MBO(目標によるマネジメント)は、適切な目標設定をすることで、社員一人ひとりの力を全社目標の達成という軸に揃えて発揮してもらったり、自走を促したりすることが可能です。
ただ、“SMART”とも呼ばれるような効果的な目標設定の原則に基づいて、適切な目標設定を行なうのはノウハウが必要な部分もあります。記事では、MBOで目標設定する際のポイントや各職種における目標の設定例等を解説します。目標管理シートのサンプルも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
<目次>
MBOで目標設定する際のポイント
MBO(目標によるマネジメント)は、字の通り、ゴールとなる“目標”を中心にマネジメントを行ないますので、従って、適切な目標を設定することが非常に重要です。
適切な目標設定を行なううえで職種に関わらず、「SMART」の原則に基づいた目標を設定することが基本となります。
「SMART」とは5つの英単語の頭文字をとったものであり、効果的な目標設定を行なう原則です。
S:Specific
⇒何のどんな状態を実現すればいいのかが「具体的」に特定されている
M:Measurable
⇒ゴールが達成されたかを第三者が「測定できる」状態で記載されている
A:Achievable
⇒さまざまな施策や努力により現実的に「達成できる」水準の目標である
R:Related
⇒より「上位の目標達成にリンク」している
T:Time-bound
⇒達成の「納期」が明確に設定されている
SMARTの原則の中でも、いくつかポイントになるところを解説します。
MBOにおける一番大きなゴールは、組織全体の事業方針や経営計画の達成になります。全体の事業方針や経営計画を、部門>チーム>個人と分担していくわけです。
従って、「各個人の目標が達成されればチームの目標が達成するのか?」、同じように「各チームが達成すれば部門が達成できるのか?」「各部門が達成すれば組織全体の目標が漏れなく達成されるか?」という、上位の目標に紐づく“R:Related”という視点が重要です。
また、職種によっては、“M:Measurable”という視点が大切になる場合もあります。営業やマーケティング部門等は、目標は数値になることが多く、「測定できる」という原則は容易に実現できるケースが多いでしょう。
一方で、管理部門や個人の成長目標等は、数値による目標設定が難しいこともあります。しかし、達成を支援する、また、評価制度等ともリンクさせるうえでは、本人と上長が客観的に目標達成度を共有できる表現で設定する必要があります。
従って、管理部門や成長目標においても、「○○件の減少」「○○%増加」等のように具体的な数値として定量化する、また、数値が難しい場合でも、「達成しているか/していないか」が明確になるように設定します。
「○○を強化する」「○○を意識する」「○○を実践する」といった表現は、客観的に「達成しているか/していないか」が明確になりませんので、目標設定としてはNGです。
後は、目標達成度と人事評価をリンクさせるのであれば“A:Achievable”の視点に関して、全社で難易度を揃えることも必要です。
目標管理シートのフォーマット例
MBOで設定した目標は「目標管理シート」で管理していきます。目標管理シートは、目標達成までのプロセスを明確にして、進捗や達成度を管理・評価するものです。
上司は、メンバーの目標管理シートを基にしながら、定期的にレビューすることで、目標達成に向けたサポートを行ないます。
目標管理シートの形式は、WEB上のツールでも、紙でも、excelでも、形式は何でも良いのですが、下記のような基本的な項目を押さえておくことが重要です。
<目標管理シートの基本項目>
- 目標
- 評価基準(人事考課と連動させる場合には、どれぐらいの達成度でどういう評価になるか?を明確にしておく)
- 進捗の把握方法(“期首に設定して、期末が閉まった後に振り返る”ような運用になるとMBOの効果はあがりません。日常の中で進捗が把握され、上司-部下のmtgでも日々取り上げられるような状態である必要があります)
- 目標達成のための計画
- 結果
- 振り返り(自己評価)
以下は目標管理シートのサンプルです。参考にしてみてください。
<目標管理シートのフォーマット例>
氏名: 所属: 役職:
目標期間:yyyy/mm/dd or ○期 第1四半期
◆目標と評価基準・進捗の把握方法 目標1: 目標2: 目標3: ※週報で目標対比の進捗状況、翌週の実施施策と実績を報告
◆目標達成の基本計画 目標1の達成施策:
目標2の達成施策:
目標3の達成施策:
◆結果
◆振り返り
◆上司からのフィードバック |
目標設定シートの書き方<職種別9選>
繰り返しになりますが、MBOでは「SMARTな目標設定」と「目標達成のための具体的なアクション」を記載することが大事です。9つの職種別に、目標と目標達成アクションの事例を紹介します。
営業職
営業職は、さまざまな職種がある中でも、目標が“数値”としてはっきり設定されることが多い職種です。一般的には、売上、粗利、受注件数等を目標として設定することになります。具体的アクションは、数値目標を達成するための手段を記載することになります。
<目標>
リピート契約を10件、総額800万円を受注する
<目標達成のための具体的アクション>
・毎週開催される自社の相談会にてヒアリングを実施し、3件/週の商談につなげる
・過去の名刺から休眠顧客リストを作成して、テレアポを実施することで商談を20件生み出す
・最低5件/月の新規顧客を訪問する
事務職
事務職は目標を数値化することが難しい側面があり、定性的な目標になりがちです。しかし、目標設定では“S:Specific”“M:Measurable”の原則を守ることが重要です。
通常のオペレーションを動かすのではなく、“どんな改善をするのか”といった視点で目標設定すると良いでしょう。
<目標>
1Q(4〜6月)の終わりまでに運用マニュアルを作成して関係メンバーに周知。受発注業務のミスや漏れをゼロにする
<目標達成のための具体的アクション>
・ミスが起こりやすい作業のピックアップと対策の考案(メンバーとミーティングを実施)
・受発注業務のフォーマットを見直し、毎週の発注業務で必ずダブルチェックを行なう
・運用マニュアル作成後、実際に業務で運用して、改善点を洗い出しブラッシュアップする
販売職
販売職は、営業職同様に結果が数値としてはっきり表れやすい仕事です。そのため、目標では、明確な数値を記載して、数値目標に対するアクションを記載するのが効果的です。
ただし、営業職と比べると個人の努力で結果を出すことが難しい側面もありますので、販売率や顧客満足度、リピート率等で目標を設定することもあるでしょう。
<目標>
既存会員へ情報発信(メルマガ、Twitter等)を毎日行ない、今期最終月までに○月対比で来店数を10%アップさせる
<目標達成のための具体的アクション>
・○月いっぱい会員顧客への発信ネタを毎日考え、一日10個以上ストックしておく
・競合店舗のメルマガに登録、Twitterアカウントをフォローして、発信内容をチェックする
企画・マーケティング職
企画・マーケティング職の場合、営業職と同じように問い合わせ数等の数値目標が設定されることもありますし、企画やプロジェクトのリリース等で目標設定することもあるでしょう。
<目標>
企業公式Twitterアカウントを開設し、2Q(7〜9月)の終わりまでにフォロワー数2,000人を達成する
<目標達成のための具体的アクション>
・毎日10回、自社のキャンペーン情報やお役立ち情報を発信する
・競合企業のTwitterアカウントをフォローし、発信情報を確認する
・競合企業のTwitterアカウントをフォローしているユーザーを探し、毎日10〜20アカウント程度フォローする
人事部門
人事部門において、採用は数値での目標設定が比較的しやすい仕事ですが、教育や労務、評価等の仕事は事務職と同様に数値での目標設定が難しい側面があります。
事務職と同じように、業務の効率化、時間生産性の向上、社員のエンゲージメントスコア等で数値や明確な目標設定を行なっていきましょう。
<目標>
1Q(4〜6月)の終わりまでにピアボーナスツールを導入し運用を開始させる。ツールの利用状況として社員の80%の利用率を達成させる
<目標達成のための具体的アクション>
・ピアボーナスツールをいくつか資料請求し、比較検討する
・ツールの活用方法や運用の意義を伝える社内説明会を開催し、制度を浸透させる
ITエンジニア
ITエンジニアは数値目標を設定することが難しく、スキルの獲得やプロジェクトへの貢献等を目標にすることが多くなるでしょう。
<目標>
今期末までにPythonを習得し、Pythonが絡む案件を2つ担当する
<目標達成のための具体的アクション>
・動画学習サービスに登録し、セミナーに参加する
・Pythonの勉強会に毎週末欠かさず参加して、実際にコードを書く練習を積む
クリエイティブ職
会社によっては、関わるプロジェクトの売上を貢献度に応じて配賦する等して、貢献粗利等を目標設定する場合もありますし、事務職等と同じように効率化や改善目標を設定する場合もあります。
<目標>
1Q(4〜6月)の終わりまでに原稿の校正体制を整える。校正作業を依頼するスキームを組み、原稿の誤字脱字によるクレーム発生件数をゼロにする
<目標達成のための具体的アクション>
・校正マニュアルや原稿チェックリストの作成
・外部の校正メンバーのアサインと教育を行なう
コンサルタント
コンサルタントは、営業や販売職と同じように数値目標を明確に設定しやすい職種です。
<目標>
既存クライアントでの追加受注○万円を獲得する
<目標達成のための具体的アクション>
・毎月新しい施策を3つ以上クライアントに提案して、来期末までに、9施策のうち3施策を実行してもらう
・施策のアイデアになりうる情報のキャッチアップ(業界紙、WEBサイト、有料メルマガ、セミナー等)
・施策提案能力アップのために、関連した書籍を3冊以上読む
管理職
管理職は、人を動かして組織の目標を達成させる仕事です。担当組織の役割にもよりますが、企業方針や事業計画に直結する数値目標を持つことが一般的です。
<目標>
○○部門の粗利目標7,000万円を達成する
<目標達成のための具体的アクション>
・大口の取引先である●●●株式会社の前年対比売上高を5%以上高める
・優秀なメンバーのアサインと、そのメンバーが抱える既存案件を他に振り分ける
まとめ
BOは、企業の全体目標を部門・個人でどう役割分担していくのかを明らかにして、社員一人ひとりが発揮する力の方向を揃える、また、ゴールを明確にすることで、社員の自走を促す効果があります。
「目標」によってマネジメントするわけですので、MBOにおいては「目標設定」が非常に重要です。適切な目標設定を行なうためには、「SMART」の原則を適用することが有効です。
設定した目標は、目標管理シートで管理して、目標と測定方法、また目標達成の基本計画を上司-部下で共有していきます。MBOは“期首に設定して、期末に振り返る”ような運用では効果を発揮しません。
目標管理シートを基に、日常のマネジメントにおいて、設定した目標と現状、計画した施策の実行状況、効果の振り返り、目標達成に向けた次の施策検討等のPDCAを回していくことが重要です。