なぜマネジメント研修は必要か?研修の目的と実施のポイント

2020/09/16

「プレイヤーとして高い実績を上げていたにもかかわらず、管理職に昇格させたら思うような成果を上げられず苦戦している……」というケースは決して少なくありません。いわゆる“名選手、名監督ならず”の状態が生じるのは、プレイヤーとして成果を上げるためのスキルと管理職として成果を上げるためのスキルが、大きく異なるからです。

 

日々の業績をつくり出し、次世代の人材を育てるミッションを背負った管理職のマネジメントスキルは、組織の現在と未来に大きく影響します。従って、管理職のレベルを高めるため、現場での育成とマネジメント研修は組織にとって欠かせないものです。記事ではマネジメント研修で扱うべき内容や効果的な学習方法を解説します。

<目次>

マネジメント研修を行なう目的とは?

マネジメントはよくリーダーシップと比較されます。それぞれさまざまな定義はありますが、最もよく知られたものとしては、

 

リーダーシップ   :方針やゴールを指し示し、鼓舞する

マネジメント  :ゴールまで到達させる

 

というものです。組織において、マネジメントを担うのが管理職であり、管理職に期待されるマネジメントとは「組織を目標まで到達させる」ことになります。つまり、管理職にマネジメントスキルがなければ、組織として立てたさまざまな目標や施策は「絵に描いた餅」で終わってしまうということです。しかし、プレイヤー時代にも“セルフマネジメント”能力は身に付いているはずなのに、なぜことさら管理職のマネジメント研修が必要なのでしょうか?前提となることですので、マネジメント研修の主な目的2点を確認しましょう。

 

 

マネジメントスキルが組織の目標達成を握っている

管理職の役割は、立てられた目標に組織を到達させることです。立てられた目標が“余裕で達成できるものであり、何の工夫や努力も必要ない”ということであれば、管理職のマネジメントスキルはさほど必要ではないでしょう。

 

しかし、現実の目標は“工夫や努力を重ねて何とか達成できる”ものであり、今ある人手や使える費用等のリソースもぎりぎりであることも多いでしょう。だからこそ、目標と現状のGAPを埋めるための手立てを考え、不足するリソースをどう調達して、どうやり繰りするかというマネジメントスキルが問われるわけです。

 

また、管理職のマネジメント範囲にはメンバーも含まれます。管理職は、他人の力を動かして、組織の成果を上げる仕事です。メンバーと信頼関係を築き、強みや能力を生かし、モチベーションを高めることで、組織は目標達成へと近づきます。

 

つまり、管理職のマネジメントスキルが組織の目標達成、生産性アップの鍵を握っているのです。また、管理職にとって組織の目標達成と並んで重要な仕事が人材育成です。次世代のリーダー、管理職となる人材を現場で育てることができれば、組織の中長期的な成長も盤石なものとなるでしょう。

 

管理職のマネジメントは組織にとって短期の目標達成、中長期の成長、双方に大きな影響を与えるからこそ、重点的に研修を行なって育成すべきものなのです。

 

 

マネジメントスキルはプレイングスキルとは違う

マネージャーや管理職に求められるマネジメントスキルは、プレイヤー時代に求められた能力やセルフマネジメントスキルとは異なります。

 

なぜなら、プレイヤー時代の能力やセルフマネジメントとは、基本的には「自分を動かして成果を上げる」ためのものです。しかし、管理職に必要なマネジメントスキルとは「他人を動かして成果を上げる」ためのものです。

 

従って、より俯瞰して計画を立てたり状況を把握する力、進捗を管理する力、また、メンバーと信頼関係を作る力、的確な指示を出したり報告を受ける力、褒めることや叱ることを通じて育成する力、メンバーの強みや能力を把握して仕事を割り振る力等、これまで求められてなかった能力が必要とされます。

 

だからこそ、新たに管理職となる人材には、役割の変化をしっかりと伝え、そして、必要となるマネジメントスキルを教えることが大切です。

マネジメント研修で教える内容とは?

マネジメント研修の内容は、対象となる管理職の役割や企業によってもさまざまですが、管理職に必要となるマネジメントスキルは「カッツ理論」を1つの土台として考えると分かりやすいです。

 

 

カッツ理論とは?

カッツ理論は、米国の経営学者ロバート・L・カッツ氏によって提唱された考え方で、「ビジネスパーソンに必要な能力は大きく3つに分けることができ、階層によって求められる能力も変わってくる」というものです。

3つの能力 具体的なスキル
テクニカルスキル 実務を行なうスキル

Ex)ビジネスマナー、時間管理、タスク管理、商品知識、語学力、情報収集力、技術力、計画力…

ヒューマンスキル 人間関係を作り、人を動かすスキル

Ex)コミュニケーション力、ヒアリング力、交渉力、説得力、ファシリテーション力、コーチング…

コンセプチュアルスキル 抽象的な概念を扱うスキル

Ex)クリティカルシンキング、ラテラルシンキング、ビジョンメイキング、ビジネスモデル構築…

テクニカルスキルとは業務知識や業務遂行能力であり、職種を横断して必要となる基礎的なビジネススキルに加えて、営業であれば「商品知識やヒアリング項目」、会計であれば「経理・財務知識」、エンジニアであれば「プログラミング知識」等が該当します。

 

ヒューマンスキルは対人関係能力のことで、部下とのコミュニケーションや動機付け、社内外における交渉力、調整力等です。

 

コンセプチュアルスキルは、物事を概念化して捉えたり、抽象的に考えたりする能力であり、ビジョンを示して組織を鼓舞したり、ビジネスモデルや戦略の勘所を押さえたりといったところで必要な能力です。

 

一般的に、プレイヤー時代に成果を上げるために必要なのは、大半がテクニカルスキルです(営業や販売の場合には、顧客向けのヒューマンスキルももちろん必要です)。

 

そこから新任管理職に上がると、「管理職としてのテクニカルスキル(計画立案や数値管理等)」と「管理職としてのヒューマンスキル」が必要になってきます。

 

そこから、幹部候補・上級管理職になっていくと、ある程度のテクニカルスキル・ヒューマンスキルを身に付けていることは前提として、コンセプチュアルスキルの重要性が増していきます。

 

<カッツの理論:階層に応じて必要となるスキルの違い>

 

 

研修で教える内容とは?マネージャーのレベル別に紹介

カッツ理論を基に考えると、同じ管理職でも経験によって必要な能力の比重が変わってきます。従って、管理職向けのマネジメント研修を考えるうえでは、対象となる管理職のレベルに応じて研修内容を考えることが重要です。

 

・新任管理職

新任マネージャーには、「管理職としてのテクニカルスキル(計画立案や数値管理等)」と「管理職としてのヒューマンスキル」を教えることが大切です。プレイヤー時代にもテクニカルスキルやヒューマンスキルは身に付けていますが、管理職として必要なスキルは役割の変化に応じて変わってきます。

 

たとえば、テクニカルスキルである「数値管理」や「進捗管理」も自分1人の仕事を対象としたものではなく、組織全体のタスクを重要度も付けながら動かしていくものになります。また、ヒューマンスキルも、プレイヤー時代は、顧客や同僚、上司に対しての関係構築や交渉・説得等でしたが、管理職になると部下を対象とした関係構築、ファシリテーションやコーチング、指示命令や報連相を受けるスキルが必要となります。

 

<新任管理職のマネジメント研修で盛り込む内容>

1.マネジメント層としてのマインドセット(プレイヤーとの役割の違い、企業への貢献の仕方、求められる成果等)

2.管理職としてのテクニカルスキル(目標設定、進捗管理、数値管理、PDCA、ロジカルシンキング等)

3.管理職としてのヒューマンスキル(部下からの見られ方、褒め方・叱り方、指示の出し方、報連相の受け方、ファシリテーション、コーチング等)

 

研修対象者がテクニカルスキルをある程度習得している場合は、コーチングやファシリテーションといった「ヒューマンスキル」の比重を大きめにすると良いでしょう。

 

・中堅管理職

中堅クラスの管理職は、理想としてはテクニカルスキルやヒューマンスキルを身に付けていることを前提にして、徐々にコンセプチュアルスキルを身に付けていく段階です。ただし、現実的には管理職としてのテクニカルスキルやヒューマンスキルがすべて身に付いているということはあまりありません。

 

また、管理職となると、急激に周囲や上司からのフィードバックが減る中で、悪い意味で緊張感がなくなってきたり、マンネリ化が起こりやすかったりするのも中堅管理職の時期です。

 

従って、中堅管理職を対象とした研修は、対象者の成長課題に合わせて、大きくは3つの内容を取り扱っていくことが望ましいでしょう。

 

<対象の成長課題に応じた中堅管理職向けのマネジメント研修>

1.テクニカルスキルの補強(大きくは、計画立案やPDCAの精度に課題がある、もしくは数値管理や進捗管理に課題があることが多いでしょう)

2.ヒューマンスキルの補強(部下との信頼関係を築けていない、褒める・叱ることができない、ファシリテーションやコーチングで部下の力を引き出せないといった課題が多いでしょう)

3.マインドセット(360度評価を踏まえた内観とキャリアプラン等、現状を見つめなおし、自分自身の殻を破るような内容が良いでしょう)

 

・上級管理職

上級管理職になると幹部候補として、1つの職種やセクションだけではなく、部門全体や事業等を幅広くマネジメントして、短期的な業績と同時に、中長期的な視野で方針や施策を立案・実行していくことが期待されます。

 

従って、経営幹部候補として必要となる新たなテクニカルスキルの習得とコンセプチュアルスキルを磨くことが求められます。

 

<上級管理職向けのマネジメント研修>

1.経営に求められるテクニカルスキル(戦略立案、マーケティング、アカウンティング等)

2.コンセプチュアルスキル(高度な意思決定、クリティカルシンキング、ラテラルシンキング、ビジョンメイキング)

 

マネジメント研修を効果的にする「学び⇒実践⇒学び」のサイクル

管理職としてのマネジメントスキルは、座学の研修で身に付くものではありません。管理職の成長が何から得られるかを示した「7:2:1の法則」と呼ばれるものがあります。経営コンサルタントであるマイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーが、管理職を対象にした調査を行なった結果、「管理職としての成長は、70%を仕事上の経験から学び、20%を先輩・上司からの助言やフィードバックから学び、10%を研修等のトレーニングから学ぶ」ということが分かったのです。

 

つまり、管理職としての成長は、主に現場での体験から得られるのです。「7:2:1の法則」を踏まえて、管理職を対象としたマネジメント研修には大きく2つの役割があります。1つは「実践する前に体系を学ぶことで、実践の道しるべを得ること」、もう1つは「現場での体験を振り返って、今後に使える生きた知恵として整理すること」です。

 

マネジメント研修が2つの役割を果たすことで、「仕事上での経験」がより有意義なものとなり、成長が加速されます。

 

2つの役割のうち、前者の「体系を学び、実践に繋げる」ということは多くの研修で行なわれていますので、詳細な解説は割愛します。ポイントは、「現場での実践」を前提に研修内容と現実の職場とのブリッジングをちゃんと行なうこと、研修後に職場で実践する行動を明確にして実践をフォローすることの2つです。

 

一方で、研修設計において意外と見落とされがちなのが、2つ目の「現場での体験を振り返って、生きた知恵として整理する」プロセスです。これは「コルブの経験学習」モデルのフレームワークを軸として考えることがおすすめです。

経験学習モデルは、日常での経験を生きた学びとして身に付けるためのサイクルを「経験 → 省察 → 概念化 → 試行」というサイクルで示したものです。

 

1.経験(Concrete Experience)・・・具体的な経験をする

業務や活動の中で具体的な経験をするという段階です。前段の研修で学んだ内容を、職場で実行しようとすると、成功・失敗、双方の経験をすることになります。なお、経験の段階では、主体性を発揮して自分で考え決めて行動したことほど、得られる「気づき」が多くなると言われます。

 

2.省察(Reflective Observation)・・・経験を多様な視点から振り返る

いわゆる“振り返り”です。まずは経験した具体的な内容を書き出して思い出すところから始まります。そのうえで、経験して良かったこと、悪かったこと、その時に感じたこと、狙いとのギャップ等を振り返り、背景や原因、理由を探っていきます。

 

3.概念化(Abstract Conceptualization)・・・次に生きる教訓にする

省察の段階では、個別の経験に対する考察です。「何を学べるか?」「次にやるならどのようにするか?」「より上手くやるにはどうしたら良いか?」といった問いを通じて、将来の自分や似た状況で応用できるように学びを概念化します。考えるだけではなく、言語化することで整理は進みます。

 

「概念化」は抽象化して学びを抽出するというステップになるため、経験学習の中で最も難しいステップです。従って、「省察 ⇒ 概念化」のステップを、講師のファシリテートや受講者同士のディスカッションを通じてスムーズに進めることが、マネジメント研修の2つ目の役割です。

 

4.試行(Active Experimentation)・・・新しい場面で実際に試してみる

概念化で得た学びを、再び職場に持ち帰って実践します。次はより上手くやれるようになるでしょう。必ずしも成功するとは限りませんが、問題ありません。成功するにしても、失敗するにしても、次の新たな「経験」を得たわけで、再び経験学習モデルの最初に戻って、サイクルを繰り返していきます。

まとめ

管理職のマネジメントスキルは、社員のモチベーションやパフォーマンス、そして、組織の目標達成に大きく影響します。一方で管理職のマネジメントスキルは、プレイヤー時代に成果を上げるためのセルフマネジメントとは異なる能力であり、だからこそマネジメント研修が必要となります。

 

一方で、管理職の成長は職場での経験が重要です。だからこそ、マネジメント研修は、職場での経験をより効果的なものとするために、「体系を学びことで、実践の道しるべを得る」、「現場での体験を振り返って、生きた知恵として整理する」という2つの役割を果たすことが大切です。

 

上記を踏まえると、通常のマネジメント研修は、研修1回あたりの時間を長くするよりも、タイムスペースラーニングの考え方を用いて、「学び ⇒ 実践 ⇒ 学び ⇒ 実践 ⇒ 学び……」というサイクルを回す継続教育が効果的です。

 

従来までの集合研修では難しかった部分もありますが、オンライン研修の浸透により継続教育を実施するハードルは非常に低くなりました。記事の内容を参考に、ぜひ効果的なマネジメント研修の確立に取り組んでください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック 取締役 HRドクター 編集長

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。 7つの習慣R認定担当インストラクター、原田メソッド認定パートナー、EQPI認定アナリスト等

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