人事評価制度の作り方とは?|作成ステップと運用で挫折しないためのポイント

人事評価制度の作り方とは?|作成ステップと運用で挫折しないためのポイント

組織が一定の規模になってくると必要になるのが、人事評価制度です。人事評価制度は給与や待遇などにもつながってくるものだからこそ社員の関心も高く、不満の要因になりやすい部分です。

 

人事評価制度はどのように設計し、運用していけばいいでしょうか。記事では人事評価制度を作成・更新する際に基本となる事項、制度の必要性から作成ステップ、運用のポイントまでを紹介します。

<目次>

人事評価制度とは?

人事評価制度とは、評価制度、報酬制度、等級制度などを組み合わせ、「従業員の一定期間におけるパフォーマンスを評価し、待遇に反映するための仕組み」です。

 

評価制度は、あらかじめ決めておいた基準や目標をもとに、達成した度合いなどによって評価を行います。そして、評価制度による評価をベースに、社員の報酬を決定する制度が報酬制度です。

 

最後に、等級制度とは、社員に求められる役割、能力、職務を階層化した制度であり、それぞれの階級において必要な資格や技能、職務、役割が定められています。等級制度と報酬制度がリンクしていることが一般的です。

 

これらの制度が連携し合うことで、社員の評価が行われ、待遇や昇格などの決定に反映されていきます。

なぜ人事評価制度は必要か?

人事評価制度は非常に重要なものである一方、新たな付加価値を生み出すわけではありません。そして、人事評価制度の導入や運用にはそれなりの手間もかかります。

 

しかし、組織が一定規模を超えると、人事評価制度というのは不可欠になってきます。必要となる理由は主に以下4つです。

 

公正な評価の実現

社員数が少ない組織では、社長が社員の働きぶりを直接確認できるため、社員を評価するのは容易です。

 

しかし、組織の人員が一定規模を超えてくると、社長の目が隅々まで行き届きにくくなってきます。従って、いわゆる“社長が鉛筆をなめて評価を決める”やり方では、うまくいかなくなります。

 

また、組織が拡大していく中で、組織全員が社長と強い信頼関係で結ばれた状態の維持は難しくなります。そうなってくると、社長の主観ではなく、客観的な制度に基づいて公正な評価を実現していくことが重要になってきます。

従業員のモチベーションと満足度の向上

仕事するうえで、「何をどれだけ頑張ればどう評価してもらえるのか?」が曖昧であれば、積極的に取り組もうという気持ちが起こりにくいものです。評価基準を定めて、どれだけ頑張ればいいのか、成果を出せばどれだけの報酬がもらえるのかを明確にすることは、従業員のモチベーション向上につながります。

 

評価基準と報酬の連携が明確となることで、中期的なキャリアプランなども立てやすくなり、満足度も向上するでしょう。

 

的確なフィードバックを行えるようにする

客観的な基準があることにより、上司から基準をもとにした的確なフィードバックを行うことが可能になります。客観的な基準であれば公平性もあるため、フィードバックに対する部下の納得感も得られやすくなります。

 

社員教育との連携

人事評価制度は、どういった行動や成果を評価するのかという会社としてのメッセージでもあります。

 

人事評価制度を整備することで、社員教育でも育成のゴールが明確になります。また、「この研修でどんな要素を伸ばすのか?」といったことも試行しやすくなります。人事評価制度を整備することで、一貫した人材育成もしやすくなるのです。

人事評価制度の主な考え方

人事評価制度には、組織文化や時代の変化に応じて、さまざまなものが存在します。ここでは、人事評価制度の代表的な考え方を紹介します。なお、制度をつくるときは、ひとつの考え方だけで作るわけではなく、複数の考え方を組み合わせて作ることが多くなります。

 

成果主義

年齢、勤続年数、学歴、経験などではなく、仕事の成果や成績に応じて評価を行うのが成果主義です。

 

1990年代のバブル崩壊と終身雇用制度の崩壊やグローバル化の波により、競争力の向上や報酬の適正化を目的に、日本でも成果主義の導入が進みました。

 

メリットとしては、きちんと仕事の成果に応じて評価することで従業員のモチベーションが向上する、また、優秀な人材を集めやすくなります。成果主義は、現在ではほとんどの会社における人事評価制度の中核となる考え方です。

 

ただし、成果主義は決して万能なものではなく、成果主義に偏重しすぎると、短期的に結果が出る動きだけが実施される、数字に表れない部分の評価がなおざりになる、制度の作りによっては個人プレーに走る人が出てしまいチームワークが乱れるといった可能性があります。

 

また、組織の中には成果を定量化しにくい仕事もあります。さらに数字で分かりやすい成果が出る営業職も、前任者から引き継いだ顧客構造、担当商材や市場など、個人の努力や実力だけですべての結果が決まるわけではなく、成果を公正に評価することは難しい側面があります。

年功評価

年功評価は、年功序列ともいわれ、入社時の年齢、社会人年齢をベースに昇給昇格などを決定していく仕組みです。

 

当然、勤続年数によって待遇が左右されることになってきます。過去の日本では「終身雇用を前提にした新卒一括採用」が行われ、それに伴って「経験に応じて貢献も大きくなっていく」という考え方に基づく年功評価が行われてきました。

 

しかし、終身雇用が崩壊して転職が当たり前となり、また、企業組織における職種の専門分化が進んだこともあり、年功評価はあまり妥当性がなくなってきています

 

今では、報酬制度内において、入社後の一定期間だけ “年齢給”が昇給していく期間を設けるといった形で残っている ケースが大半でしょう。

 

能力評価

年功評価に廃れた中で、成果主義と同様に注目が集まったのが能力評価の考え方です。能力評価は、従業員個人が保有するスキルや経験によって評価を行うものでs。

 

成果主義との違いは、成果主義では仕事の「成果」を見るのに対して、能力評価では「人(保有能力)」を評価の対象とする点です。

 

成果は個人の努力や能力以外の要素でも左右されることを考えると、個人の能力を評価するという考え方は一定の説得力があります。

 

しかし、能力を持っていても発揮して成果につなげられていなければ意味がない(評価する対象ではない)という考え方、また、そもそも能力を客観的・定量的に評価することがそもそも難しいという側面もあります。

 

結果的に、等級制度のなかに一定の能力評価要素を取り入れたり、報酬制度の加算要素として推奨資格などの測定が分かりやすいものだけ反映されていたりするケースが多くなっています。

職務評価

職務評価は、各職務の内容や性質を分析して、必要となる知識や技能、精神的負荷や肉体的負荷、責任の重さや作業条件などの要素をもとに、その人が担当する職務の価値を相対的に評価するもです。

 

能力評価は「人」を評価するのに対して、職務評価はその人が担当する「職務」を評価するものです。その点では、職務評価は“保有する能力も発揮されなければ意味がない”という考え方に基づいて能力評価を一歩進めたものとも言えるかもしれません。

 

なお、最近トレンドとなっているジョブ型雇用は、職種の専門分化を前提として、職務評価の色を強くしたものといえるでしょう。

 

今後も専門職、スペシャリスト分野ではジョブ型雇用の導入が進むと考えられます。ジョブ型雇用×(成果主義+職務評価)といった形での人事評価制度は今後増えていく可能性は高いかもしれません。

 

役割評価

役割評価は、文字どおり従業員の役割に基づいて評価する考え方です。職務評価の考え方にマネジメントなどの役割を加味するという形で運用されていることが多くなります。

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、該当の職種で成果を上げている人の行動特性を明確化して、それを評価基準とする考え方です。

 

自社が求める人材像を「成果を上げられる行動」というレベルに具体化することで、従業員も努力しやすい、人材育成にも適用しやすいとされ、一時的ブームとなりました。コンピテンシー評価は、能力評価をより行動レベルに落とし込んで、人材育成に使えるようにしたものともいえるかもしれません。

 

ただ、実際にコンピテンシーの基準をつくることが難しい、同じ職種でも複数の“勝ちパターン”があることを反映できない、価値観や強みなどを無視して行動だけを押し付けることは難しいなどの難易度もあり、導入企業は減少傾向にあります。

 

360度評価

360度評価とは、名前の通り、一人の従業員に対して上司だけが評価するのではなく、同僚、部下も含め多面的な方向から評価を行う考え方です。

 

多面的な評価を行うことで、一人だけで判断する場合よりも客観性が担保されやすいという考え方によるものです。また、自己評価と上司評価、同僚・部下評価を比べることで、本人の気づきや内省につながるとい点も大きなメリットです。

 

一方で、評価に慣れていない一般社員が評価することで主観的な評価になりやすくなる、相互に評価することで不正が起こる、また、評価者増える分運用が非常に煩雑になるといった欠点もあります。

 

結果的に、報酬制度などへの連携は限定的にする、人材育成を主目的として管理職層に絞って実施するといった形で導入している企業が多くなります。

人事評価に関連して押さえておきたいキーワード

人事評価制度では、時代の変化により新しい考え方も登場します。ここでは古典的なものも服まで、押さえておきたいキーワードをいくつか紹介します。

 

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO)とは、経営学者ドラッカーによって提唱されたマネジメントの手法です。MBOは、Management by Objectives & Self Management の省略で、直訳すると“目標と自己統制によるマネジメント”といった意味合いです。

 

MBOの基本的な考え方は、組織全体の目標から紐づけて、上司と部下のコミュニケーションを通じて目標を設定する。上司-部下で合意できる目標を設定することで、上司は部下に権限委譲したり自主性に任せたりできるようになる、上司は部下の主体性を引き出したうえで目標の進捗管理や達成のサポートに臨むというものです。

 

MBOは組織におけるマネジメントの基本形であり、同時に「目標設定して、目標の達成率で評価する」という形で、人事評価制度に連携させている企業が多くなります。

 

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金は、その名の通り、同じ労働に対しては同じ賃金を支払うべきという考え方です。同一労働かどうかは、業務内容や責任の程度、職種変更や転勤の有無など見て総合的に判断されます。

 

日本では、1990年代~2000年代に非正規労働者が増加し、近年では非正規労働者の割合は4割に達するとされています。こうした非正規雇用者の待遇改善施策として、政府による働き方改革のひとつとして導入されています。

 

今後の人事評価制度を設計するうえでは、同一労働同一賃金は守らなければならない原則のひとつです。正規雇用と非正規雇用の間で同一労働に対する賃金格差が生じないことはもちろん、正規雇用の従業員間でも年功評価や(保有)能力評価の考え方は、場合によっては同一労働同一賃金に反する可能性もありますので注意が必要です。

ジョブ型雇用

ジョブ型雇用とは、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって職務内容や待遇を明確にしたうえで、職務に適したスキルや経験をもつ人材を採用する、その職務に限定して雇用契約を結ぶという雇用の考え方です。

 

ジョブ型雇用が注目されている背景には、AIエンジニアやデジタル人材などをはじめとして、高い専門性を持った人材の獲得競争が激化していることがあります。

 

これまでの日本企業では、採用時点では職種を限定せず、入社後の研修や面談を経て担当職務を決定する、また、初期配属後も職種を超えてジョブローテーションを実施しながら総合職(ジェネラリスト)を育成するというメンバーシップ型雇用が主流でした。

 

近年では、新卒採用でも総合職と研究職、エンジニア職など、大まかな配属先は確定させた職種別採用をしている企業は増えていますし、中途採用は配属先を明確して実施するケースが大半です。ただ、これらも雇用契約自体はメンバーシップ型雇用となっているケースが大半です。

 

ジョブ型雇用は、企業側にとっては、雇用まで含めて配属先を明示することで高い意欲を持った人材を集めやすい、また、獲得競争が激しい職種などに関して報酬テーブルを通常のものとは別個で設定しやすいなど、専門性を持った優秀層を採用しやすいメリットがあります。

 

ジョブ型雇用は、人事評価制度としては職務評価に近い考え方であり、前述したとおり、今後はジョブ型雇用×(成果主義+職務評価)といった形での人事評価制度は今後増えていく可能性が高いかもしれません。

SMARTの原則

人事評価において成果主義を導入するうえで欠かせないのが事前の目標設定です。成果主義は多くの場合、異部門・異職種の人たちを一つの軸で評価するために、「目標に対する達成率」で評価することが多くなります。

 

当然、事前にきちんとした目標設定をすることが成果主義を動かすうえでの大前提となるわけです。そこで役立つ目標設定の基本が「SMARTの原則」と呼ばれるものです。

 

SMARTの原則とは、以下に示す5つの要素の頭文字を取ったものであり、効果的な目標設定のためにはこの5つの要素を目標に盛り込むことが重要です。

 

① Specific(具体的)
目標は何に取り組むのかが具体的である必要があります。何に取り組むのか、何を達成するのかを具体的に記載することが大前提です。

 

② Measurable(計測できる)
目標の達成率を評価するうえでは、達成したか、達成率は如何ほどかを客観的に評価できる必要があります。客観的に評価するために一番わかりやすいのは数値化することです。

 

たとえば、「努力する」といった漠然とした目標は、達成基準が曖昧であり、後から客観的に評価できません。「新規顧客を○件開拓する」といった形で具体的かつ定量的に目標設定することが大切です。

 

成果を数字化できない、定量化できない職務もありますが、その場合も、達成状況や達成率を客観的に評価できる形にすることが大切です。

 

③ Achievable(達成できる)
非現実的な目標設定をしてしまい達成できない状態が続いてしまうと、モチベーションの低下につながってしまいます。そうならないためにも、努力すれば達成可能な現実的レベルのものとする必要があります。

 

また、人事評価制度に連携させる場合には、Achievableの水準をきちんと定めることが大切です。同じ難易度の目標でなければ、達成率を軸にして評価することはできません。目標に対して難易度を設定する、組織全体として難易度の基準を統一するといったことが必要になります。

 

④ Relevant(関連性)
目標は上位目標の達成に関連する必要があります。例えば、全事業を目標を達成すれば、組織全体の目標を達成できるのか、各個人が目標を達成すればチームの目標を達成できるのか、といった視点です。

 

なお、組織における目標設定では、組織の事業計画・目標達成という視点でのRelevantはきちんと達成されることが多いですが、個人の目標 – 個人の上位目標(キャリアプラン、実現したい成長、得たい報酬…など)の関連付けがきちんとされていないケースが多くあります。

 

“組織としては合理的でも、個人にとってモチベーションが高まらない”という状態です。これは管理職がマネジメントを通じて担保していくべき部分ですが、人事評価制度の運用を考えるうえでも考慮できるとよいテーマです。

 

⑤ Time-bound(期限)
Time-boundはシンプルに目標設定時には達成期日を決めることが大切であるという話です。期限が無ければ、どんどん先延ばしにしてしまい、結局やらないということにもなりかねません。また、期限が定めることで、期日から逆算して、いつまでにどれだけの成果を出していればいいのかが明確になり、行動計画が立てやすくなります。

 

ただし、組織での目標設定においては、はじめから四半期、半期、通期などの評価期間が決まっていますので、目標設定時に期限がないということはほぼ起こりません

人事評価制度の導入から運用プロセス

人事評価制度は、待遇に影響を及ぼすものであり、従業員にとっては非常に大きな関心事であり、不満要因にもなり得ます。従って、人事評価制度の導入から運用は慎重に行う必要があります。

 

ここでは人事評価制度の導入プロセスを5つのステップに分け、各ステップでの注意点を簡単に解説していきます。

 

人事評価制度の導入プロセス①何をどう評価するのかを明確にする

まず制度の設計にあたって、どのような仕組みを採用するのか、何をどのように評価し、それをどう活用していくのかを明確にします。

 

企業理念や経営方針などと照らし合わせ方向性を定めて、会社がなりたい姿からズレてしまわないように注意します。

 

また、前述のとおり、評価項目は会社のメッセージとなります。評価項目に入らなかったものについては「評価しない」というメッセージとも受け取られ、従業員の意識が評価項目ばかりに向いてしまう可能性があることにも注意が必要です。

 

大きな目的や詳細、作りたい組織像から詳細へとブレイクダウンして慎重に検討していくことが大切です。

人事評価制度の導入プロセス②導入スケジュールを決める

人事評価制度は影響が大きい分、立ち上げには時間がかかります。そのため、導入にあたってはきちんとスケジュールを決めておく必要があります。

 

制度を決めていきなり本運用を開始するのではなく、今までの評価の仕組みを継続しながら、評価サイクル2回分程度は、報酬などに直結させない形で評価を実施するのがよいでしょう。その中で、今までの評価の仕組みとのズレを検証し、制度を修正していくことが大切です。

 

人事評価制度の導入プロセス③評価者研修を実施する

人事評価制度は、人が人を評価する以上、100%客観的で公正であることは不可能です。ただ、その中で公正さを担保するために、制度の設計と評価者教育が大切になってきます。

 

評価者教育は、大きく分けて以下に示す4つのポイントが重要です。

 

①制度の趣旨やコンセプト
単純に評価項目に機械的に当てはめて評価を下すのではなく、何を意図して評価項目が設定されているのかを評価者が適切に理解し、制度を運用していけるようにすることが大切です。

 

②目標設定
先ほどのSMARTの原則を押さえていないと、評価制度は適切に機能しなくなります。評価者がSMARTの原則の5つの要素をちゃんと理解した上で、目標設定できるようにしましょう。

 

③評価で生じやすいバイアス
人間である以上、バイアスの影響から逃れることはできません。評価をするに当たっては、「考課上の誤差」と呼ばれる思考のエラーがあることが知られています。

 

主な例としては、一部の突出した要素の影響で評価が歪められるハロー効果や、厳しく評価し過ぎる厳格化傾向、無難な評価をしてしまう中心化傾向、嫌われるのを恐れて甘く評価してしまう寛大化傾向といったものがあります。なるべく正しい評価をするためには、バイアスの存在を知ってもらうことから始める必要があります。

 

④フィードバックのやり方やポイント
評価者が評価された側に対して適切にフィードバックをできるようにしておくのも重要です。人事評価制度は評価すること以外に、フィードバックを通じて従業員の育成、モチベートにつなげることも大切です。

人事評価制度の導入プロセス④運用・フィードバックを実施する

人事評価制度は、評価をして終わりではなく、評価結果を従業員にフィードバックする必要があります。フィードバックを行うことで、従業員の成長やキャリアアップにつなげられるようにします。ただ評価を伝えるだけでなく、1on1やコーチングを通じて気づきを与え、成長を促せるようにすることが大事です。

 

人事評価制度の導入プロセス⑤制度をブラッシュアップする

導入した人事評価制度が、いきなり完璧に機能することはありません。また、人事評価制度は、組織の成長、事業の変化等に伴って変化していくことも必要です。

 

実施した人事評価と結果との“違和感”“感覚値のズレ”などをきちんと検証することが大切です。

 

違和感やズレの原因が、感覚値がおかしいのか、目標設定の誤りや情勢変化によるもの、また、評価者の評価傾向によるもの、制度に起因するものなのかなどを、きちんと検証しましょう。その上で、目標設定、評価者へのフィードバック、制度のブラッシュアップなどに反映して、精度を向上させていくことが大切です。

失敗しないための注意点と成功事例

人事評価制度に失敗はつきものですが、うまく運用できている事例を参考にすることで、失敗を最小限に防ぐことができるでしょう。ここでは3つの事例を紹介すると共に、それぞれの事例に関して人事評価制度で失敗しないための注意点を解説します。

 

株式会社ディー・エヌ・エー

まずは、360度評価を導入している株式会社ディー・エヌ・エーの事例です。株式会社ディー・エヌ・エーは、モバイルゲームの開発配信や電子商取引を行う企業です。

 

通常、360度評価というと無記名で行われるものですが、株式会社ディー・エヌ・エーでは約130名のマネージャーに対し、実名で実施しています。あえて実名で実施することで、マネージャーと部下との信頼関係が作れるとしています。

 

これは、ディー・エヌ・エーに、もともとフィードバックの文化があり、360度評価でフィードバックすることに違和感がないというのが運用の大前提です。

 

また、ポイントなのが、360度評価の内容は給与に反映されるわけではなく、あくまでフィードバックが主な目的となっています。

 

360度評価、また実名評価を給与に反映させてしまうと、組織内での人間関係が悪くなってしまいかねません。かといって無記名で誰からの評価か分からなくしてしまうと、フィードバックの効果が薄れてしまいます。。

 

給与に結びつく人事評価は、「成果(業績)」と「発揮能力(成長度合い)」の2つの軸で構成されています。なお、「発揮能力」の軸は「強みを伸ばす(弱みを克服する)ために何をするのか」という項目で、上司と部下で話し合って目標設定されています。

 

そして、成果はボーナスに、発揮能力を基本給に反映するとう仕組みとなっており、フィードバックを目的とした360度評価とうまく使い分けられています。

 

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社は、空調事業を行う企業であり、2010年には空調事業でグローバルNo.1を達成しています。

 

厳しい成果主義を取り入れて成功している一方で、70歳までの再雇用や、産後の休暇や育休の取得のしやすさなど、従業員が働きやすい環境を整えています。

 

成果主義は大切ですが、成果主義に偏りすぎてしまうと、組織が疲弊してしまったり悪影響を与えてしまったりする可能性もあります。ダイキン工業株式会社では、働きやすい環境を整えることで従業員のエンゲージメントを高め、組織が疲弊してしまうのをうまく防いでいます。

Chatwork株式会社

人事評価制度は必要に応じて作り変えていくものであることを示すのが、Chatwork株式会社の事例です。Chatwork株式会社は、ビジネスチャットツールであるChatworkの開発運営や、ソフトウェア販売を行う企業です。

 

設立当初は、人事評価を行う際にはマネージャーが集まり業務内容を共有することで全員の評価を行っていました。しかし、従業員数が多くなって他の人の業務内容が分かりづらくなってくると、評価基準としてOKRを導入しました。

 

OKR(Objectives and Key Results)とは、「達成目標(Objectives)」と目標の達成度を測る「主要な結果(Key Results)」を設定することで評価を行う手法です。

 

MBOと類似した考え方ですが、OKRの場合はよりチャレンジングな目標を掲げ、達成率よりも絶対的な成長の加速に主眼をおいている考え方です。

 

OKRの運用開始時、目標の達成度を一つの評価軸とした結果、目標値を低めに設定して保守的な行動を取る人が出てくるという問題点が発生したため、チャレンジ度で評価するように変更しました。

 

現在では、業績評価、行動評価、全社業績という3つの軸で評価を行い、業績評価にOKRによるチャレンジ度を反映されるようになっています。

 

Chatwork株式会社では、人事評価制度を考えるに際して、「カッコつけない」「完璧を求めない」「継続して改善していくこと」を前提として、日々運用しながら改善していくことを大切にしています。

まとめ

組織が一定規模になってくると、客観的な校正な評価を行うために人事評価制度を作ることが不可欠になってきます。人事評価制度は、評価制度、報酬制度、等級制度などがリンクして、一定期間における従業員のパフォーマンスなどを評価して、待遇に反映させるものです。

 

人事評価制度には、成果主義、能力評価、職務評価など様々な考え方があります。異なる部門、職種、また同じ職種でも抱える状況が異なり、力量も違う人が働いている組織の中で、公正な人事評価をするということは非常に難易度が高いものです。

 

最初から自社に完璧にフィットする人事評価制度を作り上げることはほぼ不可能であり、記事内で紹介したChatwork株式会社のように、「カッコつけない」「完璧を求めない」「継続して改善していくこと」ということを意識しながら、自社にフィットする人事評価制度を作り上げていくことが大切です。

著者情報

知見寺 直樹

株式会社ジェイック 取締役|上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 副董事長

知見寺 直樹

東北大学を卒業後、大手コンサルティング会社へ入社。その後、株式会社エフアンドエム副本部長、チャレンジャー・グレイ・クリスマス常務取締役等を経て、2009年ジェイック常務取締役に就任。総経理として上海法人(上海杰意可邁伊茲企業管理咨詢有限公司 )の立ち上げ等を経て、現在はHumanResourceおよび事業開発を担当する。

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