博報堂DYホールディングスが推進する「粒ちがい」の才能が響き合う人材戦略

ビジネスモデルや事業環境の変化が激しい昨今、新たな価値や事業を創出できる組織へのシフトを迫られる企業は少なくありません。

 

株式会社博報堂DYホールディングスは、「粒ちがい」の才能を持つすべての社員を成長の源泉と捉え、キャリア自律施策を実施しています。取り組みが功を奏し、先日は「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026」において大企業の部・優秀賞を受賞されました。

 

本記事では、博報堂DYグループが実践する組織開発・人材戦略、表彰に際して高く評価された取り組みに関して、株式会社博報堂DYホールディングス グループ人材開発室 室長の坪井克諭氏、株式会社博報堂DYホールディングス グループ人材開発室 成長戦略グループ グループマネージャーの二階晋平氏に、『HRドクター』を運営するジェイックグループの株式会社Kakedas代表取締役社長 竹長が、お話を伺いました(以下敬称略)。

 

日本有数の「クリエイティビティ・プラットフォーム」の人材戦略

今まさに広告業界が直面している課題

竹長はじめに、貴グループが「クリエイティビティ・プラットフォーム」を目指されている背景と、広告業界ならではの人材に関する課題についてお聞かせいただけますか。

 

坪井私たちは今、大きな変革期の最中にあります。もともと広告業界はマーケティングコミュニケーションの領域を生業としてきましたが、昨今は経営戦略の領域まで拡大しています。そのような中、デジタル専業の広告会社やコンサルティングファームなど、競合環境が著しく激化しています。専門性もより高度化し、今までのやり方だけでは通用しない時代になりました。

 

 

坪井こうした局面において、私たちは「広告」という枠組みを超え、受注型のビジネスモデルから、自ら新しい価値を創出するモデルへとシフトしているところです。

 

私たちはグループの内外を問わず、人、企業、アイデア、テクノロジーを広くつなぐ「クリエイティビティ・プラットフォーム」になるというビジョンを掲げており、主役となるのはやはり「人」です。しかし組織が多角化するにつれて、組織内でも「誰がどこで、どんな意志やスキルを持っているのか」が見えにくくなってきたという課題がありました。ビジネスモデルが変われば、必要とされる人材も変わり、この課題を早期に解決する必要がありました。

 

竹長人材の“姿”を見えやすくすることが必要だったのですね。課題にどのようにアプローチされているのでしょうか。お二人の業務内容も含めて教えていただけますか。

 

坪井私は2024年に人材開発室に異動し、2025年に室長に就任しました。それまで25年以上マーケティングの専門組織に身を置いており、人事領域への異動は初めての経験でした。当初は「人材開発室=研修を企画・運営する組織」というイメージを持っていたのですが、着任してみると、前任者がすでにHRデータ領域や組織支援に関する取り組みに着手していました。

 

現在グループ人材開発室は、社員研修に関する部門と、組織開発・組織支援の部門のふたつに大きく分かれています。個人の育成と組織の支援という「両輪」を回すことで、先述の課題にアプローチしています。

 

二階私が在籍する成長戦略開発グループは、人材育成と組織支援の両輪をつなぐ役割を果たしています。ピープルアナリティクスを核とした、R&D(研究開発)のような組織です。現在は、個人の能力開発にも役立ち、組織支援のベースにもなるプラットフォームとして、HRデータを蓄積・活用するためのデータベース整備やシステム開発をリードしています。

 

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2024年から本格的に始まった“データドリブン”なHR

竹長ピープルアナリティクスやHRデータ領域への注力は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

 

坪井2020年に着任した前任者が、この分野に注力しようと考えたのがきっかけです。世の中ではタレントマネジメントシステムなどの活用が注目されていました。しかし当時はシステムこそあったものの、十分なデータがあるとはいえず、人材の育成方針や配置決めは現場の勘や経験で決まっていました。

 

デジタルマーケティングも武器にしている会社なのに、なぜ内側の「人」に対してデータが使われていないのか。そうした課題意識のもとで2022年頃から本格的な議論が始まり、まずは社員が保有スキルを回答する「スキルサーベイ」から着手し、結果を蓄積する独自のダッシュボード構築へと進んでいきました。

 

二階人材開発室は新人教育やオンボーディング、職種別研修など研修中心の組織でしたが、データ活用や組織支援といった新しい業務が生まれたため、2024年に私が所属する成長戦略開発グループが発足。2026年には組織支援を専門とするチームが新設されるなど、ここ数年で私たちの組織体制自体も大きく変化しました。

 

キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026での評価

クリエイティビティとキャリア自律の考え方

竹長人材開発室自体も大きく変化されてきたのですね。取り組みが結実し、先日は「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026」の大企業の部で優秀賞を受賞されました。貴社におけるキャリアオーナーシップの捉え方についてお聞かせいただけますか。

 

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二階当グループにはもともと自由闊達な社風があり、さまざまな専門スキルを持った人間がいます。そして異なる専門性を持った人々が連携し、結びつくことで新たな価値を生み出す「クリエイティビティ」を最重要視しています。

 

そのため、職種ごとの枠はありますが、本人のやりたいことである「アスピレーション」に応じて別の仕事に染み出したり、プロジェクトごとにフレキシブルにチームを組んで連携し合ったりすることを推奨する土壌があります。このような環境下でのキャリアを考えたとき、「個人で勝手に考えてキャリアを築きなさい」というキャリア自律は、私たちの目指す姿ではありません。

 

一人で孤独にキャリアを考えることには限界があります。よって私たちは、社員自身のエンパワーメントに深く立ち入ること、そして彼らを見守る上司や組織側を支援することをセットで行っています。個人の成長と組織の成長が同期していくことが、私たちのキャリアオーナーシップにおける重要な考え方です。

 

坪井私たちのカルチャーを象徴する言葉に「粒ぞろいより、粒ちがい」や「正解より別解」があります。AIに聞けばそれなりの答えが瞬時に出てくる時代だからこそ、“正解中毒”から抜け出し、自分なりのユニークな視点を加えて「もっと面白い答えがあるはずだ」と追求することが大切です。

 

キャリアも全く同じだと思います。あらかじめ決められたジョブディスクリプション(職務記述書)の枠にはめるような標準化は、クリエイティビティを殺してしまいます。自分の内側にある「自分はどうしたいのか」というアスピレーションを阻害せず、奨励していきたいのです。

 

「Data×AI×Humanity」の取り組みが評価された

竹長キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026では「Data×AI×Humanity」の取り組みが評価されたと拝見しております。この点について詳しく教えていただけますか。

 

二階かつてメンバーシップ型の働き方だったときは、濃厚な人間関係の中で先輩が後輩を手取り足取り教え、育てることができました。しかしリモートワークが普及し、価値観や働き方が多様化する中、仲間の状況が見えにくくなりました。現場のマネージャーからも「部下をどう育てればいいのか分からない」という声が届いていたほどです。

 

また、仮に膨大な人材データがあったとしても、日々の数字や目標に追われる現場のマネージャーには、データを読み解く時間や余裕がありません。そこで私たちは、社員のアスピレーションやスキル、経験を可視化するダッシュボードと、人事AIによるサジェストを掛け合わせたシステムを開発しました。

 

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二階社員が積み上げてきた経験やスキルサーベイの結果、さらには目標管理面談で本人が語った言葉などをAIに読み込ませます。すると、AIがその人の性格や傾向を分析した上で「この社員のアスピレーションと過去の経験やスキルから考えると、次はこういうプロジェクトにアサインすれば成長が最大化するのではないか」と、可能性を提示してくれます。それを実際の上長の目と肌感覚とすり合わせながら活用してもらうのです。

 

竹長AIが一人ひとりの成長に合わせた最適な“打席”を考えてくれるのですね。

 

二階そうです。ただし最終的には「Humanity」、つまり人の手で人事を決めています。私たちは社内横断で「人の成長戦略会議」という会議体を年複数回運用しています。各部門の部長や課長、人材開発室、人事異動などを担う人事室のメンバーが対面で集まり、人材に関する情報やAIが出したサジェストをもとに議論します。この会議に参加する部門は年々増えていき、現在は50部門が参加するようになりました。

 

現場の賛同を得るための苦労と行動

人手不足を主張する現場と粘り強く対話

竹長データとAIを使いつつ、最後は「Humanity」による対話で着地させる取り組みを50部門に根付かせるまでには、相当な苦労があったのではないでしょうか。

 

坪井初期の頃は大変でした。現場の管理職は忙しく、慢性的な人手不足を感じていますから、最初は「人が足りないから誰かを異動させてくれ」という、単なる人員配置の交渉の場になりがちでした。私たちが「人の成長を真ん中に置いた会議をしよう」と話しても、「現場の忙しさを分かっていない」「綺麗ごとを言っている余裕はない」と、なかなか受け入れてもらえませんでした。

 

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竹長現場の切実な要望と、人材開発の理想にギャップがあったのですね。どのように溝を埋めていかれたのですか。

 

坪井制度を押し付けるのではなく、泥臭く各現場に伴走し、粘り強く対話を重ねていきました。「人不足の現場では具体的にどういう課題があるのか」「活用しきれていない人材のポテンシャルはないか」など、視点を変える問いかけも行いました。

 

加えて、クライアントに対して行うワークショップを社内向けにアレンジし、人材育成に関する知識やソリューションをセットで現場に提供しました。すると現場側の反応が変わり、少しずつ信頼関係が醸成され始めました。「人の成長戦略会議」は3年目を迎え、会議体の運営もスムーズになっています。

 

「親戚のおじさん」が生み出す安心感

竹長粘り強い関わりが功を奏したのですね。現場の信頼を勝ち取るため、役割分担やアプローチに関してどのように工夫されましたか。

 

二階支援を担当する「HRマネージャー」を部門ごとに配置し、彼らが現場に赴く「出張型」のスタイルで日々の悩みを聞いて回る環境を作りました。彼らは親しみを込めて「親戚のおじさん」と呼ばれることもあります。

 

竹長「親戚のおじさん」ですか。絶妙な距離感を表現していますね。

 

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二階人事異動をつかさどる人事室の担当者が面談に行くと、社員は「これは異動の面接ではないか」「評価の記録に残るのか」と思うかもしれません。しかし私たち人材開発室は人事権がないからこそ、第三者的な立ち位置がとれるのです。

 

「親戚のおじさん」たちが伴走し、上司や人事室には言えない思いをすくい上げて会議のテーブルに載せる。これが取り組みを成功させた大きな要因だと思います。

 

仕組みの定着から見えた「新たな課題」

現場が主体的に動き始めた

竹長取り組みが3年目を迎えた今、現場にはどのような変化が現れていますか。

 

坪井嬉しいことに、少しずつ「現場が主体的に動いている」という手応えが感じられています。現場側から「組織の成長のために予算を使って、若手にこういう研修を受けさせたい」「自分たちの組織に必要なスキルを整理したから、このツールをバージョンアップしてほしい」など、前向きな相談が来るようになりました。最終的に、私たちの伴走なしでも現場が自走できるようになるのが理想ですね。

 

二階サーベイでも面白い結果が出ています。前年と比較して「自分がこの1年で成長したと思う」と回答した人が確実に増加しているのです。

 

印象的だったのは、ある担当役員に2年間の成果を報告しに行ったら「現場の皆が、人の成長を真ん中に置いた議論ができるようになるなんて……」と、感極まって言葉を詰まらせていたことです。その方が涙もろいという理由もありますが。

 

人材開発や組織開発はすぐに結果に表れにくく、私たちバックオフィスは「コストばかり使っている」と揶揄されることもあります。しかし、社員が目に見えて変わっていくプロセスを共有でき、仕組みを作って本当によかったと思いました。

 

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シニア人材こそ個別最適な対応を

竹長人生100年時代、年齢を重ねるほどキャリアや私生活の状況が多様化していきます。その最たる例であるシニア人材に関して、何か対策を講じられていますか。

 

坪井シニア人材の活躍は「人の成長戦略会議」でも重要テーマとして議論しています。シニア人材といっても、多様な価値観やキャリア意識を持っており、その活躍の仕方も多岐にわたっています。

 

われわれ人材開発室でも、シニア人材はさまざまな活躍をしています。HRマネージャーとして現場を支えている方々もいれば、研修企画や運営をバリバリ回している方々もいます。多様な活躍の場をいかに設計できるかが、今後より重要になってくると思います。

 

「生活者発想」とキャリアを掛け合わせた取り組みを

成長の「別解」を考えたい

竹長今後どのような人材戦略やキャリア自律施策を展開していくのか、将来の展望をお聞かせください。

 

二階現在の取り組みは50部門に広がっていますが、すべての組織に一律のやり方を押し付ける必要はないと考えています。すでに自走している組織には必要なツールを渡して任せ、サポートが必要な組織にはリソースを集中するなど、最適化を進めているところです。

 

一方で、私は「成長することが善である」という風潮に疑問を抱いています。人には、育児をしながら働く時期もあれば、介護に向き合う時期、あるいは病気の治療をしながら働く時期もあります。右肩上がりの成長だけが求められる世界を「息苦しい」と感じる人もいるのではないでしょうか。だから私は成長の「別解」を考えたいです。

 

坪井私も、働きやすさや働きがい、働くことを通じて得られる幸せを真ん中に置いた発想ができる企業文化を作りたいと考えています。

 

当グループには、人を消費者としてではなく、生活丸ごとを捉える「生活者発想」というフィロソフィーがあります。働く仲間に対しても「生活者発想×キャリア」の考え方ができるようになったらいいですね。

 

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竹長最先端のテクノロジーの裏側にある人間的な取り組み、あたたかいカルチャーに感銘を受けました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

プロフィール

坪井 克諭氏
株式会社博報堂DYホールディングス グループ人材開発室 室長
坪井 克諭氏
1997年博報堂入社。入社以来、自動車/食品/飲料情報機器/トイレタリー/通信など幅広い領域におけるマーケティング戦略立案を担当。2007〜2013年は中国広州の海外拠点に駐在、帰任後はグローバル担当部門にも複属。2016年に約10カ月の育休を取得し、育児のかたわら保育士の資格も取得。2024年4月から人材開発室に異動となり、主に能力開発/研修を担当。2025年から現職。
二階 晋平氏
株式会社博報堂DYホールディングス グループ人材開発室 成長戦略グループ グループマネージャー
二階 晋平氏
2004年、博報堂にてストラテジックプラナーとして飲料業界のマーケティングを担当した後、TBWA HAKUHODOへ出向。営業、デジタル戦略を歴任し、2017年より経営企画・人事局にて社内DXやDEI、新制度企画に従事。2025年より人材開発室にて人材データプラットフォームの開発、people analytics、AI人材育成等の業務をリード。
竹長 剛氏
株式会社Kakedas 代表取締役社長
竹長 剛氏
大学卒業後、新卒でエプソン販売株式会社に入社し、盛岡営業所に配属。その後、広告制作事業を手掛けるインターリンク株式会社に入社し、後に同社の代表取締役に就任。社員数を約4倍に増やすとともに、営業利益を向上させるなど、同社の成長に大きく貢献した。2016年に、同社をオンデマンドプリンティングサービスやデジタルソリューションビジネス等を手掛けるキンコーズ・ジャパン株式会社に売却。その後、同社の取締役に就任し、新規事業および商業施設営業部の責任者を兼任した。退任後は、エンジェル投資家としての活動をはじめ、ベンチャー企業の社外取締役や役員などを歴任。2023年8月より株式会社Kakedasに参画し、2025年8月に代表取締役に就任。

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