日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社|日本ペイントグループの “自律型人材”を育む「成長支援」とは

事業環境がめまぐるしく変化する今、組織の持続的な成長を支える人材の育成や、社員の活性化に頭を悩ませている経営層・人事担当者は少なくありません。

 

「MSV(株主価値最大化)」の実現を掲げ、独自の「自律・分散型経営」体制のもとで世界48ヶ国へと事業を拡大し続ける日本ペイントグループは、成長の源泉となる人材の輩出に注力しています。取り組みが功を奏し、先日は「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026」において大企業の部・優秀賞を受賞されました。

 

記事では、日本ペイントグループが実践する組織開発・人材戦略、表彰に際して評価された点や人材の成長支援について、日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社 執行役員 人事部長の川口公高氏に、『HRドクター』を運営するジェイックグループの株式会社Kakedas代表取締役社長 竹長が、お話を伺いました(以下敬称略)。

 

独自の「自律・分散型経営」を支える人材戦略

グローバル展開と分社化がもたらした「組織の課題」

竹長はじめに貴社の事業概要と、川口様が統括されている部門の機能についてお聞かせいただけますか。

 

川口当社グループは塗料のリーディングカンパニーとして、自動車用、船舶用、建築用、工業用など非常に幅広い分野で事業を展開しています。現在は海外売上高比率が約9割に達しており、積極的なM&Aを通じてグローバルでの事業成長を加速させています。

 

私が所属する日本ペイントコーポレートソリューションズは、持株会社化のタイミングでスタッフ機能を切り出す形で設立された会社です。人事、財務経理、総務、法務といった間接機能を一手に担っています。

 

当社グループは「MSV(株主価値最大化)」を掲げ、各グループ会社の自主性を尊重する「自律・分散型経営」を行っています。現地市場や顧客を最も把握している各事業会社の経営陣へ権限を委譲する、いわゆる連邦経営を敷いており、本社はグループ全体の規律を維持しながら、各地域・事業の成長を後押ししています。その中で私は、日本国内における全事業会社の人事領域を統括しています。

 

 

竹長国内の全事業会社の人事領域を横断して見られているのですね。貴社が「自律・分散型経営」を実践する上で、これまでどのような人事戦略をとられてきたのでしょうか。

 

川口実は、数年前まで大きなジレンマを抱えていました。事業を強化するために分社化を進めてきたのですが、結果として組織が「縦割り」になり、各事業会社間の距離が開いてしまったのです。

 

社員が成長するためには、多様な事業フィールドで異なる経験を積むことが理想です。しかし組織が縦割りになると、キャリアが自社の中だけで閉じてしまいがちです。毎年行う「キャリア申告」で社員が「違う事業に挑戦したい」「別の会社を経験したい」と希望を出しても、会社をまたぐ異動はなかなか実現せず、このままでは、社員の意欲を尊重しきれず、成長機会を求める優秀な人材が流出しかねないという危機感がありました。

 

竹長自社に様々なフィールドがあるのに、サイロ化した組織の壁によって挑戦しにくい環境だったのですね。

 

川口その通りです。また事業を伸ばすために人事制度や運用の違いは事業会社ごとにあってもよいのですが、事業に紐づかないところまで各社で異なる部分が出てきてしまうと、異動に際して不具合が生じるなど、社員の間で不公平感が生まれていました。

 

そこで、ベクトルを一つに合わせるために、2025年4月に各社の人事機能を一元化する「One HR」へ舵を切りました。

 

構想からわずか1年で実現した「One HR」

竹長貴社の規模で人事機能を統合するのは大変な取り組みだったと思います。「One HR」はいつ頃から着手されたのでしょうか。

 

 

川口具体的に動き出したのは2024年4月です。共同社長に提案を持っていき、ゴールデンウィーク明けから本格的な検討を開始しました。そこから2025年4月の発足に向け、約1年で組織体制を変更しました。

 

スピーディーに実施した分、各社からさまざまな意見が出たのは事実です。しかし人事制度というものは、どれだけ整った制度を作っても、連動する組織体制や運用メカニズムがなければ機能しません。One HR体制では、各事業会社の個別性を反映するために各社ごとに「HRビジネスパートナー(HRBP)」を配置し、各社それぞれの意向を汲み取りつつ、採用や研修、労務などの機能人事を担うチームと連携できる組織体制を構築しました。

 

キャリアオーナーシップ経営AWARD2026受賞の裏側

人事主導ではない「有志コミュニティ」の誕生

竹長組織改革を経て、貴社は先日「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2026」大企業の部で優秀賞を受賞されました。受賞において評価されたポイントをお聞かせください。

 

川口評価されたのは、社内の有志が立ち上げた「EFE(Engagement for Employee)」というコミュニティを起点とした取り組みです。今では全社をカバーしていますが、もともとは日本ペイント・オートモーティブコーティングスに在籍する社員を中心として7名から立ち上がった組織で、独自のエンゲージメント推進プロジェクトを実施しています。彼らが自律的に行ってきた草の根活動が評価され、今回の受賞に至りました。

 

竹長有志コミュニティの取り組みが評価されたのですね。非常にユニークです。

 

川口「人事主導ではない」という点が独自性であり、価値あることだと考えています。

 

会社から「あれをやれ、これをやれ」と言われた瞬間に、社員は受動的・他律的になります。だからこそ社員の自発的な動きを会社がどれだけ尊重し、支えられるかが鍵になると考えています。

 

コミュニティ立ち上げのきっかけは、社内研修で風土改革の他社事例を見たことだと聞いています。「自分たちの手で従業員エンゲージメントのスコアを高められるのではないか」という思いから、共に活動する仲間を募り、現状把握のために30歳以下の全従業員や当時の幹部職50名以上から “生の声”を集めたそうです。そして共同社長に「組織のあるべき姿」に関するプレゼンを行い、集めた声を届けました。コミュニティは徐々に共感を呼び、今では300人ほどの組織に拡大して、従業員のエンゲージメントを高める活動を行っています。

 

 

現場の主体性を育てる組織風土

竹長少数の社員が始めたコミュニティが300人の規模になるまで成長したのは、すばらしい結果だと思います。貴社には元から声を上げやすい環境があったのでしょうか。

 

川口何かを思いついたら声を上げやすい風土は以前からあったと思います。その上で、彼ら自身が泥臭く活動していったのが功を奏したのではないでしょうか。

 

企業がエンゲージメントスコアの数値を出すと、現場の管理職は「人事から突きつけられた通知表」のように捉え、義務感で対応しがちです。しかしそれでは現場がついてきません。彼らのすばらしかった点は、エンゲージメントスコアを「自分たちの組織を良くするための共通言語」として捉え、周囲の上司やメンバーを一人ずつ巻き込んでいったことです。

 

彼らは組合活動も含めて拠点ごとの「横のつながり」や、元々あった夏祭りなどのイベントを活かし、各職場のメンバーが本音で話せる「対話の場」を地道に作って、協力者を増やしてきました。

 

現在は共同社長もオフィシャルなスポンサーとして参画し、人事部門もその活動を見守りつつ、シナジーが出せる可能性あればすぐに連携できる体制をとっています。

 

シニア人材の活性化につながる「ジョブクラフティング」

日常業務をベースとして、自分なりに仕事を再構築していく

竹長有志の取り組みを紹介いただきましたが、会社としてもさまざまな人事施策を行っていると拝見しています。川口様が今まさに注力されている施策についてご教示いただけますか。

 

 

川口まず人員構成の観点からは、当社は年齢層が高く、40〜50代の中堅〜シニア層が社員の約半数を占めています。彼らの活性化はグループ全体の最重要課題です。

 

一般的なキャリア自律研修では、よく「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと・役割)」の3つの重なりについて考えますよね。しかし、実際の会社組織ではどうしても、組織から与えられた業務である「Must」の割合が大きくなります。経験豊富なシニアに向けて「あなたのWillは?」と問いかけても、理想と現実のギャップを感じ却ってモチベーションを下げてしまうこともあります。

 

そこでアプローチの順番を逆にして、まずは「Must」、つまり現在の仕事に軸足を置き、「Must」に対して「Will」や「Can」をどう合わせ、仕事の意味づけを変えていくかという手法を伝えるようにしました。このように、業務内容や職場の人間関係、仕事に対する捉え方を主体的に再構築する行動を「ジョブクラフティング」といいます。このコンセプトは当社組織の現実的な動きにマッチしやすく、シニア層も受け入れやすいと考え、これからの人事戦略の基軸とすることとしました。

 

今年から社内に「ジョブクラフティングセンター」という専任組織を立ち上げ、45歳以上の全社員を対象にジョブクラフティング研修やリスキリングプログラムの提供、再配置の促進等をスタートさせています。

 

経営トップの「シニアは投資すべき対象」の声が後押しに

竹長大胆な投資を行ったのですね。40〜50代になると研修機会が減り、寂しい思いを抱える方も見られます。現場の反応はいかがですか。

 

川口取り組み始めたばかりですが、まずまずの走り出しだと思います。取り組みに際して印象的だったのは、センター発足時に共同社長から「これはシニア人材への『投資』である」というメッセージが出されたことです。

 

若手の頃は研修がいくつも用意され、人事部門との接点もありますが、40〜50代になると研修の機会も減り、「自分たちはもう投資対象ではないんだ」と感じてしまいがちです。企業によっては「シニア層=コスト」として捉え、早期退職の対象になることもあります。

 

当社は今回「意欲と能力があれば、何歳であっても投資する」という姿勢を示しました。最初の取り組みであるジョブクラフティング研修も、短時間のeラーニングなどではなく、対面で2日間のワークショップを行うという時間をかけた充実したプログラムとしています。最初は「何が始まるんだ」と警戒していたシニア社員たちからも、受講後には「これまでのキャリアをじっくり振り返る貴重な時間になった」と、ポジティブな声が返ってきています。

 

個別の事情に寄り添う外部キャリアカウンセリング

竹長Kakedasではクライアント企業の社員様にキャリア面談を実施しています。様々な方に面談を提供していますが、シニア層はキャリアやライフスタイルを積み重ね、また多様化している分だけ、面談の難しさがあると感じています。

 

川口まさにその通りで、高年齢層になればなるほど、置かれている状況が若手の頃とは比べものにならないほど複雑になります。キャリアの悩みだけでなく、健康問題、子どもの学費、親の介護など、プライベートな事情も一人ひとり全く異なります。そのため、全員に一律のプログラムだけを提供しても響きません。

 

当社では、ジョブクラフティング研修とセットで、社外のキャリアカウンセラーに個別カウンセリングを受けられる機会も導入しました。

 

集団で行うワークショップも刺激になって良いのですが、いざ「自分のこれからの人生をどうするか」という考えたとき、個別に深く相談できる場が不可欠です。キャリアカウンセリングはとても好評で、シニア社員が一歩を踏み出す大きな支えになっています。

 

 

枠を越えた経験が「井の中の蛙」を脱皮させる

社内副業から始める、キャリア自律の取り組み

竹長このほかのキャリア自律に関する具体的な施策も紹介いただけますか。

 

川口冒頭でお話しした「縦割り」への対処も含め、社内副業制度「クロスジョブ」をトライアルベースで始めています。業務時間の約2割を使って他部署の仕事を兼務できる制度です。「他部署に行ってみたら良い経験になった」「兼務者に来てもらったら良い影響があった」」という成功体験を現場に積み上げていけば、兼務した社員だけでなく受け入れる部署にも変化が生まれるのではないかと期待しています。

 

ゆくゆくは、以前トライしたものの実効性を伴わず終了してしまった社内公募制度をあらためて展開し、社員のキャリア支援につなげることが理想ですが、まずは部分的な異動の意味合いでの社内副業を皮切りに実態を伴わせながら進めていきたいと思います。

 

日本ハム、JERAとの「越境学習」を実施

竹長堅実で戦略的なアプローチをとられているのが印象的です。社外の方と関わる機会も設けられていると伺いましたが、どのような取り組みでしょうか。

 

川口当社は歴史が長く、社内の人間関係が良好で居心地も良いため、その環境に長くいると視野が狭くなりがちで、悪く言えば「井の中の蛙」になるリスクがあります。よって、いかに外からの刺激を得ていくかが重要です。

 

そのため、次世代リーダー育成における研修プログラムでは、日本ハム様やJERA様といった他業界の企業と共同でキャリア研修や交流会を実施し、さまざまな刺激を得られるようにしています。

 

社内メンバーだけで集まると、お互いのバックグラウンドが分かっているために「慣れ」や「甘え」などが出ますが、一歩外に出れば自社の常識が通じない相手と切磋琢磨することになります。これは社内研修では得られない経験です。

 

「自分のミニチュア」を育てるのはやめたほうがいい

川口私は「人材育成」をできるだけ「成長支援」と語るようにしています。なぜなら人材育成と単純に打ち出してしまうと、いわゆるティーチング的なことを頑張ってしまう上司が多くなってしまうからです。ですから私はマネジメントに「手取り足取り教えるだけでは、部下はあなたを超えることはなくあなたのミニチュアしか育ちません。結果として会社は“小粒”になっていく。」という話をしています。

 

 

竹長「あなたのミニチュアしか育ちません」は、とてもパンチのある言葉ですね。

 

川口本来、人が育つために必要なことは、上司が知っていることを時間をかけて手取り足取り教え込むティーチングのみならず、上司すら想定できない世界を見る機会を提供したり、いかに「外の刺激」や「想定外を乗り越える力」を提供し続けられるか、だと考えています。

 

「次はおそらくあのポジション、あの仕事だろうな」という本人の想定の範囲内での配置をしても、あまり刺激にはなりません。「えっ、自分がそこに行くの?」「経験したこともないのに大丈夫かな」という想定外の環境に身を置くことで、人は一皮むけます。上司の枠の中に囲い込まず、知らない世界に引っ張り出して刺激を与え続けることこそが、真の成長支援だと考えています。

 

日本ペイントグループが目指す姿

コストカットではなく、グロースのための投資を

竹長最後に、今描かれている人材戦略や成長支援の将来像についてお聞かせいただけますか。

 

川口化学業界、特に当社の属する塗料の世界は、参入障壁が高く、非常に安定した業界です。そのため、働く社員も安定志向に傾きやすい特性があります。

 

しかし、グローバルでの競争環境や経営環境は激変しており、持続的な成長を目指す当社には常に変化が求められています。だからこそ「変化に適応できる人材」をいかに輩出し続けられるかが重要です。

 

若手に限った話ではありません。40〜50代であっても、常に変化を楽しみ受容できる人材がマジョリティになる会社にしていきたいですね。

 

 

当社グループの企業文化に「LFG(Lean for Growth)」という言葉があります。どうしても現場は「Lean」、つまりコストカットのほうにばかり意識が向きがちで、人に関しても「人件費をいかに減らすか」という視点になりやすいと感じます。

 

しかし本気で「Growth」を目指すのであれば、人への投資を惜しんではいけません。自ら変わろうとする個人の成長を支援し、「投資をすれば、人は何歳からでも大きく育ち、社内にリターンをもたらしてくれる」という成功体験を、全社で実感できるようにしていきたいと思います。

 

竹長若手からシニア層まで、何歳になっても投資をすれば成長するという成長支援の姿勢を学ばせていただきました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

プロフィール

川口 公高氏
日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社 執行役員 人事部長
川口 公高氏
大学卒業後、ソニー株式会社入社。営業、マーケティング領域を5年ほど担当した後、人事部へ異動。約10年に渡るソニーでの人事経験を経たのち、株式会社ベネッセコーポレーションに入社、人事制度改革PJに参画した後、人事部長就任。以降、ベンチャー、IT、コンサルなど多様な企業において人事責任者としての経験を積み重ね、2020年より日本ペイントホールディングス株式会社へ入社、現職に至る。

竹長 剛氏
株式会社Kakedas 代表取締役社長
竹長 剛氏
大学卒業後、新卒でエプソン販売株式会社に入社し、盛岡営業所に配属。その後、広告制作事業を手掛けるインターリンク株式会社に入社し、後に同社の代表取締役に就任。社員数を約4倍に増やすとともに、営業利益を向上させるなど、同社の成長に大きく貢献した。2016年に、同社をオンデマンドプリンティングサービスやデジタルソリューションビジネス等を手掛けるキンコーズ・ジャパン株式会社に売却。その後、同社の取締役に就任し、新規事業および商業施設営業部の責任者を兼任した。退任後は、エンジェル投資家としての活動をはじめ、ベンチャー企業の社外取締役や役員などを歴任。2023年8月より株式会社Kakedasに参画し、2025年8月に代表取締役に就任。

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