことです。

 

非常に多岐にわたり、日々のオペレーションと並んで、中長期的な検討や取り組みが求められるものです。
企業戦略や事業計画と一貫性を持たせ、着実に自社の組織を進化させていきましょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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