経験学習モデルとは?理論と活用ポイント、社内導入時の注意点を解説

更新:2022/07/15

作成:2022/07/08

経験学習モデルとは?理論と活用ポイント、社内導入時の注意点を解説

人材育成は、いつの時代も企業の現在と将来を支える重要事項です。現在は知識労働が当たり前となり、IT化が進んだなかで、社員一人ひとりのパフォーマンスが企業の業績を左右する時代です

 

日常業務から離れたOff-JTや専門スキルのトレーニングはもちろん大切ですが、それと併せて重要なのが、日常業務での経験を自身にとっての気付きや学びとして、次の成長につなげていけるかどうかです。

 

本記事では、経験を気付きや学びとして成長する「経験学習モデル」について、モデルの概略や利用のメリットなどを解説します。日常で学び成長する組織とメンバーを育てたい方はぜひご覧ください。

<目次>

経験学習とは?

経験学習とは、自分の経験を振り返って何らかの気付きや学びを見つけ出し、他の状況に応用することを指し、一連の流れは「経験学習モデル」と呼ばれています。

 

経験学習とコルブの経験学習モデル

実践した経験を振り返って、改善された次の行動をする、そして、また振り返るという「経験学習サイクル」の繰り返しが成長のポイントです。

 

PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を学びと成長に適用するようなイメージです。経験を繰り返して成長していく有効性はご想像のとおりです。

 

「成人の学習に影響する要素は70%以上が仕事上の経験である」ともいわれており、企業の人材開発でも業務経験を成長につなげる経験学習への取り組みが進んでいます。

 

経験学習のプロセスを理論化した概念は「経験学習モデル」と呼ばれ、ディヴィッド・コルブが提唱しました。コルブの経験学習モデルは、」「経験」「内省」「概念化」「実践というサイクルを整理したものです。

 

 

<コルブの経験学習モデル>

コルブの経験学習モデル

経験学習モデル導入のメリット

組織に経験学習モデルを導入するメリットは、大きく3つ挙げられます。

 

一つ目は、社員が気付きを得ることができる点です。
経験学習モデルを導入することで、社員それぞれ日々見落としがちだった気付きを得ることができるようになります。

 

気付きは社員の能力や担当業務における生産性の向上に結びつくだけではありません。別の業務を担当する場合にも、気付きを活かして効率的に行なうことができるなど応用が期待でききます。

 
二つ目は、経験学習モデルは年齢を問わず効果があることです。
経験学習モデルは、経験やポジション、いまの力量に関係なく使えるモデルであり、全社横断的に導入できる学習体系です。

 

そして、最後に企業にとって最大のメリットは、社員が経験学習の習慣を身に着ければ、日常業務すべてが学習の機会となる点です。あらゆる経験が学習機会となることで社員の成長が加速していき、企業の発展にもつながります。
 

経験学習モデルの4要素

経験学習モデルを構成する4つの要素である「経験」「内省」「概念化」「実践」について詳しく説明します。

 

<経験学習モデル 4つの要素>

コルブの経験学習モデル

STEP1:経験

最初のステップである経験は、自身で考えて行動した何らかの具体的な体験です。成功でも失敗でも構いません。

 

なお、経験を効果的にするポイントは、自分で考えて行動することです。何も考えずマニュアルにしたがった行動や上司による指示どおりの動きだと経験の価値は減少してしまいます。

 

また、経験学習は初めて関わったり、経験が浅かったりする業務や分野、また少し難易度が高い挑戦などで、特に効果が高いとされています。例えば、新しい業務に挑戦する、初めてマネジメントに取り組む、新規事業を担当するなどは、特に経験学習が有効に働く場面です。

 

これらの場面では、知識や過去の体験を活かせず、自身の能力を最大限に発揮するためにしっかりと考えたうえで行動します。そうすることで、ステップ2の内省も一つひとつの解釈や意思決定を深く振り返って、成長のきっかけとしやすくなります。

 

ただし、上記のような新しい業務でないと経験学習モデルに意味がないというわけではありません。経験学習モデルはすべての経験に適用できますし、習熟した業務などから新たな気付きを生み出すことも可能です。

 

STEP2:内省

内省は、経験から得られた結果について振り返り考えるプロセスです。成功・失敗を問わずどのような経験をしたのかを整理して、その経験をさまざまな角度から振り返ります。

 

悪い結果だった場合、内省を行なわず放置すれば同様のミスを今後も繰り返してしまうかもしれません。また成功した場合にも、振り返ることでそのポイントを整理して、成功を再現できるようになります。

 

内省は、客観的な事実と主観的な事実を切り分けてとらえることが大切です。客観的な事実は何なのか、それによって生じた主観的な事実(物事の解釈や感情)は何か、そしてどのような意思決定をして行動に移し、最終的な反応や結果に結びついたかを振り返ります。

 

これらから何が成功・失敗の要因だったか、どのようにとらえて行動をすれば良かったか、などを考えて「気付き」や「学び」とします。

 

経験学習に慣れてくると内省と概念化のプロセスを一人で実施することができます。ただ、慣れないうちは、誰かの質問に答えていく形で実施したり、紙に書いていく形で実施したりするのがよいでしょう。

 

例えば、新卒や中途の新入社員などであれば、はじめは上司やOJT担当者が夕礼を通じて経験学習モデルを回し、慣れてきたら日報(日誌)のフォーマットに、経験学習モデルを取り入れていくといった形です。

 

STEP3:概念化

振り返って得た気付きや学びを、さらに他の局面でも利用できるようなに抽象化するプロセスが「概念化」です。

 

経験が失敗に終わった場合は「こうすれば良かったのではないか」、成功した場合は「これが成功の要因だった」といった気付きや学びを、ノウハウや教訓として昇華させます。

 

概念化をスムーズに行なえるようになるためには、多少の思考訓練も必要です。初めのうちは、思考を紙などに書き出して整理しながら進め、概念化の作業に慣れていくといよいでしょう。

 

また、既存の理論やフレームワークを活用するのも効果的です。理論やフレームワークと自らの経験や気付きを照らし合わせて解釈するのです。それによって、自身や周囲にとって有効な「ノウハウ」「教訓」「セオリー」になります。

 

抽象化で確立するノウハウや教訓は、普遍的に使えるものである必要はありません。あくまで自身や周囲が活用できるものであれば結構ですので、「マイセオリー」として考えてみましょう。

 

STEP4:実践

具体的な「気付き」や「学び」を概念化によって抽象化した「ノウハウ」や「教訓」は、この段階ではまだ仮説です。したがって次の経験、他の業務に応用して効果を試すなど「実践」を通じて検証しましょう。

 

実践による試行はノウハウの改善点や確からしさを浮き彫りにするとともに、新たな課題に気付くこともあります。つまり、「実践」が次の経験学習モデルの入り口となる「経験」になり、経験学習モデルがサイクルとして回り始めるのです。

 

実践を効果的にするポイントは、すぐに行動することです。記憶が新しいうちにすばやく実践することで、次の経験学習モデルにスムーズに入ることができます。

経験学習モデル導入時のポイント

続いて、組織に経験学習モデルを導入する際のポイントについて紹介します。

 

導入研修を実施する

経験学習モデルを導入して「日々の業務で経験学習を実践しましょう」といわれても、社員にとっては意味がわかりません。まずは、経験から学ぶことの重要性や経験学習の流れを理解するための導入研修を実施することが必要です。

 

研修では「経験→内省→概念化→実践」のサイクルやそれぞれの役割・やり方を学んだうえで、実際の経験を題材にして、ワークショップ形式で経験学習のやり方を身に着けます。

 

経験学習モデルは誰もが無意識にやっているプロセスですが、少し馴染みの薄い単語も出てきます。難しいものだと誤解されてしまうと導入が進みませんので、わかりやすいレクチャーをできる外部講師を使うこともお勧めです。

 

実践の場を組み込む

経験学習サイクルを促進するためには、日常や教育に実践の場を組み込むことが不可欠です。日常業務で、誰もが経験はしますが、不足しているのは「内省」「概念化」「実践」のサイクルを回す能力と機会です。実践の場として組み込める5つの施策を紹介します。

夕礼

日常における経験学習を効果的にするにはタイムリーさが重要です。「内省」は「経験」から時間が経過しないうちにしないと忘れてしまいます。

 

そこで、日常業務においてお勧めするのが「夕礼」です。その日を振り返って完了するという意味でも、夕礼で経験学習を実践することは最適です。

 

日誌

日誌や日報、週報なども経験学習モデルの定着に活用できます。記入する項目を経験学習モデルのサイクルを意識した設計とすることで、日誌の記入=経験学習モデルの実践となり、社員が自走しやすくなります。

 

経験学習を意識させる設計としては、以下のような設問を盛り込むことが有効です。

 

・今日うまくいったことは何か?
→よりうまくやる、成功を再現するポイントは何か?

・今日うまくいかなかったことは何か?
→もし、もう一度やるならどうするか?

 

「振り返って学びにつなげる」問いを日誌に盛り込むことで、日常を学びにつなげる経験学習が回るようになります。さらに、社員が経験学習の考え方や習慣が身に着いて自走できるようになる点もポイントです。

 

1on1

1on1ミーティングも日誌や日報、週報よりも長いスパンの振り返りに活用でき、経験学習モデルの実践に有効です。

 

経験学習を実践するうえで、日誌や日報など日常の具体的な行動は、比較的難易度が低いのですが、自分自身の内面や価値観に紐づくような部分は自分だけで内省を実践することが難しくなります。

 

特に、自分自身の内面を客観視することに慣れていない社員は、1on1での対話を通じて経験学習を実践することが有効です。

 

自身の経験や内省を上司に説明する過程で思考が整理されて、気付きにつながりやすくなります。また、自分一人では視点が偏りがちになりますが、1on1では上司が自身の視点とは異なる角度からの質問をすることで、新たな気付きや深掘りが実現します。

 

リフレクション研修

1on1よりもさらに長いスパンで振り返りを実施するリフレクション研修も効果の高い取り組みです。リフレクション研修とは、日常業務から離れ、一定期間の仕事や自分の働き方を客観的に振り返って、内省することに焦点をあてた研修です。

 

この研修を受講すると、自身の成長や価値観を自覚したり、また、考え方や行動パターンの課題などが見えてきたりします。新入社員であれば、入社3ヶ月後、1年後、2年後など、節目となるタイミングで実施するとよいでしょう。

 

また、新卒・中途を問わず入社3年、新しい業務に取り組んだり管理職になったりした3年後など、マンネリ化や停滞が起こりがちなタイミングで、業務から離れてしっかりと深く内省するリフレクション研修を活用することも非常に有効です。

 

なお、前者の振り返り研修は、比較的実施の難易度は低いため社内で実施するとよいですが、後者のマンネリ化や停滞を打破するためのリフレクション研修は、しっかりとした内省へと導くために相当の力量が求められますので、外部講師への依頼がお勧めです。

 

ジョブローテーション

短期的な振り返りの習慣、また長期的な振り返りと気付きの指導により経験学習モデルが社内に定着すると、ジョブローテーションが人材育成の効果的な手段となります。

 

ジョブローテーションによる多様な経験が、単に新たな業務を体験するのではなく、しっかりと振り返って概念化しながらマネジメントや経営の能力を身に着けていくことにつながるからです。

 

経験学習モデルの効果に注目した人材育成を主眼としたジョブローテーションは、そのポストで学習できるものに着目して人材を配置します。さまざまな業務を経験するなかで、共通している部分や他の業務における体験から活かせる部分を発見し抽象化する力が鍛えられます。

 

ただし、短期的な業績達成という観点からは、ポストに求められるスキルを持つ人材を配置するジョブローテーションとのバランスが大切です。経験学習モデルに基づくジョブローテーションは、社員の成長を通じ企業に発展をもたらしますが、長期的な施策と考えてください。

 

人事施策と連携させて活用する

経験学習モデルは人事施策との連携によって、さらに活用が進みます。「人材育成」と「評価制度」「ナレッジマネジメント」について説明します。

人材育成

経験学習モデルは人材育成において有効な手段の一つです。人材育成は、業務と切り離したOff-JTだけでなく、OJTに代表されるように現場の各部門においても行なわれるものです。

 

部門や職種を問わず現場の活動における人材育成は、経験学習モデルが非常に有効です。内省と概念化の習慣を社員が身に着ければ、日常業務が学習の機会となりますし、OJTなどもより有効になるでしょう。

 

例えば、営業部門であれば日々の商談に対して振り返りを実施することで、改善点や成功の要因などの気付きがもたらされます。こうした習慣によって社員の成長が加速し、企業全体の成長・発展へとつながっていきます。

 

経験学習モデルを用いた内省と概念化の取り組みを各部門に浸透させ、人材育成の基本的な取り組みとして定着させましょう。

 

評価制度

経験学習モデルを評価制度と組み合わせることで、社員の成長を促すことが可能です。四半期や半期サイクルでの人事評価に経験学習モデルを組み込むことで振り返りの機会とするのです。

 

社員は評価シート内に内省、概念化、実践のサイクルを記述します。評価面談を評価のフィードバックに留めず、評価者がコーチング的なアプローチによって経験学習モデルを動かすことで相手の成長に役立てることができます。

 

ナレッジマネジメント

ナレッジマネジメントと経験学習モデルを組み合わせることで、個々の体験を更に組織の学びへとつなげることができます。

 

経験学習のなかで気付いたノウハウをデータベースに登録したり、ベストプラクティスとして発表の場を設けて社内で共有したりするなどが効果的です。社員の経験を属人化せず、全社で共有するナレッジマネジメントの活用によって、経験学習モデルの効果はさらに高まります。

経験学習をサポートする際の留意点

経験学習を成功に導くためには、上司やOJT指導者などが口頭で質問して、「内省→概念化」のサイクルがうまく回るようにサポートすることが有効です。本章では、経験学習をサポートする際の留意点を紹介します。

 

質問を通じて相手の思考を刺激する

新人や若手の経験学習を支援する際には、質問を通じて相手の思考を刺激することが大切です。意思決定の要因となった価値観や判断基準に気付かせたり、その気付きを深掘りしたり、概念化するサポートをしたりします。

 

例えば、「どうしてそう解釈したの?」「自分のなかで何が起こったの?」「この経験から学べることは何だろう?」「もう一度やるならどうする?」などの問いです。

 

相手は質問を受けて考え、さまざまなことを話しながら自身で整理していきます。その過程で教訓を得ます。よい聞き手として相手をサポートしましょう。

 

H3:一方的にアドバイスをしない

経験学習をサポートする際には、一方的なアドバイスにならないように注意することも大切です。

 

経験学習は自分で考えて学びを得るプロセスです。サポートする側がアドバイスし過ぎると、相手は自身の思考が停止してしまい、経験を深掘りしたり、学びを考えたりするプロセスに悪影響が出てしまいます。

 

正解を教えることはできても、それでは相手の「経験学習する力」は伸びません。相手自身が自分で考えて、気付きや学びを得られるようにサポートしましょう。

 

実践をしっかりと意識させる

経験学習を社内に浸透させて、成長や成果につなげるためには、実践をしっかりと意識させることが大切です。経験学習をサポートする際は、質問を通じて、概念化で得た教訓を「次にいつどこで」実践するのかをしっかりと意識させましょう。

まとめ

経験学習モデルのサイクルや導入における注意点などについて解説しました。

 

組織における人材育成は大きくOff-JTとOJTに分類できます。しかし、経験学習が社員に浸透すれば、日業業務すべてが学びの機会へと変わります。

 

経験学習を実践するには、コルブの経験学習モデルが有効です。「経験→内省→概念化→実践」の各ステップとサイクルを理解することで、経験から学びをつかみ取ることができます。

 

導入後は、日誌や日報、1on1、また、人材育成や人事評価とうまく組み合わせることで、しっかりと定着させていきましょう。
新入社員や若手は上司やOJT指導者などが対面でのコミュニケーションを通じて実践をサポートすることでしっかりと定着させることができます。

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