採用活動の精度を高めるうえでは、「採用してはいけない人を見極める」ことが大切です。そこで重要になるのが、カルチャーフィットを重視した採用基準です。
記事では、カルチャーフィットの考え方やスキルフィットとの違い、またカルチャーフィットを使った人材の見極め方も解説します。
<目次>
カルチャーフィットとは?
カルチャーフィットとは、「culture=文化」と「fit=適合」という英単語を組み合わせて作られた人事用語です。
ビジネスや人事の世界では、「応募者が組織の社風にどのくらい適合しているか?」「組織文化と個人の価値観が合うのか?」という意味で使われ、「価値観マッチング」などと表現される場合もあります。
社風や組織文化は、ミッション、ビジョン、バリュー、企業理念や行動指針などが含まれ、「組織で大切にしたい価値観」「組織で正しいとされる行動規範」を指します。
カルチャーフィットとスキルフィット
スキルフィットとは、カルチャーフィットと対になって使われる言葉です。スキルフィットは、「組織(仕事)で求められる能力と本人の能力・経験の一致度」を意味します。多くの場合、求人票の応募資格や求める人物像などの欄に書かれる内容の大半は、スキルフィットの概念となります。
例えば、「マーケティングのクラウドサービス(SaaS)営業職」であれば、以下のようなスキルや経験があると、スキルフィットしてはベストでしょう。
- 経営者やマーケティング責任者向けの営業経験
- マーケティング分野の基礎知識
- 顧客が得られるベネフィットやビジョンの提案スキル
- 顧客内に階層や決済ステップが存在する法人営業の経験
- いくつかの視点で商談ステージを見極めて次に進めるための論理性
カルチャーフィットとスキルフィットはどちらが大切というものではありません。企業の文化や価値観に合った人材(カルチャーがフィットしている)だとしても、仕事で求められるスキルがないと活躍はできません。採用では、カルチャーフィットとスキルフィットはどちらも大切な基準になります。
スキルは人材育成や経験によって身に付けさせることができますが、個人の価値観を入社後に変化させることは困難です。だからこそ、採用においてはスキルフィットだけではなく、カルチャーフィットの視点が必要とされています。
カルチャーフィットが必要な理由と背景
カルチャーフィットの視点が必要とされる理由は、日本の人材評価や人材育成ツールとしても浸透している、GEが導入した9ブロックの考え方がイメージしやすいでしょう。9ブロックでは、縦軸を短期の業績(パフォーマンス)、横軸を中長期のポテンシャル(バリューの実践度)に設定して人事評価をします。
まず非常にユニークなのは、「バリューの実践度」がポテンシャル評価の軸になっていることです。ここでいうポテンシャル(バリューの実践度)は、GEにおいてGrowth Valuesと呼ばれるものであり、「GEとして社員に期待する行動であり文化」です。
具体的に、バリューは以下のようになっています。
・明確でわかりやすい思考(Clear thinker)
・想像力と勇気(Imagination & courage)
・包容力(Inclusiveness)
・専門性(Expertise)
この軸に沿って、年に1回「セッションC」と呼ばれる人生制度に基づいて、上記9つの区分に全社員をプロットします。
9つの区分の評価は、下記のように分類されます。
・業績もバリュー実践度も最高レベルの「ベスト」人材・業績かバリュー実践度、どちらかは最高レベルだが、もう片方は中間レベルの「優秀」人材
・業績とバリュー、どちらも中間レベルの「組織の屋台骨」人材
・業績かバリュー、どちらかが低レベルの「要改善」人材
・業績とバリュー、どちらも低レベルの「ミスマッチ」人材(解雇対象)
ここでGEの考え方として特徴的なのは、以下を比べたときに、右下を高く評価することです。
右下:バリューの実践度は高いが、業績をあげられていない
左上:業績はあげられているが、バリューを実践していない
これは、「高い業績をあげられていても、組織のバリューに共感せず従わない人材は、周囲にとって有害である」という考え方に基づきます。こんな事例をイメージしてみてください。
「顧客との共栄」と大切にしており、信頼関係のもとで中長期的な取引をしていくことを非常に重視しているA社。そのなかに、営業で高い成果をあげているが会社の価値観に共感せず、「“顧客との共栄”なんてキレイ事はどうでも良いんだよ。何とかいいくるめてハンコを押させる。それをできない奴は営業として失格だよ」と周囲に吹聴するBさん。
Bさんはたしかに、実績をあげているかも知れません。しかし、Bさんが実績をあげるほど、そしてBさんを昇進させるほど、周囲に与える悪影響が広がることは容易に想像できると思います。
上記は極端な事例ですが、スキルフィットだけで採用活動や評価を行ない、会社のバリューに共感しない人間、カルチャーフィットしていない人間を採用したときに起こるリスクをイメージできます。
カルチャーフィットを採用基準に取り入れるメリットとリスク
前述したとおり、カルチャーフィットを採用基準に取り入れることは、組織の健全な成長や一体感を保つために不可欠です。一方で、誤った取り入れ方や理解をするとリスクになる可能性もありますので紹介しておきます。
カルチャーフィットを採用基準に加えるメリット
カルチャーフィットを基準に採用した人材には、自社の理念や価値観に納得・共感し、入社を決めています。これにより、以下のようなメリットが生じやすくなります。
- 定着率や組織へのエンゲージメントが高まりやすい
- 基礎となる価値観が一致しているため、人材育成しやすい
- 周囲や他部署との連携を取りやすい
カルチャーフィットを採用基準に加えるリスク
一般的に組織の「カルチャー」というとき、以下2つの側面があります。
- ミッションやビジョン、バリューの核となる考え方(価値観、行動規範など)
- 社風(仲が良い、風通しがいいなど)
カルチャーフィットを採用基準に加えるときには、1の「ミッション、ビジョン、バリュー」を重視することが大切です。もちろん2の社風も、1のミッション・ビジョン・バリューから来ていることが多いでしょう。
しかし、上記2の「いまの社風」を意識し過ぎてカルチャーフィットの採用を行なうと、社員の多様性が失われたり、同調性が高すぎて組織の変化が難しくなったりする可能性があります。そのため、採用活動においてカルチャーフィットを取り入れるうえでは、「組織で大切にしたいカルチャーとは何なのか?」をしっかりと考えていくことも大切です。
カルチャーフィットを採用基準に加えるときには、まず自社におけるカルチャーを明確化することが必要です。大切にすべきカルチャーとは、先ほど触れたミッション、ビジョン、バリューの3つです。
いまミッション、ビジョン、バリューが明確でないならば、以下の2つの問いを考えると、「組織において譲れない価値観や判断基準は何か?」が明確になるでしょう。
絶対に譲れない価値観はどのようなものか?
まず、自社のミッションやビジョンから見て、絶対に譲れない価値観を考えていきます。ヒントになるのは、自社の企業理念や行動指針、クレドといったものです。
例えば、世界的なラグジュアリーホテルブランドとしてリッツ・カールトンでは、クレドで「心をこもったおもてなしと快適さを提供すること」を使命として、「訪れたお客様に“気持ちいい”と感じてもらうこと」という価値観を定義しています。
また、インターネット通販大手の楽天では、全社員が理解し実行すべき「楽天主義」として、事業実現に欠かせない複数の価値観を提示しています。
- 社会から必要であると評価される事業であること
上記のようにミッションやビジョンを実現するうえで、「組織として譲れない価値観は何か?」を考えて言語化してみましょう。
自分たちはどんな集まりでありたいか?
次に、自社のミッションやビジョンに向かううえで、「どのような集団でありたいか?」を考えていきます。
今回はミッションやビジョンから直結するものではなく、極端に表現すれば「好き/嫌い」の世界です。正解がある問いではありません。いくつか絞り込んだうえで、「これに共感しないのであれば私たちの仲間ではない」といえるものは何かを考えてみましょう。
- 常に最高レベルのサービス提供をする
- 自己管理の下で成長するプロフェッショナリズムを徹底する
- 傲慢にならずに誇りを持って顧客満足を高める
など
2つの問いから出てきた価値観と自分たちのあり方が、カルチャーフィットの見極めで大事なポイントになってきます。
面接でカルチャーフィットを見極める質問とは?
面接でカルチャーフィットを極めるには、以下のような質問がおすすめです。
やり方1:価値観に関する質問と具体的なエピソード
まず、カルチャーフィットの見極めでは、「自社の価値観と合うかどうか?」の確認が必要です。ただし、求職者が熱心に面接対策をしてきた場合、自社サイトなどに掲載されている企業理念に合った答えをすでに準備している可能性も高いでしょう。
したがって、直接的に仕事への価値観を確認した後は、実際にしている行動や過去のエピソードなどの具体的な話を確認していくことが大切です。
- Q: 働くうえで何を大切にされていますか?
- Q: それは具体的には職場でのどんな行動や考え方につながっていますか?
- Q: 前職などでどんな具体的なエピソードがありますか?
やり方2:STAR面接によるエピソードの深掘り
価値観と能力や行動パターンなどをまとめてヒアリングする手法として、「STAR面接」もおすすめです。STAR面接は、応募者のエピソードを深掘りしていく視点を英単語4つの頭文字で示したものです。一定の順番と内容で質問していくことで安定した品質でヒアリングをすることができます。
- Situation(状況)
⇒ どのような状況だったか?(時期、組織の状況、背景、関わり方など)
- Task(課題)
⇒ どのような課題があったか?(課題、生じていた事象、目標、目標設定の経緯など)
- Action(行動)
⇒ どのような行動をとったか?(意思決定のプロセス、具体的な進め方など)
- Result(結果)
⇒ どのような結果になったか?(結果、プロセスへの振り返り、反省、学びなど)
STAR面接を行なうことで、実際の体験における課題への取り組み方、思考パターン、周囲の関わり方などを通じて、応募者の価値観を考察することができます。
やり方
求職者の考え方の確認では、ケース質問をするのもおすすめです。ケース質問は「仕事などであり得る状況(ケース)」に関する質問を通じて、相手の能力や行動パターン、価値観を探ります。例えば、以下のような質問です。
- Q:こういう場合には○○さんならどうしますか?(どちらの選択肢をとりますか?)
- Q:それはなぜですか?
相手の出した選択に対して、「なぜ?」と深掘りすることで価値観や思考パターンを探ることができます。また、出てきた価値観や思考パターンに対して「そういう考え方で取り組んだ具体的なエピソードはありますか?」と具体的なエピソードをたずねると、より相手のことを理解しやすくなるでしょう。
採用活動におけるカルチャーフィットの見極め方
採用活動におけるカルチャーフィットの見極めは、おもに面接を通じて行なうことになります。その他にも、以下のような方法と組み合わせると効果的です。
適性検査(特性検査)
個人の性格や価値観などを測定できる適性検査(特性検査)も、カルチャーフィットの見極めに活用できるツールです。適性検査(特性検査)を効果的に使うには、事前に社員へ実施して、以下を準備しておくことがポイントです。
- 検査結果から実際の思考パターンや言動をイメージできるようにする
- 大切にしたい価値観が検査のどのあたりに出てくるかを考察する
- 自社で成果をあげるうえで、どんな特性を持っていることが大切かを考察する
適性検査は面接の事前に実施して、検査結果を踏まえて「企業にフィットする部分」や「フィットするか懸念がある部分」の仮説を持ったうえで、面接を実施していくと効果的です。
ワークショップ
カルチャーフィットの見極めは、ワークショップなどの自社イベントに参加してもらうことも一つのやり方です。ワークショップには、作業しながら社員と直接交流することで、企業と候補者の双方で、以下を確認できるメリットがあります。
- 自社と候補者の価値観が合いそうか?(企業側の視点)
- 自分と企業(社員)の価値観は合いそうか?(候補者側の視点)
体験入社や実務インターンシップ
体験入社や実務インターンシップは、ワークショップと比べて実際の業務や現場に近い内容を行なうものです。オフィスで社員と一緒に作業などをしてもらうことで、カルチャーだけでなく、社内の雰囲気や仕事内容に合うかどうかの確認ができる利点があります。
まとめ
カルチャーフィットとは、採用活動において「応募者の価値観が自社の価値観と一致するか?」を検討することを指します。「仕事で必要な実務経験や資格などの能力面(スキルフィット)」に加えて、カルチャーフィットの視点を持つことで採用精度を高められます。
採用活動におけるカルチャーフィットの見極めは面接を中心として、適性検査、ワークショップ、体験入社などで行ないます。最近では母集団形成の段階でカルチャーフィットを実現できる採用サービスも登場しています。下記で、カルチャーフィットを実現できる母集団形成ツールが掲載された資料をダウンロードできますので、ぜひご覧ください。