Agentic AIの定義とAI時代のHR施策
Agentic AIの定義
HR Tech 2025で最も注目されていたキーワードが「Agentic AI(エージェンティックAI)」です。岩見氏は、従来のAIとの違いを次のように説明します。
「これまでのAIは、言ったことを調査してくれる、つまりインフォメーション的な役割でした。Agentic AIは完全に動くことを目指して今進化している過程です」
具体例として、飛行機の欠航というシーンが挙げられます。従来のAIであれば「飛行機が欠航した場合、一般的にどうすればいいか」という情報を提示するだけでした。しかしAgentic AIは、本人のカレンダーを確認し、その人の移動の思考ロジックを理解し、代替便の予約まで完結させてしまいます。
「情報の提示だけでなく、自律的に作業まで完結してくれる。それがAgentic AIの定義です」と岩見氏は語ります。
HR領域での具体的な活用例
HR領域においても、Agentic AIの活用は広範囲に及びます。例えば給与計算・支払いといったペイロール業務では、ロジックと日付が決まっているため、AIが自動で完結することが可能です。
勤怠管理においても、締め日の連絡、未入力者への督促、異常な勤怠時間のチェックと修正依頼まで、一連のプロセスをAIが自動で処理できるようになります。「もし本当に全部繋がれば、人間の手を全く借りずに、最終確認・承認のプロセスを除けば、勤怠の締めから給与支払いまでが完全に自動で回るようになるでしょう」と岩見氏は予測します。
AI時代のHR施策の方向性
「Be the Change」というテーマの下、カンファレンスではAI時代のHRのあり方が議論されました。岩見氏は「役割は大きくは変わらないが、よりシャープになる」と表現します。
HRの役割は大きく4つの象限で整理できます。縦軸を「人事の専門性」と「自社組織の理解」、横軸を「中長期的な事業計画の実現」と「短期的な事業計画の実現」とした場合、専門性の高いオペレーション業務(給与計算、就業規則の作成など)は間違いなくAIに代替されていきます。
一方で、AIに確実にできないのは「自分の組織をちゃんと理解して、その人たちを導いていく」「モチベーションを上げる」といった人間が担保しないといけない部分。「オペレーション部分をなくして、残りの三象限をよりシャープに濃くしなければいけない」と岩見氏は指摘します。
AIの導入によるHRの役割と価値提供の変化
AI導入によってHRの価値提供はどう変わるのでしょうか。岩見氏は「カンファレンスでは、人に対するインサイトや人との関係性といった、AIにできない部分が多く語られていた」と振り返ります。
「あの人がいると飲み会が楽しい」「あの人のいる職場はいつも雰囲気がいい」──そういった人間ならではの価値が、より重要視されるようになります。人をモチベートする力、人を導く際に「あの人の言うことは聞こう」と思わせる力が、HRの価値提供の中心になっていくと話します。
なお、その中でカンファレンスで頻繁に語られていたのが、倫理観の整備や法的コンプライアンスの重要性です。「どこまでやって良いか?どこはやってはいけないか?」という境界線の設定や、情報漏洩リスクへの対応が、AI時代のHRの新たな役割として強調されていました。
興味深いのは、アメリカで組織論を学ぶ際の第一講義が「法律」から始まるという点です。「日本で人事をやる人が最初に労働基準法を学ぶことはほとんどない。一方、アメリカは法律に基づいてやるという考え方が根っこにあるんです」と岩見氏は文化的な違いを指摘します。
アメリカは「やってみる文化」だからこそ、実施における“穴”にも気づきやすく、一周回って「倫理観や法的コンプライアンスが重要である」という議論が活発でした。






