なぜ「管理職になりたくない社員」は増え続けるのか?|~若手の価値観ではなく、組織設計に原因がある理由~

「管理職になりたくない」社員の増加は、多くの企業で共通の課題になっています。私は人事制度設計コンサルティングの現場で、累計1,500件以上の企業のご相談を受けてきましたが、管理職候補が昇格を辞退する、あるいは管理職試験そのものを受けたがらない若手が増えているという悩み声を、業種や規模を問わず耳にする機会が増えています。

 

「管理職になりたくない」と考える社員の増加は、「若手の価値観が変わったから」という説明で片付けられることもあります。しかし、実際に組織の内側を見ていくと、原因は若手の価値観変化だけではありません。管理職がプレイヤー業務を抱え続けていること。役割や権限、評価基準が曖昧なこと。管理職を育てる仕組みが十分に整備されていないこと。こうした組織設計そのものに起因する課題も数多く見つかります。

 

本稿では、「管理職になりたくない社員」が増える組織に共通する特徴を整理しながら、若手が管理職を目指したいと思える組織をどう作っていくかを考えていきます。

 

なぜ「管理職になりたくない社員」が増えているのか

まず、なぜ管理職を敬遠する社員が増えているのか、背景を整理します。

 

プレイヤー業務を兼ねる管理職が常態化している

産業能率大学総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査(第5回)」[1]では、98.5%の課長がプレイヤー業務とマネジメント業務を兼務しており、業務全体に占めるプレイヤー業務の割合は加重平均で49.1%にのぼることが分かっています。同大学が2021年に実施した第6回調査[2]では、兼務している課長の割合は99.5%まで上昇しており、管理職になった後も、プレイヤーとしての業務量がほとんど減らない実態が、複数年にわたって確認されています。

 

同大学が2023年に実施した第7回調査[3]でも、目標達成へのコミットメントは46.7%と高い一方、「人事諸施策に満足している」と回答した課長は25.0%にとどまっており、管理職を支える会社側の体制が、当の課長たちの実感としては追いついておらず、管理職がプレイヤー業務を抱えながら個人毎の努力で管理職業務に向き合っている様子が伺えます。

 

責任と権限のアンバランスが管理職の魅力を低下させている

第5回調査では、「マネジャーとして期待に応えるために十分な権限を与えられていると思わない」と回答した課長が37.4%にのぼりました。株式会社識学「管理職に関する調査」(2023年)[4]でも、管理職として十分な権限があると感じているのは54.7%にとどまり、半数近くが権限不足を感じながら責任を負っている状態です。責任だけが重くなり、それに見合う権限や裁量が伴わない状態は、管理職というポジションそのものの魅力を下げる要因になっています。

 

若手の価値観の変化だけでは説明できない

管理職離れの理由を「今の若手は責任を負いたがらないから」と説明する声もありますが、実態の一部しか捉えていません。産業能率大学総合研究所「2025年度新入社員の会社生活調査(第36回)」[5]では、「仕事はそこそこ大変だが、成長を実感できる環境」を望む新入社員が58.8%と、「仕事はそこそこ楽で、成長の機会も少しはある環境」を望む30.6%を大きく上回っています。負荷や責任そのものを避けたいわけではなく、負荷に見合う成長や納得感を求めているという結果です。

 

管理職離れの背景には、世代間の価値観の違いだけではなく、企業を取り巻く環境の変化や組織運営上の課題が存在しています。まずはこうした管理職を取り巻く現状を正確に捉えることが、対策を考える前提になります。

 

管理職が魅力的になるために欠けているもの

現状を踏まえ、社員が管理職昇格を敬遠する背景をより具体的に見ていきます。

 

魅力的な管理職のロールモデル

管理職を目指すかどうかを判断する際、社員は制度や給与だけではなく、日頃の管理職の働き方を見ています。夜遅くまで仕事をしている、プレイヤー業務を抱えながら部下対応もしている、責任は重いのに裁量が小さい――そのような姿が日常的に見えている組織では、「管理職にはなりたくない」という印象が自然と形成されます。実際、識学の調査でも、管理職になりたくない理由として「仕事量が増えるから」が42.6%と上位に挙がっており、上司である管理職の働き方が、昇格意欲に影響を与えていることが伺えます。

 

明確な役割と評価軸

管理職に何を期待し、どのような基準で評価するのかが明文化されていない組織は少なくありません。管理職になると定量評価は管轄部署のパフォーマンスが中心となりますが、管轄部署のパフォーマンスUPに向けて何をすべきか、人材育成等の働きかけをどう評価されるか等が曖昧なケースが多く見受けられます。

 

結果として「部下をよく見ている」「頼りになる」といった抽象的な評価が先に立ち、日々のどの行動が評価につながるのかが管理職自身にも見えていないケースは、私が支援してきた企業でも数多く見てきました。管理職としての役割が個々の管理職の解釈に委ねられ、評価軸も分からない状態では、昇格を目指す社員も「管理職になった先に何を求められるのか」を具体的に描けません。

 

管理職の魅力の再定義

かつて管理職の魅力は、権限や裁量の拡大、給与の上昇、社会的な立場の向上といった「上昇していく」ことに置かれていました。しかし現在の若手が魅力を感じるのは、必ずしもそうした上昇型の価値観だけではありません。今の若手が重視しているのは、成長を実感できるか、公平に扱われているか、率直なフィードバックを受けられるかといった点です。

 

管理職という役割の枠組み自体は変えないまま、これまでの「魅力」の定義のままで昇格を勧めている組織では、若手が管理職に魅力を感じにくくなるのは自然な結果だといえます。管理職の魅力を再定義するとは、権限や給与といった従来の物差しを否定することではありません。そこに、成長実感や裁量、納得感のある評価といった、今の価値観に合った物差しを付け加えていくことだと私は考えています。

 

管理職が敬遠される背景には、「管理職になった先の姿が魅力的に見えない」という共通の問題があります。プレイヤー業務の重さや役割の曖昧さに加えて、管理職という役割の魅力そのものが、現在の価値観に合わせて再定義されていないことも、管理職離れを加速させる要因になっています。

 

管理職を目指したくなる組織は何が違うのか

若手が管理職を目指したいと思える組織は、どのような点が違うのでしょうか。

 

管理職の役割と期待を明確にしている

管理職育成がうまくいっている組織では、管理職に何を期待し、どのような行動を評価するのかが明文化されています。私は管理職の評価を考える際、「人間的成長」と「業務的成長」という二つの軸で整理することを勧めています。数字の達成度だけでなく、部下との向き合い方や組織への貢献といった側面も評価の対象にすることで、管理職に求められる役割が具体的な行動レベルまで見えるようになります。評価基準が具体的であれば、昇格を目指す社員も「何を身につければ管理職になれるのか」を自分ごととして捉えられます。

 

管理職育成の仕組みが整っている

管理職への昇格を、個人の資質や経験だけに頼らず、段階的に育成する仕組みを持っている組織もあります。昇格前から小さな範囲でマネジメント経験を積ませる、管理職向けの研修や1on1を通じて必要なスキルを補うなど、育成の過程が設計されていることで、社員は昇格後の姿を具体的に想像できるようになります。

 

プレイング業務を見直し、マネジメントに時間を使える環境を整えている(業務分担・権限委譲・業務標準化など)

管理職がマネジメントに専念できる環境をつくるには、業務分担・権限委譲・業務標準化という3つの手を同時に打つ必要があります。多くの企業がつまずくのは、「人員が潤沢ではない中で、チームの成果にコミットしている管理職から、どうやってプレイング業務を外すのか」という現実的な問題です。

 

当社では、まず定型的な業務を洗い出し、判断基準をルール化して部下やメンバーに権限として渡すところから着手しています。当社の場合、160ページを超えるルールブックの中で、誰がどこまで判断してよいかをあらかじめ明文化しており、管理職が都度確認しなくても現場で判断が完結するようにしています。

 

業務の一つひとつについて判断基準が明文化されていれば、意思決定のスピードも落ちません。また、チーム内にサブリーダー的な役割を置き、日常的な進捗管理やメンバーからの相談の一次対応を任せることで、管理職は例外対応や中長期の判断に時間を使えるようになります。プレイング業務を外すことは、管理職の仕事を減らすことではなく、判断の所在を組織の中で分散させることだと捉えると、生産性を落とさずにマネジメントの時間を確保しやすくなるというのが、当社の経験上の実感です。

 

管理職を育成できている企業では、個人の資質だけに頼らず、役割設計や育成制度、業務設計を含めた組織全体の仕組みを構築しています。結果として、管理職がプレイング業務を一定程度担いながらでも、マネジメントに必要な時間を確保できる環境が生まれています。

 

管理職不足は個人の問題ではなく組織設計の問題である

管理職の価値を組織で再定義する

管理職になりたい人材を増やすためには、管理職のやりがいを説明したり意識変革を促したりするなど、社員の動機に働きかけることは重要ですが、それだけでは不十分です。管理職という役割そのものの価値を、今の価値観に合わせて組織側が再定義する必要があります。権限や給与の上昇だけでなく、成長実感や裁量、公平な評価といった要素を管理職の魅力として明確に打ち出すことが、管理職になりたい若手を増やすために求められています。

 

管理職になりたい人が増える仕組みを作る

役割と期待を明確にし、育成の仕組みを整え、プレイング業務を見直して管理職がマネジメントに専念できる環境を用意する。これらを個別の取り組みとしてではなく、一体的な組織設計として進めることが、管理職を「避けられる役割」から「選ばれる役割」へと変えていく道筋になります。

 

管理職不足は、社員一人ひとりの意欲やキャリア観の問題ではなく、組織が管理職の役割をどう設計してきたかという結果です。管理職を敬遠する社員が増えているという現象を、時代の流れや価値観の変化の問題として片付けてしまうと、組織設計上の課題はいつまでも手つかずのままになります。

 

まとめ

「管理職になりたくない社員」が増えている背景には、プレイヤー業務の重さ、権限と責任のバランスの崩れ、管理職の魅力が時代に合わせて再定義されていないことなど、複数の組織設計上の課題が重なっています。若手の価値観が変わったことだけを理由にしてしまうと、本質的な対策にはつながりません。

 

管理職の役割と期待を明確にし、育成の仕組みを整え、プレイング業務を見直してマネジメントに時間を使える環境をつくる。3つを一体的に組織設計として進めることが、若手が管理職を目指したいと思える組織をつくる近道になります。多部門・多職種を抱える大手企業ほど、管理職の役割は部門ごとに異なりやすく、標準化が難しい面もありますが、まずは自社の管理職が「若手から魅力的に映らない管理職像になっていないか確認する」ところから、見直しを始めていただければと思います。

 

参考資料

[1]産業能率大学総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査(第5回)」(2019年)
   https://www.hj.sanno.ac.jp/research-report/201909/middle-managers-survey2019.html
   引用箇所:「●管理職の負担が増加している」「●責任と権限のバランスが崩れている」

 

[2]産業能率大学総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査(第6回)」(2021年)
   https://www.hj.sanno.ac.jp/research-report/202112/middle-managers-survey2021.html
   引用箇所:「●管理職の負担が増加している」

 

[3]産業能率大学総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査(第7回)」(2023年)
   https://www.hj.sanno.ac.jp/research-report/202310/middle-managers-survey2023.html
   引用箇所:「●管理職の負担が増加している」

 

[4]株式会社識学「管理職に関する調査」(2023年)
   https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000029010.html
   引用箇所:「●責任と権限のバランスが崩れている」「●管理職が「魅力的な役割」に見えていない」

 

[5]産業能率大学総合研究所「2025年度新入社員の会社生活調査(第36回)」(2025年)
   https://www.hj.sanno.ac.jp/research-report/202507/new-employee-survey2025-01.html
   引用箇所:「●若手の価値観の変化だけでは説明できない」

 

著者

大村 康雄氏
株式会社エッジコネクション
代表取締役社長
大村 康雄氏
宮崎県延岡市出身。慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、米系金融機関であるシティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、現在は人事・財務課題も対応する「営業・人事・財務課題伴走型支援企業」として展開。経営危機を乗り越えた経験を生かし、コンサルティング業のほか、ラジオコラムなど、各種メディアで経営や営業に関する情報を発信中。また、YouTubeでは、経営・営業ノウハウをわかりやすく解説!これまでに1600社以上を支援し、継続顧客割合は平均75%台。地元宮崎でも地域振興に尽力し、延岡市立地促進コーディネーターや延岡デジタルクロス協議会人材支援委員長を務める。2024年7月、「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。エッジコネクションでは、共に成長できるメンバーを募集しています。詳しくはこちら
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