株式会社バーテック|会社のフィロソフィは社員がつくる!経営視点を持った人材育成の実践

更新:2024/03/06

作成:2022/09/28

バーテック

工業用ブラシ等の設計・開発・販売を手掛けている株式会社バーテック。Great Place to Work® Institute Japan 2022年版日本における「働きがいのある会社」ランキングでは、小規模企業部門で選出されています。「全員参加型経営」を掲げて、社員たちで独自のフィロソフィを築く組織づくりと経営、人材育成の実践について末松社長にお話を伺いました。

<目次>

Q.貴社の事業内容と特徴について教えてください

末松仁彦氏写真
主に工場などの製造現場で使用されるようなブラシを提供しています。
用途や業界も幅が広く、研磨やバリ取り用のブラシが使われる鉄鋼、自動車業界から、清掃、防虫目的で使われる食品製薬業界など幅広く提供しています。特徴は単にブラシを提供するのではなく、いかに顧客の問題を解決できるかということに注力していることです。

当社は自社工場を持たないファブレスメーカーです。また物流センターもありますが、こちらも同様に外部へ委託しており、さらに営業においてもロサンゼルスオフィスについては社員が常駐しているわけではなく、米国の営業代行と連携しています。こうしたアウトソーシングを積極的に活用した“モノづくり”に徹していることは、当社の特徴のひとつだと思います。

Q. 「ブラシで世界を変えよう」というブランドビジョンを掲げていますが、どのような想いが込められているのでしょうか?

2018年ビジョン合宿
バーテックという社名には「バー:Burr(厄介な問題)をテック:Technology(技術)で解決する“ソリューションカンパニー”を目指す」という意味が込められています。

社名は2代目経営者である父の末松大幸会長が付けたもので、よりよいブラシをつくることで製造業における問題解決だけでなく、社会・環境問題にも寄与していきたいという願いと、ブラシはそこまで進化できるという希望が込められています。

こうした想いをベースに、会社の“ブランドビジョン”があります。弊社では毎年全社員参加のビジョン合宿を開催し、1日目には会社のビジョンを、2日目には社員1人ひとりの個人のビジョンを考える機会をつくっています。

2018年のビジョン合宿では、全社員でSDGsを学び、本業を通じてどのように社会に貢献できるかについてディスカッションしました。その結果できたのが、ブランドビジョンです。

主に弊社が貢献できるSDGsの項目では「8.働きがいも経済成長も」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「12.つくる責任つかう責任」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」などが関係するのですが、事業を通じていかに社会問題を解決できるのか、単にブラシ販売にとどまらず、広い視点で自分たちの仕事の意義を見出せるようにしています。

Q.ブランドビジョンを掲げるまでの経緯について教えてください

私は2008年に27歳で代表取締役社長になったのですが、父から承継した時点では経営への経験は浅く勉強不足だったため、京セラの稲盛和夫会長が塾長であった「盛和塾」の門を叩きました。そこで京セラフィロソフィを学び、理念重視や全員参加型経営などの経営哲学について多大な感銘を受けました。

一方で、就任した2008年はリーマンショックが発生した年であり、当社もリーマンショックの影響を受けて業績を落としてしまいました。

当時、私は社長就任したばかりということもあり、まずはこの危機を脱して「業績を上げたい」という思いが強く、利益を最重要視して売上など数字の管理に徹していきました。その結果、業績を回復できたばかりか以前よりも好調になったのですが、働き方改革や働きがいの向上などは二の次となり、社員が次々と辞めてしまったのです。

複数の退職を受けて慌てて人員補充したことで、結果的に会社に合わない人も入社させてしまい、“退職の補充で採用した人が入社後にすぐ辞める”というような悪循環もありました。

この状況を抜け出すための施策が、先の盛和塾で学んだ「理念重視」や「全員参加型経営」でした。理念を重視して、社員1人ひとりを生かす経営方法にシフトしていったのです。

ブランドビジョンは、こうした経緯も踏まえて掲げたもので、社員のみならずお客様一人ひとりの働きがい向上を図り、さらには社会問題や環境問題の解決にまで貢献すべく発展していきました。

Q. 全員参加型経営にシフトすべく、どのような施策を行ったのでしょうか?

ミーティング風景
最初から全員経営を全面に打ち出したわけではなく、まずは社内コンパ(飲み会)などを開催してコミュニケーションをとりやすくするなど社員の話しやすい環境づくりを進めていきました。

次に盛和塾での学びを社内で共有するため、京セラフィロソフィを用いて社内で研修を行いました。そこで「私たちはバーテックなのになぜ京セラフィロソフィを学ぶのか」という声があり、また私たちのフィロソフィをつくりたいという想いが強く出て、バーテックフィロソフィを作成しました。自分たちのフィロソフィが完成したのは良かったのですが、考え方が合わず退職した社員さんもいらっしゃいました。

痛みも伴いましたが、今後の“全員参加型経営”を進めるにあたって社員の足並みをそろえることは不可欠だと考えました。退職者が生じる一方で、新たにフィロソフィを理解する社員が入社するなど、社員の一部が入れ替わりながら会社は新しくなり、社員数も10名程度から30名前後へと増員されていきました。

Q.フィロソフィをより社内に浸透させるために行っていることは?

フィロソフィの内容は50項目ほどあるので、それらを学び実践するため、社内勉強会を2つの方法で行っています。

ひとつは毎日の昼礼です。参加者は2人組となり、1人がフィロソフィに関する実践エピソードの発表をして、もう1人がフィードバックする形で実施しています。全員での共有後、私からフィードバックコメントや、フィロソフィの解説を行っています。

また、もうひとつ週1回、グループで実施しており、テーマを決めて1つの項目に関する実践エピソードなどを発表したり、それについて話し合ったりします。

2つの勉強会はすでに社内で習慣化されており、実践エピソードなども次々と出て活発な議論がなされています。

実践エピソードは実際の仕事で実践・体得していることが元になっているので、社員にとっては情報共有の場であるともいえます。フィロソフィを踏まえて実際に行ってみてどうだったか、成果や課題はあったのかなど、常にアウトプットとフィードバックを繰り返す仕組みが出来上がりました。

こうした勉強会の内容を踏まえてフィロソフィは更新されていき、現在はバージョン4となっています。バージョンアップを重ねることで、徐々に自社のものとなり進化を続けています。

社員は上からフィロソフィの文言を覚えさせられるのではなく、当事者として、自分たちが主役になってフィロソフィを作り上げています。これが全員参加型経営の原点になっています。

Q. それ以外にも全員参加型経営に向けた取り組みはあるのでしょうか?

ガラス張り経営ミーティング
情報をオープンにしていくものとして、社内外の方々を集めた事業発展計画発表会を年1回開催しています。ここでは経営状況をはじめ理念・ビジョンや今後の戦略について発表しています。

また、事業発展計画発表会とは別に、四半期に1回、社員全員参加による発表の場を設けています。発表では、事業の目標や業務の進捗・課題などはもちろん、給与以外の財務状況などもオープンにして、「ガラス張り経営」を実践しています。

また。月次単位で財務における報告会を行います。新入社員も参加して、“どの部分がどういう状況なのか”など、会計や財務数値が示す意味を知る機会を設けています。経営者から新入社員まで社員全員が同じ目線で数字を読めることで、お互いの視座を高められるようにしています。

Q.貴社の人材育成におけるポイントを教えてください

新卒採用を積極的に採用
これまでも話したように「全員参加型経営による経営視点を持った社員育成」が基本となります。同時に、「社員全員がフィロソフィに共感して共に会社を創り上げていく企業文化づくり」が大きなポイントになってくるかと思います。

上記の方針も踏まえて、当社では、ここ数年は新卒採用を積極的に採用しています。企業文化づくりをするうえでは新卒社員のほうが組織文化を浸透させやすいというメリットがあるからです。

他社の採用基準などを伺うと、経歴やスキルフィット(必要能力と保有能力の一致)などを注目されていますが、当社はカルチャーフィット(価値観の一致)が働きやすさや技術向上に直接つながる原動力であると考えて、採用の最重要ポイントにしています。

カルチャーフィットを重視するうえで、新卒採用の選考では、学生にはコンパ(飲み会)やサークル活動、お茶の稽古など、社内行事に参加していただいています。社内行事に参加してもらうのは学生の“素”を見る目的もありますが、学生にとっても当社のカルチャーが自分に合っているのか、どんな人が働いているのかを見ていただく機会だと捉えています。

また、採用説明会でも社長である私が前面に出てお話しさせていただき、学生と経営者の距離をより近く感じていただけるのも中小企業ならではのメリットではないかと感じています。
当社の規模で毎年新卒を採用するのは容易ではありませんが、上記のように「人」や「価値観」に焦点を当て、透明性をもって社内の様子を見せることが奏功し、お陰様で優秀な学生が毎年入社してくれています。

Q.最後に貴社における事業承継についてお聞かせください

前述の通り私は若干27歳で3代目の代表取締役社長になったのですが、これは事業承継を円滑にするために計画的に行ったものです。

私の祖父であり初代社長だった末松富三郎が死去したのは、父が18歳のときのことでした。父は苦労しながらもなんとか会社を継続させましたが、その時のことを教訓として「事業承継は早期に計画的に」と考えていたのです。

そのため私は大学卒業後すぐにバーテックへ入社し、各部署で経験を積んで2008年に代表取締役になりました。父はその際に代表取締役会長に就き、会社は2人が代表権をもって事業を進め、その体制を10年続けて、2018年父は会長職を退任しました。

その間も、日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)でファミリービジネスの強みやそれを生かした経営などについて学び、ビジネスにとってファミリーはリスクではなく良いリソースとして捉えて生かしていく考えを持つようになりました。

私は学生のころから会社でアルバイトをして親の背中を見ていたので抵抗感などはありませんでしたが、ファミリービジネスは事業承継の際に、“やらされ感”などを持ってしまう場合も少なからずあるようです。社長が持っている“やらされ感”などの雰囲気は社員にすぐに伝わるので早期の解決が必要でしょう。

事業承継を経験してきて感じるのは自分の世代だけではない、社内の各世代の人がどう考えてきたかを知り、理解すべきだということです。世代を超えて、誰がどういう思いで会社のこれまでの流れをつくってきたのかを知ることで、自分がここに立つ意味が分かり、感謝の心が芽生えてきます。

すると自然にどう次にアクションを起こすべきか、使命感や成すべき道がみえてきます。これが事業承継の原動力になると思います。

ファミリービジネスには「ビジネス(経営)」「ファミリー(家族)」「オーナーシップ(所有)」の3要素があり、これらを広い観点からみて課題を解決しながら事業承継を行います。

私はとくにファミリーのガバナンスや、ファミリーとしての徳を高めていけるかが大切なのではないかと考えています。ファミリービジネスは、ファミリーに亀裂が入れば経営にも影響しますし、オーナーシップ側である株の配当トラブルなどにもつながる可能性があります。そのため家族には家訓を設け、直接ビジネスには関わらなくても家族全員の人間力を高められるよう心がけています。

今後も4代目、5代目と会社が安定して継続できるよう、こうしたファミリービジネスのありかたについて常に勉強し、社員の物心両面の幸せと、ファミリービジネスとしての永続的な発展を目指していきたいと考えています。

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