効率化より「捨てる」を先に置く
kubellは、AI活用を段階的なアプローチで進めています。①業務の可視化、②業務の分解と役割の再定義、③取捨選択(やらなくていい業務を捨てる)、④AI・自動化による効率化、⑤自律的な改善文化の醸成、という5ステップです。
澤井氏はこの順番を守ることが重要だと強調します。効率化(ステップ4)から考え始めると、「不要な業務を高速化するだけ」になってしまいます。AIで効率化しようとする前に「この業務は本当に必要か」を問い、慣習的な作業や重複確認、不要なリマインド等を棚卸しする。「捨てる→残す→自動化する」の順で進めることで、「本当に必要な業務」に対して、効果的にAI等を活用できます。
AIが得意なこと、人がやるべきこと 役割設計の前提として、澤井氏はまず「AIが得意なこと」を定義しました。AIが非常に得意なのは、情報を収集し、多くの情報を分析・整理し、最終的に文章や表、スライドといった形に整えて出力するといった領域です。
一方で、その前後に人間の仕事が残ります。何を調査させ、どんな問いを投げかけるか。また、出てきたものをそのまま使うのではなく、解釈して取捨選択し、意思を込める。澤井氏は、「問いを投げかける」こと、「解釈・意思決定すること」は人間、「収集・分析・整理して答えを出す」ことはAI、と整理しました。
リクルーターが担う3つの役割 そのうえで澤井氏は、リクルーターが担うべき仕事は3つだと定義しました。
1つ目は「問いを投げかける」。たとえば母集団形成にあたり、求める人材が世の中にどれくらいいるのか、競合と比べてkubellが持つ候補者に響くポイントは何かといった問いを設定し、AIに調査させる。問いの起点は人間にしか作れません。
2つ目は「意思を込める」。澤井氏は、自社の事業戦略を例に挙げます。kubellは、自社でITツールやAIを使いこなすことが難しい中小企業に対し、業務そのものを引き受けて成果をお返しする「BPaaS(Buisiness Process as a Service)」を提供しています。このように中小企業を主な対象にするのは、理屈だけで考えれば非効率な戦略とも言えます。1社あたりのLTVが大きい大手企業を対象にするほうが、一般的なビジネスモデルとしては合理的だからです。
それでもkubellが中小企業に向き合うのは、明確な意思があるからだと澤井氏は語ります。他社がアプローチしないためにDXが進めづらく、苦労している中小企業が日本には数多くある。だからこそ、中小企業に貢献することが社会貢献につながると確信しているのです。
AIは基本的に合理的な方法を考えます。AIに『戦略を考えて』と依頼したら、kubellの戦略はまず出てこないはずだと言います。一見非効率な戦略に意思を込めて実行する。また込められた意思を正しく伝え、理解する。これは人間にしかできません。
3つ目は「感情に配慮して伝える」。意思を込めた内容を相手の表情や感情を見ながら届けていく。澤井氏はこれを「エモーショナル」「フィジカル」な領域と呼び、人間にしかできない仕事だと位置づけます。
役割を絞ったことで生まれた変化 問いを投げかけ、意思を込め、感情に配慮して伝える。リクルーターの仕事を3つに絞ったことで、採用現場には明確な変化が表れたといいます。
澤井氏は他社の人事担当者と話す中で、自社の戦略を深く理解し、意思を込めて語れる人事は貴重な存在だと感じています。そんな中、kubellのリクルーターは全員が意思を持って自社の戦略や競合との違いを語れる。これが大きな特徴だといいます。
結果として、採用市場で希少なハイレイヤー人材やスペシャリストの採用も進んでいます。戦略を語れる人事・リクルーターがいることで、事業レベルのテーマを考えられる候補者に、自社の魅力をきちんと伝えられるのです。
AI活用は「効率化」が注目されがちですが、それは手段にすぎません。kubellの場合、人間にしかできない仕事をきちんと定義し、効率化で生まれた時間を「候補者に魅力を伝える力の強化」という本質的な業務に還元している点がポイントです。
月200時間削減の内訳 澤井氏にはAI活用による業務時間の削減効果を、中途採用領域における具体的な数字とともに説明いただきました。
ミスが生じやすい「書類作成」 まず書類作成業務です。エージェントとの人材紹介契約書、内定通知書、雇用契約書、入社前の業務委託契約書まで、月間およそ60枚を作成・チェック。金額設定に法則性はありますが、以前は1件ずつコピー&ペーストし、電卓で計算していました。作成に5分、チェックに2〜3分かかるうえ、手作業ゆえに宛名の取り違えなどのミスも発生し、差し戻しや作り直しが生じる。これらで月10〜12時間ほどを費やしていたといいます。
最大のインパクト「面接日程調整」 最もインパクトが大きかったのは面接の日程調整です。日程調整は単純に見えて、実際はいくつもの変数が絡む業務です。
中途採用では、候補者との間にはエージェントが入ることも多く、エージェント側も複数の会社を候補者に紹介していて、優先順位があります。結果として、候補者が出した面接日程より少ない選択肢しか自社に伝えられないこともあります。候補者がハイレイヤーになれば、面接官も役員クラスとなり、時間を押さえにくい。さらに「子供のお迎えがあるので不可」「外部ミーティングを調整中なので入れないでほしい」「1on1は重ねていい/重ねないでほしい」といった個別事情も生じます。
候補者から2〜3候補、役員からも2〜3候補しか出ない中での日程調整は難易度が高くなります。過去にSaaSツールを導入したものの、機械的になりすぎて細かな判断ができず、結局手作業に戻ってしまったといいます。1件あたり約20分、月間で約80件の面接をしており、日程調整だけで月26〜27時間を要していました。
地味ながら大きい「録画データ管理」 最後に、面接の録画データ管理です。同社は候補者の許諾を得たうえで面接を録画・保存しています。ツールの仕様上、データはカレンダー作成者のフォルダに入り、社内共有や蓄積には手作業が必要でした。
ローカルにダウンロードし、ファイル名を変更し、全社フォルダを作成し、候補者の職種やポジションに応じて異なるアクセス権を設定してアップロードする。1件あたり10分ほどの作業ですが、80件あると月13時間ほどかかっていたといいます。
合計200時間の削減効果
前述の3業務に加えて、各種スライド作成に約20時間、採用広報のイベント動画・画像・求人票の生成などに約20時間。すべて合計すると中途採用で約100時間。同様の業務を新卒採用でも行っているため、両組織あわせて約200時間になります。
これらの業務時間が、AI等を使った自動化により削減されました。「何に時間がかかっているのか」を一つひとつ可視化したからこそ、削減のインパクトも明確に数字で示せるといいます。
リクルーターの役割はどう変わったか AI導入の前後で、リクルーターの働き方はどう変化したのか。澤井氏の答えは「すごく端的に言うと、デスクにいる時間が圧倒的に減りました」とのことでした。営業の仕事が顧客の要望に合わせて自社のサービスや物を販売することだとすれば、リクルーターは会社自体を商品として、候補者に合わせて魅力を届けていく仕事です。だからこそ、パソコンに向かうより、候補者やエージェント、各事業の担当者に実際に会うことが大切です。
200時間を削減した結果として、デスクで作業する時間が減り、人と会い、ミーティングや電話をする時間が明らかに増えたといいます。意図した通り、採用オペレーション業務は圧縮され、本来時間を費やすべき対話や戦略、採用コンサルティング業務へとリソースがシフトされました。