新人の育成がうまくいかなかったり、部門配属後にトラブルなどが起こったりすると、現場から「新人研修の意味がないのではないか?」「もっとしっかり新人研修をして欲しい」と批判の声が上がることがあります。
記事では、新人研修の目的を再確認しながら、効果的な新人研修を実施するポイントを解説します。
<目次>
新人研修を行なう目的とは?
新入研修は、学生から社会人への意識変革(プロ意識)、組織に馴染む(組織社会化のプロセス)、社会人として必要なビジネスマナーや業務を遂行して成果をあげるための知識やスキルなどを身に付けるといった目的で実施されます。
業務遂行に必要な力には、具体的な知識やスキルとして表現しにくい行動姿勢やポータブルスキルも含まれます。なお、自社の新入社員にどういった行動姿勢やポータブルスキルを身に付けて欲しいかを考える際は、経済産業省が提唱する社会人基礎力を参考にすることも有効です。
社会人基礎力は、言葉の通り、社会人としての基礎的な能力を「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」という3カテゴリ11個に分類したものです。
新人研修は昨日まで学生だった新入社員に社会人としてのマインド、新たな組織への合流、必要な基礎知識を短期間で教えるプロセスであり、内容も多岐にわたります。結果として、知識の詰め込み教育になってしまう傾向もあります。
しかし、現場配属後に求められるものは、行動レベルで身に付けている姿勢や能力であり、ここにギャップが生じやすくなります。新人研修を企画する際には、多岐にわたる姿勢や知識、スキルなどから、「現場配属後にとくに求められるもの」を絞り込んで、重点的にトレーニングする必要があります。
新人研修は意味がないといわれる原因
新人研修は、受け入れた新入社員をスムーズに戦力化するうえで、非常に有意義なプロセスです。
ただし、現場配属後に求められるのは、知識として「しっている」ことではなく、(未熟さや粗さはあっても)「できる」であり、「している」状態となります。また、現場は新人研修が終わった時点で「教わる姿勢」と「教わる技術」が身に付いていることを期待しがちです。
そして、現場の期待値との間に大きなギャップがあると、「新人研修は何をやってるの?」「意味がないよね」と言われがちです。
現場から「意味がないんじゃないの」「もっとしっかり教えて欲しい」と言われてしまう新人研修には、以下のような特徴があります。
- 研修の目的やゴールが明確でない ⇒効果性が低い新人研修となりがち
- マインドセットがされていない ⇒現場が求める“教わる姿勢”が作れていない
- 研修内容が現場で求められることと乖離している ⇒現場の期待とズレがある
- 知識のインプットになっている ⇒“しっている”だけで身に付いていない
- 方法論だけを教えており、やる意味付けがされていない ⇒実践度が下がりがちになる
新人研修を有意義で効果的なものにするポイント
新人研修を、現場から「意味がない」といわれない有意義かつ効果的なものにするには、以下の点を押さえて準備を進めることがおススメです。
現場とすり合わせたゴール設定
新人研修を有意義かつ効果的なものにするには、「研修を終えたとき、新人にどうなっていて欲しいのか?」のゴールを明確・具体的に設定することが大切です。大きく分けて「部門配属時点」と「入社1年後」、2つのゴールを考えることがおススメです。
ゴール設定は、人事部門だけでなく、配属を受け入れる部門側ともしっかりすり合わせることが重要です。
新人研修期間の中で「しっている」だけでなく「できる」「している」状態まで身に付けさせられる姿勢や能力は限定されます。従って、「何を重点的に身に付けさせて欲しいか?」を受け入れ部門側とすり合わせることが大切です。
一般的に、新人研修の内容は以下3つに分類できます。
- 学生から社会人への意識の切り替え
- 社会人に必要な基礎スキルの習得
- 能力発揮に欠かせない組織社会化
また、前述のようにOJTを実施する現場からすると、「教わる姿勢」と「教わる技術」が重要になります。従って、研修を企画する人事部門では、上記の3つのテーマに加えて、教わる姿勢と技術といった大テーマを具体的な研修内容へ落とし込み、さらに重点項目を絞り込んでいくことが大切です。
「当たり前」のレベルを作る期間にする
現場配属後を意識したとき、新人研修は「当たり前のレベル」を作る期間になります。
「当たり前のレベル」とは、「“している”が求められる項目と実践レベル」です。研修期間内に作る「当たり前のレベル」と現場配属後に求められる「当たり前のレベル」にギャップがあると、「使えない新人」「研修の意味がない」と言われてしまいがちです。
もちろん、研修期間だけですべての項目を完ぺきに身に付けることはできません。ただし、以下のような“教わる姿勢”に関しては、研修内で教えるだけではなく、研修の時間以外、朝礼・夕礼・研修前後のコミュニケーション等のなかで「現場配属に求められるレベル」までしっかりと身に付けさせることが大切です。
- 主体性
- 素直さ
- 挨拶
- 報連相
- メモの取り方
など
意図的に余白を作る
新人研修においては、プログラムを詰め込み過ぎず、意図的に余白を作ることも大切です。
プログラムを詰め込まれた状態で数ヵ月の初期研修を過ごしてしまうと、部門配属されたとき、新人は「教えてもらうのを待つ」受け身の姿勢になりがちです。しかし、現場のOJTは、新人研修ほどプログラム化されていないことも多く、新人が受け身で待っている状態では困ってしまいます。
理想的な姿は、主体的に考えて行動・報連相することです。したがって、新人研修内でも、能動的に学ぶ、行動することを身に付けさせる必要があるのです。
そのためには、意図的に「余白」や「隙間」の時間を作り、自分たちでスケジュール設計や思考・行動させることが有効です。
新人研修を改善して効果的にするためのポイント
新人研修の効果を高めるには、以下のポイントを意識することがおススメです。
3つのポイントを押さえた研修計画にする
新人研修の計画作成には、3つのポイントがあります。
新人研修の対象者は、数日前まで学生だった若者です。そのため、新人の早期戦力化には、社会人やビジネスのプロフェッショナルとしての意識の植え付けが欠かせません。
マインドセットをおろそかにすると、入社前に持っていたイメージと現実のギャップ(リアリティショック)に衝撃を受けたり、モチベーションが下がったりして離職する可能性も高まります。
実際にリアリティショックが生じたり、モチベーションが下がったりした後にマインドセットをやることは困難です。そのため、マインドセットは初期研修で行なうことが重要です。
新人研修では、組織や配属現場が求める「当たり前の基準」を、新人の常識にすることが求められます。
具体的には、先述のとおり「しっている」ではなく「している」ことが重要です。主体的な報連相、気配りなどは、特に現場配属後に求められやすいものになりますので、求められるレベルをしっかりと「当たり前の基準」として身に付けさせましょう。
「当たり前の基準」は、設定して終わりではありません。新人研修の講師や現場のOJT指導者などは「当たり前の基準ができているかどうか?」を確認してフィードバックする必要があります。
基準を下回っている場合には、しっかりと指摘しなければなりません。また、基準を超えている場合には、承認することを通じて、当たり前の基準を定着させ、実践レベルを高めることが大切になります。
「当たり前の基準」と重複する部分もありますが、新人研修では「良い癖や習慣」を身に付けることも大切です。習慣化とは、「意識しないとできない行動を無意識に行なえる行動にする」ことです。
人間のすべての行動を100とした場合、意識下で行っている行動はたった3しかなく、じつは無意識下で行なっている行動が97といわれます。従って、初期に良い癖や習慣を身に付けるか、悪い癖や習慣を身に付けるかで、新人の成長や成果は雲泥の差となるのです。
とくに新人研修~入社1年目に身に付けた行動は、ビジネスパーソンとしての癖や習慣になります。新人研修を通して高い基準を身に付けると同時に、成長や成果につながる良い癖や習慣を身に付けさせましょう。
なお、習慣化は「3‐3‐3のステップ」だとされています。
「3-3-3のステップ」とは、3週間、3ヵ月、3年間を意味し、私たちの脳はある行動を3週間継続することで、新たな行動を認識します(習慣化のはじまり)。そして、3ヵ月継続して実行すると「習慣化」され、3年間継続すると完全に定着する(習慣化の終わり)とされます。
新人研修は、約3ヵ月間で行なわれることが一般的です。つまり、新人研修を使えば、3週間と3ヵ月の習慣化を実施できます。新入社員の習慣形成を促すには、習慣化したい行動をしっかりと設定して、チェックシートを使ってしっかりと実施させることが大切です。
新人研修の間で、とくに身に付けさせたい習慣には、以下のようなものがあります。
- 仕事の準備(毎日を準備して始める)
- 振り返り(毎日を振り返って完了・学習する)
- 自己啓発(成長の習慣)
- 挨拶
- 報連相
など
効果的な研修方法の導入と活用
新人研修の効果を高めるために、効果的な学習方法を取り入れることもおススメです。基本的なポイントであり、研修に取り入れやすい方法は、アクティブラーニング、マイクロラーニング、リフレクションの3つです。
研修内容を定着させるために効果的なのが、アクティブラーニングです。学習方法と学んだことの定着率の相関はアメリカ国立訓練研究所が発表した研究結果(ラーニングピラミッド)でよく知られています。
ラーニングピラミッドでは、学習方法と学んだことの定着率について、
としています。
パーセンテージの絶対値は、「定着率」としてそのまま当てはめられるものではありません。
しかし、受け身で学ぶのではなく、能動的に話す/体験する/教えることで学びが定着することはよく分かるはずです。(アクティブラーニングは、ラーニングピラミッドの分類ではグループディスカッション、体験学習、人に教えるの3つを指します)
アクティブラーニングを新人研修に取り入れた例として、ある企業では「新入社員自身が新人研修の講師をする」というプログラムを実施しています。同期に教えるために真剣に学んで教えることで、研修の参加者として聞いているよりも圧倒的に研修内容が身に付くことは想像に難くありません。
そのまま実践することは難しいかもしれませんが、新入社員に「考えさせる」「復習する」「実践する」「体験する」「教える」といった場を設けることがポイントです。
マイクロラーニングは「マイクロ」というとおり、学習内容を小分けにすることで学習の効果性が高まるという考え方です。シンプルに表現すると「180分の学習を1回するよりも、10分の学習を18回やったほうが学びの効果は高い」ということになります。
新人研修は教えなければいけない内容が多く、短期での詰め込み型になりがちなのはやむを得ない部分もあります。ただ、本当に大切であり定着させたい内容は、マイクロラーニングの考え方を取り入れて、小分けにしながら繰り返し学習する、繰り返し復習する、繰り返し実践するといった方法を取り入れることが効果的です。
リフレクションとは「振り返り」の技術です。体験や経験を通じて、人の成長を促進するためには、コルブの「経験学習モデル」に則るのが非常に効果的です。
コルブの「経験学習モデル」では、体験や経験から成長するサイクルを示しています。ポイントになるのは、「省察(リフレクション)」と「概念化」です。
新人研修内でも、日報や夕礼などに「省察」と「概念化」を促進するための問いや項目を埋め込むことで成長スピードが加速します。
振り返りの技術を身に付けると、現場配属後もスピーディーな成長を遂げやすくなるでしょう。そのため、効果的な「振り返りの型(日報などの項目)」を作り、習慣化することが新人研修では非常におススメです。
新人研修では、非常に幅広い内容を習得させる必要があります。社内にノウハウを持つ講師やリソースがない場合、外部の研修サービスを利用することも選択肢です。
特に、第三者から伝えたほうが刺さりやすいプロ意識などの“マインドセット”、初めに正しい型を身に付けさせることが大切な“ビジネスマナー”などは、外部研修が向いているコンテンツです。
一方で、自社製品やサービスの基礎知識や基準作り、習慣化は、社内でしかできません。最近では、外部研修と内部研修(内製化)を組み合わせて研修効果の向上に取り組んでいる企業も増えています。
まとめ
新人研修は、新人のマインドセットを行なったうえで、組織になじませ、業務遂行に必要な基礎知識やスキルを学ぶ大切なものです。一方で、効果的に研修が実施されていないと、部門配属後に「新人研修の意味がない」「もっとちゃんと研修で教えて欲しい」という声が上がりがちです。
効果的な新人研修を行なうためには、研修のゴール設定や当たり前の基準作り、習慣形成など、「教わる姿勢」と「教わる技術」を現場で求められる実践レベルまで高めるための取り組みが重要です。
また、研修効果を高めるためには、アクティブラーニングやマイクロラーニング、リフレクションなどの効果的な学習手法を取り入れたり、外部研修と内部研修をうまく組み合わせたりすることがおススメです。