システム思考とは?ビジネスとマネジメントに生かせるシステム思考の入門と実践

2020/11/10

ビジネスにおいては、さまざまな事象が相互に複雑な影響を及ぼします。その中で、課題解決や施策の検討に際して、「システム思考(システムシンキング)」が用いられることが増えており、徐々に注目を集めています。

記事では、システム思考の概要と、システム思考を組織開発に取り入れる有効性、システム思考を実践する7つのステップ等を入門者向けに分かりやすく解説します。

<目次>

システム思考(システムシンキング)とは?

システム思考とは、お互いに影響しあう要素や構造を一つの「システム」として捉えて、それぞれの要素が与える影響や作用を一つの「図」に落とし込むことで、全体像を把握して、課題解決や施策を検討するための手法です。

 

要素や構造、システムといわれると少し分かりづらいかもしれませんが、現実の世界で「1つの物事が変化すると、他の物事に影響を与える」ということは非常にイメージできるかと思います。

 

例えば、「上司の機嫌が悪いと、部下は上司の顔色を気にするようになり、結果として動きが遅くなる。すると、パフォーマンスが落ちて、ますます上司の機嫌が悪くなる」という一種の悪循環があります。これも一つの「システム」です。

 

「1つの物事が、他の物事に影響を与える」というのは上記のようなイメージです。加えて、「1つの物事が変化すると」という部分にフォーカスして、違う事例を紹介しましょう。

 

ニューヨーク市は、1980年代、アメリカでも有数の犯罪多発都市でした。1994年に検事出身のルドルフ・ジュリアーニ氏が治安回復を公約に市長に当選して行なったのが、「街を綺麗にする」という施策です。

 

壁の落書きや万引き、違法駐車、未成年者の喫煙等を徹底的に取り締まりました。結果として、就任から5年間で犯罪件数は、殺人が約70%減少、強盗が50%減少し、治安が回復します。ダウンタウンも活気を取り戻し、住民や観光客も戻ってきました。ジュリアーニ市長の施策は「ブロークン・ウィンドウ理論」の実践として非常に有名です。

 

事例をシステム思考で説明すると、以下のようになります。

 

<施策が実施されるまでのニューヨーク>

軽犯罪の放置(増加) → モラルの低下 → 住民や観光客の減少 → 街のスラム化、重犯罪の増加

<施策が実施された後のニューヨーク>

軽犯罪の徹底的な取り締まり(減少)→ モラルの向上 → 住民や観光客の増加 → 重犯罪の減少

日本には「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がありますが、これも一種のシステム思考を表したものといえるでしょう。このように現実世界の物事はお互いが繋がりあって、影響を与えあいます。そのため、狭い視野だけで考えていると、「1つの施策が他のところに予期せぬ悪影響を与えてしまい、結果的にうまくいかない」といったことも起こります。

 

物事の全体像を俯瞰で捉え、全体に及ぼす影響等を考えながら最適な施策を打つためのツールがシステム思考なのです。

 

システム思考を組織開発に取り入れる有効性

ビジネス、組織を考えてみると、一つの施策や方針がそれだけで完結することは殆どなく、他の組織や施策や影響を与えることが大半です。例えば…

 

・新たな施策を始める

⇒ (+)施策の効果が出る

⇒ (-)労働時間が増える

⇒ (-)残業代の支出が増える、モチベーションが落ちる

 

・新店舗を出店する

⇒ (+)売上が増える

⇒ (+)全体の仕入れ量が増加することで、価格交渉しやすくなる

⇒ (-)店長やリーダークラスを他店舗から引き抜く

⇒ (-)既存店舗の売上に悪影響を及ぼす

⇒ (-)新店舗の立地によって配送効率が落ちたり、配送への負荷が増えたりする

 

といった形です。だからこそ、システムシンキングを組織に取り入れることは以下のような観点で非常に有効です。

 

 

「物事の繋がり」を見える化する

システム思考を取り入れる最大の利点は、さまざまな要素の繋がりを見える化できるということです。ビジネスや組織で行なわれる施策は、もちろんプラスの効果を狙って行なうものです。しかし、全体を俯瞰しておかないと、1つの施策が、組織全体としてみると結果的に悪影響を及ぼす、ということもあります。

 

従って、実施する施策が、他の物事にどう影響を与えるかを見える化し、リスクが許容範囲内であることを確認する、リスクに対して事前に手を打つ等を行なうことでより良い意思決定や施策を実行できます。

 

 

「見える化」することで、共通認識を持つ

システム思考による見える化は、共通認識を持つうえでも非常に重要です。複数の部門をまたいだり、さまざまな役職の人が参加したりするプロジェクトでは、立場や役職によって重視する視点や考えるレベルが違うことはよくあります。

 

考え方や視点の違いは、より良い結論を出すためには不可欠です。しかし、場合によっては、お互いの考え方や視点を主張する水掛け論になってしまうこともあります。そのときに、議論している施策が、他の物事にどう影響を与えていくかをシステム思考で整理して、繋がりや重要度を見える化することで、理性的な議論やより良い意思決定ができるようになります。

システム思考の概要と入門

 

システム思考の基本を理解するには、先ほどのような「1つの物事の変化(施策)が、他の物事にどう影響を与えるか」という繋がりを意識することが重要です。

 

システム思考では、物事が繋がりあった様子を「複雑性」と表現します。複雑性は物事の繋がりだけでなく、時間的な要素も含んできます。

 

記事内で紹介した事例では、「上司の機嫌が悪い」とき、「部下への影響」はわりと即時、リアルタイムに影響を与えていくでしょう。一方で、ニューヨーク市の事例では、「軽犯罪の減少」が「モラルの向上」や「住民や観光客の増加」に繋がるまでには、数か月から年単位の時間が必要となります。

 

「時間の経過」という概念が入ってくると、頭の中だけで複雑性をイメージすることはどんどん難しくなってきます。影響を及ぼすものが多く、加えて時間の経過も入ってくるような状況を、システム思考では「ダイナミックな複雑性」と表現します。

 

「ダイナミックな複雑性」を持った状況こそが、システム思考が役に立つ状況となります。

 

 

システム思考が有効となる「ダイナミックな複雑性」とは?

ダイナミックな複雑性を持った状況を理解するうえでは、4つの要素を使ってシステム思考を行なっていくことが有効です。

 

1.「目標」…言葉の通り、施策等によって実現したい「目標」です。課題を解決したり、現状をより良くしたりするという「目標」があるからこそ、次の「意思決定と行動」が行なわれます。

 

2.「意思決定と行動」…目標達成に向けた施策の決定と実行です。「意思決定と行動」によって、システム思考の基本となる「物事の変化」が起こることになります。

 

3.「現実の状況」…「意思決定と行動」によって引き起こされる現実の変化です。この変化が、他の物事に影響を与えていくことになります。施策や行動の内容によっては、「行動」が「現実の状況」に変化を与えるまでの時間経過が長くなることもあるでしょう。

 

例えば、“ダムを造る”という意思決定であれば、実際の行動が生じて、“ダムの完成”という状況の変化が生じるまでには数十年もの年月がかかることもあるわけです。

 

4.「副作用」…「現実の状況」によって他にところに生じるネガティブな影響のことを「副作用」と表現します。

 

 

「ダイナミックな複雑性」を理解する

ここでは、ダイナミックな複雑性の理解を深めるために、以下の事例で解説していきます。

 

【事例】

ある激戦区でグループ全体の売上アップを狙う企業が、新しい飲食店をオープンする

 

まず、組織が目指す「目標」として「来期の売上額○○億円」等が設定されます。そして、目標を達成するために、新店舗を作る計画を立てて、実際にオープンの準備を進めます。これが「意思決定と行動」です。

 

そして、物件の契約や新しい人材の採用も終わり、新しい飲食店がオープンします。これが、「目標」と「意思決定と行動」によって生じた「現実の状況」です。

 

図に表すと、以下のイメージです。

もちろん、現実にはオープンして状況が完了するわけではありません。新店舗をオープンして営業を開始すると、さまざまなフィードバックがあります。ここでのフィードバックは、新店舗での売上、集客状況、お客の満足度、といったものです。

 

フィードバックをもとに、再び「意思決定と行動」を行ない、「現実の状況」を改善し、目標達成に少しずつ近づいていくわけです。

現実の物事がこの通りに進めば良いのですが、実際はそう単純ではありません。なぜなら、「意思決定と行動」は、しばしば予想もできない副作用を引き起こすからです。

 

例えば、新店舗のスタッフ採用が思うように進まず人材不足が続き、その結果サービスの質が低下するような可能性もあります。これらの副作用はオープンしてすぐに出る、というよりも少し時間が経過する中で明らかになってくることも多いでしょう。つまり、影響が出るまで時間差がある(これを“時間が遅れた状態”と表現します)。

 

図に表すと、以下のイメージです。

このように「意思決定と行動」の中で、時間が遅れてさまざまな副作用が生じるリスクがあります。すべてを想定して事前に対策することは難しいですが、システム思考を用いて、“時間が遅れた状態”での副作用等もリストアップして可視化することで、事前に大きなリスク要因を対策することができるわけです。

 

 

システム思考とロジカルシンキングの関係

ここで1つ補足として、システム思考とロジカルシンキングの関係を解説しておきます。ロジカルシンキングは、物事を分解して整理したり、因果関係を考えたりするものです。

 

システム思考は、物事Aが与える影響は……物事B、物事Cという因果関係で考えていきますので、システム思考を行なううえで不可欠なスキルがロジカルシンキングだといえます。

 

ただし、ロジカルシンキングは、いわば「点」に分解したり、「線」で繋がりを考えたりする行為になります。従って、ロジカルシンキングで考えた「点」や「線」を、1つの図として落とし込み、「面」として捉えるのがシステム思考だといえます。

システム思考でよく用いられる3つのツール

システム思考で使われる代表的なツールは、以下の3つです。

 

 

ループ図

ループ図は、因果ループ図(Causal Loop Diagram)とも呼ばれます。物事の繋がり(因果関係)を矢印によって見える化し、かつ、「要素Aの変化」が「要素B」に対して、プラスの変化をもたらすのか、マイナスの変化をもたらすのかを表現したものです。

 

要素間の繋がりを見える化するループ図は、システム思考において最も基本となるツールです。ループ図を使うことで、全体像を可視化したり、共通認識を造ったりすることができます。

 

下記の図でいくと、何らかの店舗やサービスに関して、

 

・「評判」が良くなると、「メディアでの紹介」が増える(プラスの因果)

・「メディアでの紹介」が増えると、「新規相談数」が増える(プラスの因果)

・「新規相談数」が増えると、「1顧客にかけられる工数」が減る(マイナスの因果)

・「1顧客にかけられる工数」が増えると、「品質」が高まる(プラスの因果)

・「品質」が高まれば、「評判」が良くなる(プラスの因果)

 

というシステム(物事の繋がり)を見える化したものです。これを見ると、いま評判が良い状態であったり、メディアで紹介され始めたりした状態だとすると、「1顧客にかけられる工数が減って品質が下がる」というリスク(マイナスの因果が発生する)に対して事前に施策を打っておく必要があることが分かります。

 

時系列変化パターングラフ

時系列変化パターングラフは、事業計画やマーケティング等でシステム思考を使う際、システムの中でも主要かつ定量的な要素(売上や市場規模、シェア率等)をグラフにしたものです。英語の「Behavior Over Time」という表現を略して、BOTと呼ばれることもあります。

 

 

時系列という表現の通り、過去・現在・未来の変化を折れ線グラフで表現します。グラフを描く中でもとくに主要な要素については、「望ましいパターン」「現実的なパターン」「思い通りにいかなかったパターン」等、いくつかのパターンを描き分析していきます。

 

人口動態や成長率等のシミュレーションでいくつかパターンが描かれたものがありますが、あれが時系列変化パターングラフのイメージです。

 

システム・ダイナミクス・モデリング

システム・ダイナミクス・モデリングは、先ほどのループ図に時間経過の概念を加えたうえでシミュレーションしていく考え方です。

 

時間的な経過は、ダイナミックな複雑性のところで解説したように、「現実の状況」の変化が物事に影響を与えるには、時間的な流れが存在します。

 

また、例えば、人口と出生数の変化等をシミュレーションしていこうと思うと、「出生数」の大きな分母となってくる「人口」は時間経過する中で変化していきます。さらには、数十年のスパンで考えると、「出生数」という結果が、今度は分母となる「人口数」に影響を与えていきます。

 

こういった時間経過による要素自体の変化や影響の相互作用等も考慮しながら、中長期的なシミュレーションを行なうのがシステム・ダイナミクス・モデリングです。例えば、広告宣伝効果やブランド認知、料金プランの収益性分析等、「定量的な情報」にフォーカスして、分析・シミュレーションしていきます。

まとめ

システム思考は、物事の繋がりを見える化して、「1つの物事を変化させたとき、他の物事にどんな影響が出るか」をシミュレーションするための考え方です。

 

現実社会では、1つの施策が他の物事に予期せぬ悪影響を及ぼしたり、副作用を生じさせたりすることがあります。物事の繋がりが複雑になったり、時間経過の要素が入ってきたりすると、頭の中だけで悪影響や副作用を整理することは困難です。

 

そこで繋がりあった全体像を1つのシステムとして見える化するシステム思考が役立ちます。

 

また、全体像や繋がりを見える化することで、違う視点やレベルで物事を見ている部門や役職が違うメンバーが集まったプロジェクト等でも、共通認識を持って議論や意思決定ができるようになる効果もあります。

 

ダイナミックな複雑性や時系列変化パターングラフ、システム・ダイナミクス・モデリングをビジネスの日常に取り入れることは難しいですが、基本となるループ図が使えるようになるだけでも、議論や意思決定のレベルを高めることができるでしょう。

 

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