ナレッジマネジメントという言葉を耳にしたことがある経営者や管理職の方は多いと思います。ただ、「具体的にどういったものなのか」「どうやって導入するべきなのか」を把握して、実際に組織に導入している方は多くありません。記事ではナレッジマネジメントの概要と具体的な導入や活用方法を紹介します。
<目次>
ナレッジマネジメントとは?
ナレッジマネジメントとは、1990年代に一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏によって提唱された日本発祥の経営理論です。端的に説明すると、組織や組織内の個人が持つ知識・経験などを共有して、創造的な経営を実践することです。
組織や個人が持つ知識には”暗黙知”と”形式知”の2種類があります。
- 暗黙知:個人が持つ知識やノウハウ、長年の勘など
- 形式知:言葉や図表などの形でデータ化された知識のことなど
暗黙知を形式知に転換して共有し、組織全体を進化させる・生産性を向上させることがナレッジマネジメントの基本的な考え方です。
ナレッジマネジメントに必要な“SECI”モデル
ナレッジマネジメントを考える上では、”SECI”モデルが基本的な理論となります。“SECI”モデルとは、暗黙知を形式知に変換共有する際のフレームワークで、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の頭文字を取ったものです。
少し難しいのですが、SECIモデルを何となくイメージできると、ナレッジマネジメントへの取り組みも実施しやすくなるでしょう。
共同化(Socialization)
共同化(Socialization)とは同じ体験を通じて暗黙知の相互理解を図るもので、端的に言えば「一緒にやる」「同じ体験をしてもらう」ということです。共同化のステップでは、同じ体験を経て精神的暗黙知や身体的暗黙知を作り出します。効果は非常に強いですが、実施が限定されてしまうデメリットもあります。
表出化(Externalization)
表出化(Externalization)は、暗黙知を形式知に変換するプロセスです。各個人が持っているさまざまな暗黙知をグループやチームで話し合ったり考えたりし、言葉、文章、図式などを用いて形式知に変換します。
「人に教えたものを言語化する」「マニュアルに落としたり人から質問をもらったりしてわかりやすくする」「議論や対談などを通じて図に落としたり言葉にする」などが表出化のイメージです。
形式知化を進める際には、抽象度が高いものをそのままにせず、具体的に表現したり、論理構成を作ったり、具体例を盛り込んだりするなど、周囲に伝わるようにする工夫が必要です。
得てして暗黙知は実施している本人は、感覚的だったり、当たり前のつもりだったりしますので、上述の通り、コミュニケーションを通じて、具体化・論理化していくことがポイントです。
連結化(Combination)
連結化(Combination)とは形式知と他の形式知を連結させ、新たな知識体系を作ることです。形式知同士を組み合わせることで、知の体系ができあがります。連結化する時には、データベースやITツールなどに情報を集約して、目次をつけるようなやり方が有効です。
たとえば、“商談ステップの進行マニュアル”をひとつの目次として、“アイスブレイクのノウハウ”、“顧客ヒアリングで聞くべき項目リスト”、“提案書で説明する時のポイント”などが連携されると、営業ノウハウという暗黙知が、ひとつの形式知の体系になるイメージです。
内面化(Internalization)
内面化(Internalization)とは、形式知に転換されたものを各個人が実践して、自分自身の暗黙知として身に付けていくステップです。
前の事例を引き継ぐと、新たに配属された新人が、“商談ステップの進行マニュアル”、“アイスブレイクのノウハウ”、“顧客ヒアリングで聞くべき項目リスト”、“提案書で説明する時のポイント”を見て学び、実際にやってみて、手ごたえなどを自分の経験・スキルとして蓄積するプロセスです。
内面化が実施されることで、組織内で「知が共有化」されて、生産性の向上などにつながるわけです。
ナレッジマネジメントの4つの手法
ナレッジマネジメントには大きく分けると4つの手法があります。
- ●ベストプラクティス型
- ●専門知識共有型
- ●経営資本・戦略策定型
- ●顧客知識共有型
ベストプラクティス型
ベストプラクティス型のナレッジマネジメントは、組織のなかで規範、モデルとなる優秀な社員の行動や思考を分析・形式知化し、知識として共有することで組織全体のスキルの底上げする手法です。
優秀層の思考や行動のパターンを形式知化およびデータベース化することで、メンバーのスキルを向上させる狙いがあります。コンピテンシーの考え方を、より具体的・実践的にやるものがベストプラクティス型のナレッジマネジメントだといえます。
分析・形式知化というと堅苦しくなりますが、わかりやすいイメージとしては、優秀な営業パーソンの商談を録画して、本人に解説してもらいながら皆で勉強会を実施。解説内容と動画を共有データとして以降の新人にも学んでもらう、といった形です。
他にも「四半期に一回、自分のベスト受注ケースを持ち寄って発表してもらい、動画で記録&発表資料を保管しておく」といったことでも実現可能です。
専門知識共有型
専門知識共有型ナレッジマネジメントでは、組織の中にある専門知識をデータベース化し、すぐに検索・閲覧できるようにするナレッジマネジメントです。例えば、組織内でよく質問されることの多い事項をFAQ形式化すれば、知りたい情報をすぐに入手できるようになります。
専門知識共有型ナレッジマネジメントは、サポートセンターや情報システム部門などといった組織内外からの問い合わせが多い部署での問い合わせ業務の軽減や、問い合わせに対応するスピードアップ、応対品質の向上などに役立ちます。
上述のベストプラクティスは定期的に、というイメージですが、専門知識共有はチャットツールやQ&Aツールなどを使って日常的にノウハウ共有して蓄積するイメージです。例えるなら、Yahoo知恵袋などが近いかもしれません。
ナレッジマネジメントを導入するタイミングである程度質問が多いものなどは一気に作り上げてしまい、社内Wikipediaのようにすることも一般的です。
顧客知識共有型
顧客知識共有型のナレッジマネジメントは、専門知識共有型の対顧客版というイメージです。専門知識共有型は、“総務部門や情報システム部門から対社内”というイメージが強くなりますが、顧客知識共有型は、“営業やインサイドセールス、コールセンター内で顧客事例や対応ノウハウを共有する”ナレッジマネジメントです。
例えば、コールセンターであれば、顧客からの問い合わせやクレームと対応方法などの情報をデータベース化することで、同様の問い合わせやトラブルが発生した際、事例に基づいて迅速な対応や適切な判断ができるようになります。
また、営業やインサイドセールスなどであれば、過去の提案事例や導入事例などが、業種・規模・課題などで検索できるようになっていれば、提案の品質やスピード、情報提供の質などを向上させることができます。
経営資本・戦略策定型
経営資本・戦略策定型ナレッジマネジメントは、メンバーやチームが持つあらゆる知識を多面的に分析し、経営戦略に活かす手法です。専用のシステムを導入して、競合他社や自社の事例を多角的に分析することが多くなります。
一般的にイメージされるナレッジマネジメント:知の共有というよりは、経営戦略や事業戦略の策定時に使われる手法と考えていただけるとよいでしょう。
ナレッジマネジメントを行なう手順
具体的にナレッジマネジメントを行なう手順を紹介します。
- 1.ナレッジの洗い出し
- 2.ナレッジの保存・蓄積・社内共有
- 3.ナレッジの活用
1.ナレッジの洗い出し
ナレッジマネジメントを行なう手順としては、まず現状の課題やナレッジマネジメントを実施する目的を明確にすることが大切です。
目的がはっきりしていないと、ナレッジの洗い出しがうまくいかず、玉石混合になってしまいます。「その課題を解決する(目標を実現する)ためにはどうすれば良いか」ということを軸にナレッジマネジメントを運用することが重要です。
ナレッジを抽出、形式知として言語化する手法としては、サーベイ、アンケート、個人インタビュー・グループインタビューなどの方法がありますが、難しく考える必要はありません。
例えば営業ノウハウや顧客事例のナレッジマネジメント、総務部門の負荷軽減に向けたナレッジマネジメントなどであれば、自分たちでざっと話し合う程度でも、十分に実施可能です。
そうやって動かしてみた上で、「あの人が持っているノウハウを言語化したい」「ここのプロセスに関するノウハウを集約しよう」といったことが明確になった段階で、インタビューやアンケートなどを実施するとよいでしょう。
2.ナレッジの保存・蓄積・社内共有
ナレッジマネジメントはナレッジ(知)の管理や共有が軸になります。従って、暗黙知を形式知する、つまり、文書化・言語化・映像化などをして体系的にまとめていくことが大切です。
マニュアル化・データベース化などによって、必要な知識を社内の誰もが使用できるようにすることが必要です。誰もが使いやすくするためには、必要なノウハウや情報にたどり着くための「検索性」や「目次の設計」なども大切です。
最近では、オンラインで実施したものをそのまま録画するというやり方も便利です。ただし、長時間の動画は見ることが大変だったり検索できなかったりすることもあるため、運用の際には工夫が必要です。
3.ナレッジの活用
ナレッジを蓄積したら、当初設定した目標や課題の解決に向けて、蓄積したナレッジが活用される状態をつくることが必要です。
ナレッジは分量が増えていくと使いづらくなる(目的のものを探すことが大変になる)傾向があります。前述の通り、営業の事例蓄積であれば、はじめから「どのような形で検索できるようにするかを決めておく」など方向性を明らかにし、それに合わせて蓄積を実施することがポイントです。
また、必要な人が自分で検索できるように周知することも大切です。社内に向けた専門知識共有型であればナレッジマネジメントに載っている情報であれば必ずそこを検索してもらう、顧客知識共有型であれば蓄積した情報を使って定期的に勉強会を実施するなどして、「ナレッジが蓄積されていることを周知して、ナレッジデータベースにアクセスする習慣」を作りましょう。
ナレッジマネジメントを取り入れてみよう
ナレッジマネジメントは、各社員が持っているノウハウや知識を組織内に共有することで、組織の生産性や競争力を高める手法です。現場で取り入れやすいのは、ベストプラクティス型、専門知識共有型、顧客知識共有型という3つです。
記事で紹介した導入ステップなども参考に、ナレッジマネジメントに取り組んでみてください。