2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月より段階的に各制度が始まっています。この改正によって、企業は従業員の育児・介護休業を促す環境整備が求められることになります。
記事では、育児・介護休業法の概要を確認したうえで、2021年6月の法律改正ポイントと、企業が改正を踏まえて準備すべきポイントを紹介します。
<目次>
育児・介護休業法とは?
通称“育児・介護休業法”の正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。育児・介護休業法が制定されたのは1999年で、育児・介護・子の看護をする人の休暇と休業に関する制度を定めたものでした。
そのため、育児・介護休業法の第一条には、育児および家族の介護を行ないやすくするために、所定労働時間などに関する事業主が講ずべき措置を定め、支援措置を講ずることなどによって、上記の労働者における以下の促進を図るとされています。
- 退職せずに済むこと
- 雇用の継続を図ること
- 退職した場合の再就職を促すこと
なお、当初の育児・介護休業法では、主目的として以下の3つを掲げていました。
- 育児および家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援すること
- 育児および家族の介護を行う労働者の福祉を増進すること
- 日本の経済および社会の発展に資すること
改正育児・介護休業法が制定された背景
近年の日本では、少子高齢化にともなう人口・労働力不足にブレーキをかけるために、出産や育児での労働者の離職を回避し、希望に合わせて男女ともに仕事と育児を両立できる社会の実現が急務になっています。
また、女性活躍を推進するうえでは、さまざまな男女格差の解消も必要です。
男女格差のひとつとして、育児分野では、男女の育児休業取得率に大きな差があります。男性の育児休業取得率は令和元年度で7.48%、かつ取得者の約8割は取得期間が1ヵ月未満と、かなり低い水準です。一方、出産にともなって、女性は第一子の出産後に約5割が退職しているというデータもあります。
こうした背景を踏まえて、今回の改正は「男性の育児休業の取得促進」に主眼を置かれています。
改正育児・介護休業法は、育児休業取得を望む男性の「仕事と家庭を両立したい」という想いをかなえることで、男女問わずワークライフバランスのとれた働き方のできる職場環境の実現を促すものです。また、男性の育児休業を取得促進することで、妊娠出産する女性の就業継続も促したいという狙いがあります。
2021年6月の法律改正ポイントまとめ
2021年6月に改正された育児・介護休業法では、男性の育児休業を取得しやすくするために、以下のような施策の創設や要件緩和が行なわれています。
産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設
産後パパ育休は、今回の改正におけるメインの制度です。2022年10月1日から創設されることになります。
産後パパ育休は、原則休業の2週間前までに申請すると、子の出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得可能になる制度です。また、労使協定を締結すれば、休業中でも労働者が合意している範囲での就業が可能です。
育児休業給付(出生時育児休業給付金)の受給が可能になるところも、産後パパ育休制度の魅力です。休業中に就業日がある場合は、就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業している時間数が80時間)以下に該当したときに、給付の対象になります。
産後パパ育休中は、産前産後休業中や育児休業中と同様に、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険保険料)が免除されます。雇用保険は、産後パパ育休中に勤務先からの給与支給がなければ、保険料の負担はありません。
雇用環境の整備や個別の周知・意向確認の義務付け
改正育児・介護休業法では、育児休業を取得しやすい雇用環境整備および妊娠・出産を申し出た労働者への個別の周知・意向確認の措置が企業に義務付けられることになります。
・【1】育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
育児休業と産後パパ育休の申し出が気兼ねなくできるように、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 1.育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- 2.育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置など)
- 3.自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
- 4.自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
・【2】妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
労働者が、女性本人の妊娠もしくは、本人または配偶者の出産の申し出をした場合、以下の周知や意向確認を個別にする必要があります。
- 1.育児休業・産後パパ育休の制度
- 2.育児休業・産後パパ育休の申し出先
- 3.育児休業給付に関すること
- 4.労働者が育児休業・産後パパ育休期間に負担する社会保険料の取り扱い
個別の周知・意向確認は、以下の方法で行ないます。
- 1.面談(オンラインも可能)
- 2.書面交付
- 3.FAX(労働者が希望した場合のみ)
- 4.電子メールなど(労働者が希望した場合のみ)
労働者の申し出に対して、育児休業の取得を遠慮させるような形での個別周知と意向確認は、もちろん認められません。
育児休業の分割取得
今回の改正で、いままでの制度であるパパ休暇(子の出生後8週間以内に父親が育休取得した場合には再度取得可)がなくなります。その代わりに、産後パパ育休(出生時育児休業)と、従来の育児休業の分割取得が可能になることがポイントです。
ただし、産後パパ育休と育児休業制度では、分割取得における申し出のタイミングが少し異なります。まず、たとえば、従来の育児休業制度で分割取得をする場合、1回目と2回目を別に申し出ることが可能です。一方で産後パパ育休を分割取得する場合は、最初にまとめて2回分の申し出をする必要があります。
育児休業取得状況の公表の義務化
常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業などの取得の状況を以下いずれかの方法で、年1回公表することが義務付けられます。
- 1.育児休業等の取得割合
- 2.育児休業等と育児目的休暇の取得割合
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
まず、従来制度の有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件は、以下のように定められていました。
- 1.引き続き雇用された期間が1年以上
- 2.1歳6ヵ月までの間に契約が満了することが明らかでない
- 1.引き続き雇用された期間が1年以上
- 2.介護休業開始予定日から93日経過日から6ヵ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない
2022年4月1日以降は、それぞれ【1】の要件が撤廃されて、【2】だけになります。
ただし、具体的な判断は、育児休業の申し出があった時点で労働契約の更新がないと確定しているか否かによって行なわれる仕組みです。事業主が「更新しない」と明示していない場合は、原則として、「労働契約の更新がないことが確実」とは判断されません。
各改正ポイントの施行スケジュール
2021年6月の法律改正では、先述のさまざまな制度が、以下のスケジュールで施行されていきます。
- 雇用環境の整備や個別の周知・意向確認の義務付け
- 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設
- 育児休業の分割取得
- 育児休業取得状況の公表の義務化
産後パパ育休と有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和については、それぞれの施行時期までに、就業規則の見直しと、必要に応じて労使協定の締結などが必要となります。
育児休業の取り扱いは就業規則への記載が必要
2021年6月の改正育児・介護休業法の準備で最も大切なのが、自社における育児休業の取り扱いについて、就業規則に具体的なルールなどを記載する必要があることです。
就業規則の絶対的必要記載事項では、大きく分けて以下3つの記載が求められます。
- 1.育児・介護休業、子の看護休暇における以下3つの事項
- ・付与要件
- ・取得に必要な手続き
- ・期間
- 2.賃金に関する事項
- ・賃金支払いの有無
- ・通常の就労時と異なる賃金が支払われる場合の計算方法や支払時期 など
- 3.始業もしくは終業時刻の繰り上げ・繰り下げをする場合、それぞれの時刻 など
任意の相対的必要記載事項では、育児・介護期間中の教育訓練や賞与など臨時の賃金などの定めを記載します。
なお、関連する所定外労働、時間外労働および深夜業の制限で、育児・介護休業法の条件より低く、厳しい条件の取り決めをした就業規則の当該部分は無効です。育児・介護休業などに関わる事項を就業規則に記載した際には、就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
まとめ
2021年6月の育児・介護休業法の改正によって、2022年4月より、段階的に以下の各制度が始まることになっています。
- 雇用環境の整備や個別の周知・意向確認の義務付け
- 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設
- 育児休業の分割取得
- 育児休業取得状況の公表の義務化
各企業には、それぞれの開始時期までに、就業規則の見直しや必要に応じた労使協定の締結などが求められます。また、産後パパ育休制度を自社に浸透させるには、ハラスメント対策の教育なども必要でしょう。
男性に対するパタハラが大きく報道されたような事案もあります。労働者がスムーズに育児休業を取得できるようにするために、自社に合った準備や環境づくりを進めてみてください。