なぜ、同じ言葉を使っているのに話が通じないのか?
「もっと主体的に動いてほしい」「理念を現場で実践してほしい」。私が現場で耳にするマネジメント層の切実な声です。しかし、その想いは「抽象的すぎてピンとこない」と若手社員に受け止められてしまう。
両者は同じ日本語を話しているはずなのに、なぜこの断絶が生まれるのでしょうか。その根底には、私たちが無自覚に使っている言葉の解釈の“ズレ”と、それを見過ごしてしまう組織の構造があります。
「価値創造」「責任感」…言葉の“意味のズレ”が壁を生む
私が考える問題の本質は、「同じ日本語を話していても、その言葉の意味とイメージが共有されていないこと」にあります。
たとえば、皆さんが人事や管理職として「私たちのミッションは価値創造です。これを意識してください」とメンバーに伝えたとしましょう。あなたの頭の中には、「これまでにない斬新なアイデアで、顧客に新たな喜びを提供する」といった熱い想いや具体的なイメージがあるかもしれません。
しかし、その言葉を受け取ったメンバーは、「価値創造と言われても、具体的に何をすればいいのか」と戸惑ってしまうのです。これはメンバーの意識が低いのではなく、そもそも「価値創造」という言葉が指し示す具体的なイメージを、あなたとチームが共有できていないことに本当の原因があります。
「主体性」という言葉も同様です。上司であるあなたは「組織の目的を理解し、自ら課題を見つけて挑戦すること」をポジティブな「主体性」と捉えているかもしれません。しかし部下は、「主体的に動けば、失敗したときに責められるのではないか」という不安から、その言葉をネガティブに受け取っている可能性はないでしょうか。
このような言葉の解釈のズレこそが、指示が的確に伝わらなかったり、よかれと思った説明が裏目に出たりする根本的な原因なのです。
VUCA、働き方の多様化…現代の職場が抱えるコミュニケーションの複雑性
“言葉の壁”は、現代のビジネス環境の変化によって、さらに高く、複雑化していると私は見ています。その大きな背景が、「組織内のコミュニケーションの複雑化」です。
①世代間ギャップと価値観の多様化
長年同じ組織でキャリアを積んだベテラン世代と、生まれたときからインターネットが身近にあったデジタルネイティブ世代。育ってきた時代背景や経験が違えば、仕事やキャリアに対する価値観が多様化するのは当然です。
「キャリアアップ」を重視する人もいれば、「ワークライフバランス」を大切にする人もいる。こうした一人ひとりの価値観が、言葉の解釈に影響を与え、チームの共通理解をより一層難しくしているのです。
②働き方の多様化
リモートワークやフレックスタイム、副業といった働き方の多様化は、メンバーが同じ時間・同じ場所に集まるというコミュニケーションの前提を覆しました。
テキストが中心となるやりとりでは、言葉の背景にあるニュアンスや感情が伝わりにくくなります。オフィスでの何気ない雑談の中で行われていたような、認識のズレを修正する機会も失われがちです。
こうした予測困難で不確実なVUCAの時代において、多様なメンバーが真に協働していくためには、これまで以上に「共通言語」を意識的に育む努力が不可欠だと、私は強く感じています。






