近年はキャリア自律が謳われる中で、従業員のキャリア開発に対して、企業が支援したりアドバイスしたりするケースも増えています。記事では組織が従業員のキャリア開発に取り組む7つの方法と注目されている理由や必要性、具体例を解説します。
<目次>
- キャリア開発とは ?
- 企業がキャリア開発支援に取り組むメリット
- キャリア開発支援における7つの方法
- キャリア開発を行なった事業例
- 従業員のキャリア開発を支援する際の注意点
- キャリア開発に関するよくある質問
- まとめ
キャリア開発とは ?
まずはキャリア開発の意味や重要とされている背景を、個人と企業、2つの視点から解説します。
キャリア開発の意味
キャリア開発とは、職業経験や能力を中長期的な視点を持って開発することです。個人の視点で見ると、ライフプランの一部であり、キャリアプランの設計とほぼ同義です。
企業としては、これまで従業員のキャリア開発はさほど考えられていなかったテーマですが、時代変化のなかで従業員のキャリア開発支援が注目されているのも事実です。
いまキャリア開発が重要となった背景
個人の視点からすると、現在は自分のキャリアを真剣に考える必要がある時代です。必要性が生まれた最大の要因は終身雇用が崩壊して、年功序列もほぼ崩れたことです。
過去は、新卒で就職すると企業内でキャリアが完結(終身雇用)することが多く、目の前の仕事で成果を上げることに集中すれば、キャリアは企業側が勝手に考えてくれました。しかし、現代では企業の経営破綻や企業や事業のM&Aも当たり前となっており、企業が個人のキャリアを保証してくれる時代は終わりました。
結果として、転職が一般化し、雇用形態も正規雇用以外にフリーランスや副業などの選択肢もあります。さまざまなキャリアを考えられる時代であり、だからこそ考える必要がある時代といえます。
企業側からしても終身雇用を約束できない状況で、メンバーのキャリア自律を支援する必要性が出てきています。同時に、転職が一般化したなかで、優秀層に対してはキャリア開発をサポートするとともに、描いたキャリアプランと自社で得られるキャリア機会を重ね合わせることで、モチベーション向上や定着・引き留めにつなげたい狙いもあります。
企業がキャリア開発支援に取り組むメリット
企業がメンバーのキャリア開発に取り組むのは、おもに3つのメリットがあります。
- モチベーション・生産性の向上
- 適材適所による組織の活性化
- 人材の引き留め
モチベーション・生産性の向上
キャリア開発をサポートすることにより、メンバーが自らのキャリアプランを描き、仕事に意味づけすることで内発的動機付けがもたらされます。
ミッションやビジョンによってもたらされる意味づけとはまた違う側面から「自分の将来・キャリアにとってこういう意味がある」となれば、主体性や成長意欲の向上も期待できるでしょう。モチベーションが高いメンバーが増えれば、個人と組織の生産性が向上し、企業の目標達成や成長につながります。
適材適所による組織の活性化
キャリア開発を支援するなかで、メンバーそれぞれが自分の強みや価値観に気付き、キャリアプランに基づいてジョブクラフティングしたり異動要望を出したりすることは組織の適材適所や活性化につながります。
人材の引き留め
メンバーのキャリア開発は離職防止・引き留めも期待できます。前述の通り、描いたキャリアプランと自社で得られるキャリア機会を重ね合わせることで内発的動機づけがもたらされます。
少子高齢化に伴って労働人口が絶対的に減少し、とくに優秀層は取り合いとなっているなかで、優秀人材の引き留めは企業にとって重要な意味を持ちます。
キャリア開発支援における7つの方法
組織が従業員のキャリア開発を支援する上では、大きく以下7つの方法があります。大きく分けると、キャリアを描く部分で3つ、描いたキャリアの実現を支援する部分で4つです。
<キャリアを描く部分>
- キャリアデザイン研修の実施
- キャリア面談の実施
- 外部キャリアコンサルタントの活用
<描いたキャリアの実現を支援する部分>
- 異動希望制度などの導入
- ジョブローテーションの実施
- 副業や兼業の承認
- 在宅勤務等の導入
キャリアデザイン研修の実施
キャリアデザイン研修を行なうことで、メンバー自身がキャリアと向き合う機会を作れます。自分の強みや数年後のキャリアイメージを作成する、またそこに向けたステップの検討を手助けすることで、主体的なキャリア開発につながります。
大事なのは継続して考えることであり、キャリアプラン自体は漠然としたものでも構いません。キャリアデザイン研修で、これからのキャリアをどう描いていくのか、キャリア自律を考えてもらいましょう。
キャリア面談の実施
キャリアデザイン研修はあくまで1対多の場です。キャリア開発に関する個別の悩み解消や希望のヒアリングには1対1のキャリア面談が最適です。
研修と面談、どちらか一方という考え方でなく、組み合わせることでより有効に働きます。メンバーの話を聞くことで、企業側もキャリア開発・キャリア自律支援の改善点が見つかります。
外部キャリアコンサルタントの活用
規模が大きくなると、人事等だけでキャリア面談を実施することは困難になります。リソースが足りない場合は外部キャリアコンサルタントを活用することがお勧めです。
社内でのキャリア面談と外部のキャリアコンサルタントによる面談は一長一短です。外部のキャリアコンサルタントは、メンバーにとって利害関係がないため本音で相談しやすいというメリットがあります。
一方で、社内キャリア面談のほうが自社でのキャリア機会や相手の強み、価値観を踏まえた提案やアドバイスができます。外部・社内をうまく組み合わせることがポイントです。
異動希望制度などの導入
人事異動や配置変えなどもキャリア開発の方法です。異動の自己申告制や社内FA制などの仕組みを導入すると、異動希望を叶えると同時に、メンバーが自分のキャリア開発を主体的に考える機会にもなります。
たとえば、異動希望制度で独自の試みを取り入れているのがクックパッド株式会社 です。クックパッド株式会社では社内留学制度があり、条件を満たすことで他部署の業務を約2ヵ月間体験できるという、“異動”希望のひとつ手前で考える機会が得られる仕組みがあります。
ジョブローテーションの実施
ジョブローテーションとは定期的にメンバーの配置換えを行なうことです。幅広い業務に携わり、異なる業務を経験することで自分の強みや価値観が見えてきます。幹部候補の育成などとしてもジョブローテーションは実施されますが、キャリア開発を考える上でも有効といえるでしょう。
副業や兼業の承認
本業以外の副業へのチャレンジを認めることもキャリア開発の支援となります。例えば第一生命ホールディングスは、約1万5000人の職員を対象に副業を解禁しました。最近では、副業を禁止する場合には明確に禁止理由を提示しないといけないなど、行政でも副業を推進する方向に動いています。
社外でほかの業務を経験することで本業に良い影響が出るケースもありますし、従業員にとっては自分のキャリア開発を進めるためのトライアルにもなるでしょう。
在宅勤務の導入
最近ではテレワークの導入により、家事や介護などと両立してキャリアを支援することも重要です。在宅ワークを推進することで、育児中の女性や遠方社員のキャリア開発を支援できるようになります。
キャリア開発を行なった事業例
ここでは、従業員のキャリア開発支援を実施している企業の事例をいくつか紹介します。
ソフトバンクグループ株式会社
ソフトバンクグループ株式会社はキャリアカレッジというイベントを開催し、社員にキャリアについて考える機会を設けています。イベントをきっかっけに社員がそれぞれキャリア構築に積極的になり、生産性が向上したと言われています。
ソフトバンクグループ株式会社はほかにも、孫正義氏の後継者を発掘・育成するためのソフトバンクアカデミアやソフトバンクユニバーシティという独自の研修制度を設けるなど、従業員のキャリア開発に非常に力を入れている企業の一つです。
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所はGPM(グローバルパフォーマンス・マネジメント)という制度を導入しています。これは事業と個人が連動して目標を立てることによって、メンバーが自発的に成長できるように支援する取り組みです。GPMを導入した結果として、社員一人ひとりが自律してキャリアアップでき、企業の生産性向上につながったとされています。
日本農村医学会
日本農村医学会ではキャリア開発ラダーという制度を導入しています。キャリア開発ラダーとは目標を段階的に設定して、自身を客観的に評価する取り組みです。
キャリア開発ラダーの導入により、能力と経験年数が比例しないことが判明し、参加した看護師それぞれが自身の課題を見つけることができたそうです。
こういった一種の評価制度やキャリアマップなどの仕組みも、従業員にキャリア自律やキャリア開発を考えてもらうきっかけとなるでしょう。
株式会社ティップネス
株式会社ティップネスでは、総合職と専門職でそれぞれ異なるキャリアステップを用意しています。総合職とはチーフや店舗の支配人を目指すコースで、専門職とはインストラクターを目指すコースです。総合職と専門職の間で職種転換も可能で、実際に働いていくなかで自分に合ったキャリアを見つけることができます。
こうしたマネジメントコースとプロフェッショナルコース、複数のキャリアパスを設ける試みは従業員のキャリア開発を考える上でスタンダードな取り組みです。
従業員のキャリア開発を支援する際の注意点
キャリア開発を行なう際に注意するべき点は2つあります。
- メンバーとの信頼関係が重要
- メンバー主体で行なう
メンバーとの信頼関係を築いてから行なう
企業のキャリア開発は、前提としてメンバーが「この企業でスキルを高めたい」と思われるような信頼関係を築いていることが大事です。信頼関係が築かれていなかったり、基本的なメンバーの満足度が担保されていなかったりすると、キャリアプラン研修などは離職を促進することになりかねません。
メンバー主体で行なう
企業目線のキャリア開発になってしまうと、なかなかメンバーの内発的動機づけになりません。例えばキャリア研修やキャリア面談を、はじめから社内でのキャリア構築のみに限定して実施するのはNGです。メンバーの納得度が低くなりますし、企業が前に出過ぎるとメンバーが受け身になってしまいます。
メンバーが目的意識を持って主体的に取り組めるようにキャリア開発を支援することが大事です。優秀人材の引き留めなどの視点では、社内でのキャリア開発を前提にしたいところはありますが、今の時代、無理に社内に引き留めるよりも、社内で機会は提供したうえで、アルムニ採用などと組み合わせてもう一度戻ってきてもらえるようにした方が効果的です。
キャリア開発に関するよくある質問
最後に、キャリア開発に関して抱きやすい疑問を紹介します。
キャリアデザインとの違いは?
キャリアデザインとキャリア開発は類似したものです。基本的には同じ概念であり、キャリアデザインで描いたプランを「どのように実現するか」がキャリア開発になる、もしくは文脈によっては、“描いて実現するまでの取り組み全体”をキャリア開発と呼びます。
キャリアアップとの違いは?
キャリアアップとは経歴を高めたり、社格やポジション・待遇を向上したりするものです。キャリアプランやキャリア開発のなかにキャリアアップが含まれると考えてください。
一方で、キャリア開発はキャリアアップだけに限定されるものではありません。例えばワークライフバランスや育児とのバランス、異なる専門性の開発・追求、異なる職種への挑戦などもキャリア開発の一つです。
キャリアパスとの違いは?
キャリアパスとは、企業が社員に対してキャリアプランの道筋を示したものです。具体的にいうと、企業内で指定の職位に就くためにどのようなスキルや経験が必要か、昇格などの前後関係などを示したものがキャリアパスです。
「このポジションでこういう経験をすれば、次にこういうポジションの可能性が開ける」とイメージするとわかりやすいでしょう。
まとめ
個人にとってキャリア自律の必要性が高まり、企業も終身雇用を保証できなくなった中で、従業員のキャリア開発支援は個人にも企業にもメリットがある取り組みです。
キャリア開発支援を実施する際には、まず研修や面談でキャリア開発を考えてもらう機会を提供し、同時に、異動希望制度やジョブローテーションで実現を支援することが大事です。転職が一般化している中で、キャリア開発の支援は優秀人材の引き留め、従業員のモチベーション向上施策としても意味がある取り組みです。記事を参考にぜひ取り組んでみてください。